撮影スタジオの白い背景紙、レフ板の反射、ローテーブルに置かれたミネラルウォーター、衣装ラックには水着が四〜五着並び、その隣に下着が、その隣にバスローブが順に並んでいる。同じ女性が、同じ照明の下で、衣装を一段階ずつ替えながら撮影される。最初は雑誌の表紙のような立ちポーズ、次第にビキニから無地の下着へ、そして衣装が外れていく。撮影技法はグラビアの手順を踏みながら、最終的に到達する場面は AV のものである。この移行と接続を主題とするのが本項である。グラビア AV(ぐらびああぶい)とは、元グラビアアイドル・水着モデル出身の女優を起用した AV 作品、またはグラビアの撮影手法・誌面感覚を取り入れた撮影スタイルを採用する AV ジャンルの総称である。健全領域から脱衣領域へ移行する女性の固有の訴求と、グラビアの視線設計を AV 演出に転用する手法の、二つの側面で論じられる類型である。
二つの意味
「グラビア AV」という語は、業界の慣用上、二つの異なるが連続する意味で使われている。
第一の意味は、出演者を基準とした分類である。すなわち、AV 出演前にグラビアアイドルとして雑誌・写真集・DVD で活動していた女性が、AV にデビューまたは出演した作品を指す。出演者の前職がグラビアであるという経歴上の特徴で識別される類型で、配信サイトのカタログ上は「元グラビア」「元グラドル」のタグで管理される。
第二の意味は、撮影スタイルを基準とした分類である。すなわち、グラビアの撮影手順(衣装替え、ロケ、海・プール・南国などの開放的な背景、フェティッシュな水着の連続)を踏襲しつつ、本番場面まで含めて構成する AV を指す。出演者がグラビア出身でなくとも、撮影手法がグラビア風であれば「グラビア AV」「グラビアタッチ」と呼称される。両者は重なる場合が多く、グラビア出身の女優にグラビア風の撮影スタイルを適用する作品が、典型的なグラビア AV として認知されている。
グラビアと AV の歴史的関係
グラビアと AV は、戦後日本の性的訴求の市場のなかで、隣接しながら明確に分離した二つの領域として成立してきた。グラビアは雑誌・写真集・水着 DVD という出版・映像系の市場で、性器を直接描かない範囲の性的訴求を担い、AV は性器・性交を含む直接表現の市場として、別系統の流通体制で運営されてきた。
両者の境界は、女優の経歴上で頻繁に交差する。グラビアアイドルとして活動した後に AV へ移行する例は一九九〇年代から多く確認でき、一例として一九九〇年代後半のヘアヌード期以降、グラビアから AV への移行は珍しくないキャリアパターンとなった。逆に AV 引退後にグラビアの仕事に戻る例、AV 現役のままグラビア誌の表紙を飾る例もあり、両領域は人材面で常時往復してきた。
二〇一〇年代以降は、グラビア媒体自体の縮小(雑誌売上の減退、写真集市場の縮小)が進み、グラビアからより安定した収入が期待できる AV へ移行する女優が増えた。同時期にネット配信中心の AV 産業はチャンネル数を拡大し、グラビアでは出せなかった水準の表現を求める層と、グラビアの清楚感を残した撮影を求める層の双方に対応するため、「グラビア AV」を独立ジャンルとして打ち出すレーベルが現れた。
撮影スタイルの特徴
グラビア AV の撮影スタイルは、通常の AV と比較していくつかの差異がある。
第一に、衣装替えの段階性である。グラビアの撮影は、本来一回のセッションで複数の衣装を着替えながら、各衣装ごとに数十カットを撮るという定型がある。この定型を AV に転用すると、ビキニ→ワンピース水着→下着→バスローブ→裸身という段階を、明示的な衣装替えのインターバルを挟みながら撮影する構成になる。視聴者は、グラビアを観るような感覚で、徐々に露出が深まる過程を追体験する。
第二に、ロケーションの選択である。屋内のスタジオ・ホテルだけでなく、海・プール・南国の屋外・露天風呂・温泉宿などの開放的な背景がしばしば採用される。グラビアの「水着+海+夕暮れ」という定番のロケが、AV にも持ち込まれる。
第三に、カメラワークの違いがある。通常の AV はクローズアップ・接写を多用するのに対し、グラビア AV は引き気味のロングショット・全身ショットを意識的に増やす。出演者の容姿そのものを「見せる」ことを優先する誌面写真の感覚を、動画でも維持する設計である。
第四に、性行為場面の扱いである。グラビア AV では、本番場面はやはり含まれるが、その前段階の脱衣・ポージング・ソフトな接触の比重が、通常の AV より大きく取られる傾向がある。視聴者の期待が「いきなり本番」ではなく「徐々に進行する」方向に向けられているためで、構成上もこれを意識した編集が施される。
元グラビア女優の固有性
出演者がグラビア出身であるという事実は、視聴者にいくつかの固有の興奮要素を提供する。第一は、知名度のある女性が AV へ移行するという経歴上のドラマである。グラビア時代から名前を知っていた人物が AV に出演するという情報は、それ自体が視聴の動機となる。第二は、健全領域で訴求を担っていた人物が、脱衣領域に踏み込むという落差である。グラビア時代には決して見られなかった範囲の表現が解禁されるという事実が、作品の固有の訴求点となる。
この訴求は、元グラビア系配信者が二〇二〇年代に成長した個人配信領域とも構造を共有している。グラビア時代の知名度を、より刺激の強い領域での活動に転換するという経路が、複数の業態で並行して機能している。
関連ジャンル
グラビア AV と隣接するジャンルとして、いくつかの関連類型がある。
「IV」(イメージビデオ)は、水着・コスプレなどの着衣で扇情的な映像を撮影するが、性行為を含まない作品形式で、グラビア DVD の延長線上に位置する。グラビア AV と IV の差は、性行為場面の有無で明示的に区別される。「着エロ」は、着衣のまま性的訴求を行う AV のサブジャンルで、グラビア AV と一部重なる撮影手法を持つ。「ロケ AV」は、屋外・温泉などのロケ撮影を主軸とする AV で、グラビアの開放的な背景を AV に持ち込む手法と重なる。
これらの関連ジャンルを横断して、グラビア AV は「グラビアの作法を AV に持ち込む」というメタ構造を共有領域として持つ。出演者の経歴と撮影手法の双方を媒介として、グラビアと AV の境界を継続的に交渉してきたジャンルとして位置付けられる。
関連項目
最終更新
参考文献
- 『アダルトビデオ革命史』 幻冬舎 (2009)
- 『AV 女優の社会学』 青土社 (2013)
- 『アイドル国富論』 東洋経済新報社 (2014)
- 『日本エロ本全史』 太田出版 (2019)
別名
- グラドル AV
- 元グラビア AV
- グラビア系 AV
- グラビア出身女優
- グラビアタッチ AV