複数プレイ
参加者の数が一桁増えるごとに、画面の構図そのものが書き換えられる。
複数プレイ(ふくすうぷれい)とは、3 名以上の参加者が同時に関わる性的場面を指す日本の業界用語・俗語である。「3P」「4P」のように人数を冠する数値表記、「乱交」「集団乱交」「乱交パーティー」等の規模・状況による下位区分を持ち、英語圏の group sex / orgy に対応する概念である。本項では用法の整理、業界用語としての展開、文化人類学的考察、現代の派生形態について述べる。
概要
複数プレイは参加者数 3 名以上の性的場面の総称であり、参加者の性別構成・関与の様態によって複数の下位区分に分かれる。日本のアダルトビデオ業界における慣用的区分は次の通り。
- 3P: 3 名(男 1・女 2、または男 2・女 1)
- 4P: 4 名(男 2・女 2、男 1・女 3、男 3・女 1 等)
- 乱交: 5 名以上の集団場面の総称
- 集団乱交: 規模をさらに拡大した形態(10 名超等)
日本の業界における「3P」「4P」表記は、英語の “person” の頭文字を借りた和製語であり、英語圏では同様の数値表記は用いられず、threesome(3 名)・foursome(4 名)等の名詞形で表現される。複数プレイ系作品は、ぶっかけ・寝取られ・痴女等の他主題と複合運用されることが多く、日本のジャンル分類体系における横断的タグとして機能する。
語源
「複数プレイ」の語形は、漢字「複数」(数の多さを指す中性的表現)と片仮名「プレイ」(英語 play の借用、「行為」「ゲーム」「演出」の含意を持つ業界用語)の複合により形成される。日本のアダルトビデオ業界では「プレイ」が性行為一般を指す業界用語として 1980 年代以降に定着し、「3P」「ハードプレイ」「コスプレ」等の派生語形を生んでいる。
「3P」「4P」等の数値表記は、参加者数を最も簡潔に示す業界内記号として 1990 年代以降に普及した。漢字「乱交」は中国語起源の語で、本来は「秩序を乱した交際」を意味する一般語が、近代日本において集団的性行為を指す術語に転用されたものである。
英語圏の対応語 group sex は文字通り「集団の性」を意味する直裁な記述語、orgy はギリシア語 orgia(古代ギリシアの密儀祭・狂騒祭)に由来する語であり、後者には宗教史的・文化史的含意が伴う。
歴史
古典・近世における集団性表象
集団的性行為の文学・図像表象は人類史を通じて広範な記録を残す。古代ギリシア・ローマの祭祀、インドの『カーマ・スートラ』、中世欧州の宗教審問記録、近世日本の春画(枕絵)等、各文化圏に複数の系譜が存在する。
日本の春画においては、複数人物による交合場面は喜多川歌麿、葛飾北斎等の作品群に見られる定番構図の一つであった。「四つ目屋」「三人組」等の構図名称も画題集に記録されており、近世日本の性表象において既に類型化されていたと考えられる。
現代日本における演出ジャンル化
1980 年代のアダルトビデオ産業の確立以降、複数プレイは独立カテゴリとして整備されていった。1980 年代後半から 1990 年代にかけて、「3P」「乱交」を主題化したシリーズが各メーカーから定着し、人数規模の差別化が商品差別化の主軸となる構造が生まれた。
1990 年代以降はぶっかけ・ごっくん等の集団演出系ジャンルとの複合運用が定着する。複数射出者対一人の構図を取るぶっかけは、複数プレイの一形態として位置づけられる側面を持つが、同時に独立カテゴリとしても運用される二重性を持つ。
2000 年代以降、寝取られ系作品との接続も活発化した。当該系統では、複数プレイが「他者(複数の他者)による所有」という主題を強化する装置として機能する。物語的フレームを伴う複数プレイは、純粋な視覚的演出としての複数プレイとは別個のサブジャンルを形成する。
派生形態
3P / 4P
参加者 3–4 名の最小規模複数プレイ。2 名構成からの自然な延長として、物語的・感情的フレームを伴いやすい形態。男 1・女 2 構成は男性視点、男 2・女 1 構成は女性視点(または男性側の屈辱・羞恥主題)で運用されることが多い。
乱交パーティー / スワッピング
物語的フレームとして「複数カップルが集合する」設定を採用した形態。1970 年代以降の欧米社会における配偶者交換・スワッピング(swinging)文化の影響を受けつつ、日本独自の演出様式が定着した経緯を持つ。
ハーレム形式
男性 1 名に複数女性が奉仕する構図を採用した形態。同人誌・エロゲ・エロ漫画等のサブカル領域における主流型式の一つで、男性中心の願望充足型物語と接続して運用されることが多い。
逆ハーレム形式
女性 1 名に複数男性が関わる構図を採用した形態。痴女系作品との接続で運用される場合と、ぶっかけ・寝取られ系作品の物語装置として機能する場合の双方がある。
集団乱交(orgy)
5 名以上の規模を伴う形態。ぶっかけ・ごっくん等の集団演出系と接続して運用される。撮影現場のロジスティクス(動員管理、衛生管理、進行台本)が商品の質を直接決める業界特性を持つ。
文化的言及
社会学・文化人類学の領域では、集団的性行為は集団の結束強化、儀礼的境界の溶解、社会秩序からの一時的逸脱という機能と関連付けて論じられる主題である。古代ギリシアの密儀祭、ディオニュソス祭祀、ローマのバッカナリア等の研究は、集団的性表象の文化人類学的研究の重要な系譜を形成する。
近代以降は、社会の個人化・核家族化・性の私事化という潮流のなかで、集団的性行為は「逸脱」「タブー」として位置づけられる傾向が強まった。同時に、この「逸脱」性そのものが現代ポルノにおける主題化の動機となり、ジャンル成立を促す逆説的構造を生んだ点が、ジェンダー論・メディア文化研究の論点として論じられる。
ジェンダー論的観点からは、複数プレイ表象における参加者の性別構成・主導権配分が、伝統的ジェンダー配置の維持・強化または反転として論じられる。男性中心ハーレム形式は伝統配置の強化として、痴女系逆ハーレム形式は反転として、それぞれ批評対象となる。
関連項目
参考文献
- 『群衆と性―日本ポルノ史の社会学』 朝日出版社 (2005) — 集団性表象の社会学的分析
- 『Sexual Behavior in the Human Male』 W. B. Saunders (1948)
- 『AV 産業 30 年史』 文藝春秋 (2009)
- 『Permitted and Prohibited Desires』 University of California Press (2000)