足コキ
足の指先が画面の主役になる、極めて視覚特化型のサブジャンル。
足コキ(あしこき)とは、足・足指による男性器への性的奉仕・刺激を指す日本語の俗語・業界用語である。「足」と動詞「扱く」(しごく)の連用形「扱き」を結合した複合語で、英語圏の対応語は footjob である。本邦の足フェチ系作品における中核演出として確立し、痴女系作品の派生形態としても定着している。
概要
足コキは、性器の挿入・口腔接触を伴わない性的接触の一形態である。手コキ・パイズリと並ぶ「身体部位を用いた間接的接触演出」の系譜に属し、日本のアダルトビデオ業界における独立カテゴリを形成する。
当該演出は足フェチ領域との接続が強く、ストッキング・ヒール等のフェチ装備との複合運用が定番形式として定着している。素足での接触、ストッキング越しの接触、ヒール靴を装着した接触、足指による細かい動作等、複数の派生形態を持ち、視覚的差別化が高度に発達した分野である。
痴女系作品においては、足コキが「能動的女性・受動的男性」の構図を視覚的に強化する装置として運用される。受け手側が立位ないし座位で受動姿勢を取り、奉仕者(女性)が立位で接する構図は、伝統的ジェンダー配置の反転を象徴する典型的演出として痴女系作品の標準形式に組み込まれている。
語源
「足扱き」は、名詞「足」と動詞「扱く」(しごく、対象を握って引く・絞る動作を指す古語)の連用形「扱き」を結合した複合語である。手コキと同種の造語法による派生語で、「身体部位 + 扱き」の構成法を継承している。
性的文脈での「足コキ」の業界用語化は、1990 年代以降の日本アダルトビデオ業界における足フェチ系ジャンル整備と並走した。漢字表記より片仮名・平仮名混在表記「足コキ」が選好される傾向は、業界用語に共通する隠語化指向の表れであり、手コキ・尻コキ等の派生語形と一致する。
英語圏の対応語 footjob は、英語名詞 foot(足)と俗語接尾辞 -job(仕事、行為)の複合語である。同様の接尾辞を用いた派生語形 handjob(手コキ)・blowjob(フェラチオ)が並列することから、英語俗語における同種の業界用語群の一部として位置づけられる。
歴史
足フェチの歴史的背景
足フェチ(英: foot fetishism、羅: retifism)は、フランスの作家ニコラ=エドム・レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ(1734–1806)の自伝・小説作品における当該嗜好の主題化以降、欧米の心理学・精神医学領域において定型的研究対象となってきた。同氏の名前を冠した「retifism」の語形は、19 世紀の精神医学文献に当該嗜好を指す術語として登場する。
ジークムント・フロイト『性理論三篇』(1905)等の精神分析文献は、当該嗜好を性的フェティシズム(fetishism)の典型例として扱い、子ども時代の経験との関連を論じた。20 世紀後半以降の臨床心理学・性科学は、当該嗜好を病理的なものとしてではなく、性的嗜好の正常な一変異として位置づける方向へと枠組みを更新してきた。
日本における足フェチ表象
日本における足フェチ表象は、近世の春画・艶本に既に観察される。喜多川歌麿、葛飾北斎等の作品群には、足元・足指を画面の焦点に据える構図が複数確認されている。明治期以降は、谷崎潤一郎の小説作品(『刺青』『痴人の愛』等)における足の描写が、近代日本文学における当該嗜好の代表的表象として広く知られている。
1980 年代以降のアダルトビデオ産業の確立に伴い、足フェチ系作品が独立ジャンルとして整備された。1990 年代以降はストッキング・ヒール・コスプレ等のフェチ装備との複合運用が定型化し、視覚的差別化の高度化が進行した。
足コキ演出の独立カテゴリ化
足コキは 1990 年代後半から 2000 年代にかけて、足フェチ系作品の中核演出として独立カテゴリ化された。当該時期は痴女系作品の確立期と重なり、両ジャンルの複合運用「痴女足コキ」が定型化した。
2000 年代以降は撮影技術の発達により、足元のクローズアップ・足指の細かい動作・ストッキング越しの質感等、極めて細密な視覚表現が可能となった。当該分野は視聴者の嗜好の細分化に対応する商業的差別化が高度化した分野として、独自の発達経路を辿っている。
派生形態
素足足コキ
装備・装飾を伴わない素足による形態。最も基本的な足コキ形式であり、足そのものの形状・質感を主題化した演出として運用される。
ストッキング足コキ
ストッキングを装着した状態での形態。素肌の感触と布の質感の両方を主題化する派生で、足フェチ・フェチ装備愛好の交差点に位置する。黒色・肌色・網タイツ等の色・素材による下位区分が存在する。
ヒール足コキ
ヒール靴を装着した状態での形態。靴を脱いだ直後の状態、靴を装着したままでの接触、両者の組み合わせ等、複数の派生形態を含む。視覚的にフェティッシュな装備を強調した演出として、独立カテゴリ化されている。
痴女系足コキ
痴女系作品における能動的女性が男性側を支配する構図での運用。命令・罵倒・寸止め等の言語的・心理的要素と複合して構成されることが多い。
主観足コキ
カメラを受け手側の視線に据えた撮影形式。足元を画面正面に据える構図は、視聴者の没入感を主題化した演出として 2000 年代以降に定着した。
文化的言及
文化人類学・心理学の領域では、足フェチは性的嗜好の最も普遍的な変異の一つとして研究対象となってきた。米国の心理学者ジェームズ・ジオルダン(コンコルディア大学)らの研究は、足フェチが心理学・性科学の文献において最も頻繁に言及される性的フェティシズムの一つであることを統計的に示している要出典。
文学領域では、谷崎潤一郎『刺青』(1910)、『痴人の愛』(1924–1925)、『春琴抄』(1933)等の作品群が日本近代文学における当該嗜好の代表的表象として位置づけられる。同氏の作品における足の描写は、性的嗜好の文学的昇華の典型例として、文学研究・性科学双方の文脈で言及される。
ジェンダー論の観点からは、足コキ演出における能動・受動の配分が論点となる。受け手側が立位ないし座位で受動姿勢を取り、奉仕者(女性)が立位で接する構図は、伝統的ジェンダー配置における男性主導性を視覚的に反転させる装置として機能する側面を持つ。当該反転構造が痴女系派生の発達を促した経緯は、ジャンル批評の継続的論点である。
関連項目
参考文献
- 『性の用語集』 講談社現代新書 (2004)
- 『Foot Fetishism: An Introduction』 Routledge (2008) — 足フェチ研究の入門的概観
- 『AV 産業 30 年史』 文藝春秋 (2009)
- 『Sexual Fetishism: Pathology and Theory』 Sexual and Marital Therapy (2002)