公共空間と裸体、見られることへの欲望。それを論じる際には、虚構と現実、嗜好と犯罪の境界線を慎重に引かねばならない。
露出(ろしゅつ)とは、衣服の脱衣・身体の露出を性的興奮と結びつける嗜好、ならびに当該シチュエーションを主題とする虚構作品上のジャンル名の総称である。現実においては、公共空間における露出行為は刑法 174 条の公然わいせつ罪等の処罰対象となりうる行為であり、虚構作品の表現様式と、現実の犯罪行為とは厳密に区別されるべき領域である。
概要
虚構作品上のジャンルとしての露出は、登場人物の脱衣・身体露出が物語上の中核的状況として描かれる作品群を指す。漫画・小説・成人向けビデオ等の各媒体において、独立したサブジャンルとして発達してきた。屋外のシチュエーション、公共施設のシチュエーション、衣装上の露出度の高さ等、舞台設定・装束の細部により多様な細分化を持つ。
合意プレイの文脈では、当事者間の合意のもと、外部に視認されない私的空間で行われる衣装プレイ・脱衣プレイ等が「露出プレイ」と呼ばれる場合がある。これは責任ある実践において、参加者全員の合意・第三者への影響の遮断・法令遵守を必須要件として実施されるものであり、現実の公共空間における他人の眼への露出行為とは厳密に区別される。
現実の犯罪行為としての露出行為は、日本においては刑法 174 条(公然わいせつ罪、6 ヶ月以下の懲役・30 万円以下の罰金)、軽犯罪法 1 条 20 号、各都道府県迷惑防止条例等により規制される。性的目的での反復的露出行動は、米国精神医学会診断基準(DSM-5、2013 年)・国際疾病分類(ICD-11、2018 年)において exhibitionistic disorder(露出症)として、本人または他者に苦痛・障害をもたらす場合に限り疾患として位置づけられる。
本項は専ら虚構ジャンルおよび合意ある私的空間でのプレイに関する文化史的記述に徹するものであり、現実の公共空間における違法行為の肯定・推奨とは無縁である。
語源
「露出」は漢字「露」(あらわす、つゆ)と「出」(でる)からなる漢語で、「あらわに出す」「外に出して見せる」という字義を持つ。古典中国語以来「物事をあらわに示す」一般的意味で用いられた語が、近代日本語の一般語として広く定着した。
20 世紀後半の SM・フェチ文化の発展過程において、当該漢語が性的嗜好を指す術語としても用いられるようになった。1970 年代以降の成人向け雑誌・小説における頻出語として用法が固定化した経緯を持つ。
英語圏で対応する語は exhibitionism である。同語は 1877 年、フランスの精神医学者シャルル・ラセーグ(Charles Lasègue)が学術論文において exhibitionnisme として導入し、その後リヒャルト・フォン・クラフト=エビング『性的精神病理学』(1886 年)において広く知られる医学用語となった。当初は精神医学上の倒錯概念の一として導入された語が、20 世紀後半に当事者コミュニティにおける自己呼称としても用いられるに至っている。
歴史と展開
文学・美術における露出表象
裸体の露出を主題とする表象は、古来世界各地の美術・文学に普遍的に存在する。古代ギリシアの裸体像、ルネサンス絵画における裸体表現、近代以降の美術における裸体研究等、裸体表象は美術史の中核的主題のひとつであった。これらは芸術領域の課題として、性的表象としての露出概念とは別個の系譜を成す。
日本においては、江戸期の春画・庶民風俗画における裸体表現、明治期以降の画家による裸体画の系譜が、近代日本美術における裸体表象の歴史を成す。
サブカルチャーにおける主題化
20 世紀後半の成人向け雑誌・小説・漫画における露出主題の発達は、戦後日本の出版文化の中で進展した。1970 年代以降の SM 雑誌、1980 年代以降の成人向け漫画・同人誌、1990 年代以降の成人向けビデオ等、媒体ごとに独自の露出主題作品群が発達した。
同人誌・成人向け漫画の検索タグ体系では、「露出」は単独タグとして高頻度で出現し、「ノーパン」「ノーブラ」「青姦」「人前」等の隣接タグとの複合検索の起点として機能している。
現代の表象
2000 年代以降の成人向け作品では、屋外シチュエーション・公共施設シチュエーションを舞台とする露出主題作品が一定の比率で制作されている。これらの多くは、撮影が法令に抵触しない場所(私有地・閉鎖時間の施設等)で実施されており、作品の内容と撮影実態の区別を要する領域である。
派生形態と隣接概念
度合いによる類型
露出嗜好の表現の度合いにより、軽度から重度まで多様なスペクトラムが存在する。下着が見える程度の軽度な表現、薄手の衣装による身体線の強調、衣装の一部欠如、完全脱衣等、表現の強度は連続的である。
隣接ジャンル
ノーパン(下着の不着用)、ノーブラ(ブラジャーの不着用)、着エロ(衣装着用状態の性的表現)等が、露出概念の隣接領域を構成する。これらは独立した嗜好領域でありながら、露出嗜好と部分的に重なる場合が多い。
「見られる」志向と「見せる」志向
露出嗜好は、「見られることへの志向」(被視志向)と「見せることへの志向」(顕示志向)の二側面を含む複合的概念である。前者は被視覚化への受動的快楽、後者は他者の視覚への能動的提示を中核とする心理構造であり、両者は重なりつつも理論上区別される。
合意プレイとしての露出
責任ある実践共同体における露出プレイは、参加者全員の合意・第三者への影響の遮断・法令遵守を必須要件として実施される。私有地・予約貸切空間・自宅等、第三者の視覚への露出が物理的に遮断された空間における役割演技として展開される。
法的・倫理的境界
公然わいせつ罪との関係
日本の刑法 174 条は「公然と猥褻な行為をした者」を 6 月以下の懲役・30 万円以下の罰金に処する旨を定める。「公然」とは不特定または多数の者が認識しうる状態を指し、「猥褻な行為」の解釈は判例の積み重ねにより具体化されてきた。一般に、性器の露出を含む性的行為は、公共空間においては当該規定の処罰対象となる。
撮影との区別
成人向け映像作品の制作における露出表現は、撮影現場が公共空間に該当しないこと、出演者全員の合意があること、編集後の作品の流通先が法令の枠内であること等を前提とする。これらの要件を満たさない撮影・流通は、撮影行為自体が処罰対象となりうるほか、出演者の人格権侵害・名誉棄損等の民事責任を生じうる。
近年は AV 出演被害防止・救済法(2022 年)の施行により、出演者の合意・撮影内容の事前開示・契約解除権等が法定された。露出主題作品の制作においても、当該法令の枠内での運用が業界標準として確立しつつある。
関連項目
参考文献
- 『刑法各論(第 7 版)『公然わいせつ罪』』 有斐閣 (2020) — 刑法 174 条の解釈
- 『Psychopathia Sexualis』 Ferdinand Enke (1886) — exhibitionism の医学用語化の起点
- 『性犯罪の精神医学』 金剛出版 (1995) — 性的逸脱行動の精神医学的研究
- 『現代用語の基礎知識』 自由国民社 (2010)
別名
- roshutsu
- 露出プレイ
- 露出狂
- exhibitionism