美女
「美しい」の判定基準が、千年単位で書き換えられ続けてきた歴史。
美女(びじょ)とは、容姿が優れていると評価される成人女性を指す日本語の名詞である。漢字「美」(うつくしい)と「女」(おんな)の二字熟語で、英語の対応語は beauty / beautiful woman / good-looking woman 等が並列する。美の評価軸は時代・文化により大きく変動する文化的構築物であり、本項では美意識史、文学・芸術における表象様式、現代日本における運用について述べる。
概要
美女は、女性の容姿を評価する語のなかで最も基本的な語形の一つであり、現代日本語においては「美人」と並列する一般語として位置づけられる。「美人」がより成熟・洗練された印象を伴う上品な語形として運用されるのに対し、「美女」は若々しさ・華やかさを含意する語形として運用される傾向があるが、両者の意味は概ね重なる。
美の評価基準は時代・文化により大きく変動する。古代エジプトの美の理想、古代ギリシアの均整美、中世欧州のキリスト教的美意識、近世日本の浮世絵的美意識、近代西洋的美意識、現代グローバル美意識等、各時代・地域の美意識は独自の構造を持って発達してきた。当該語の現代日本における運用は、これら歴史的蓄積と現代メディア環境の相互作用のなかで形成されている。
成人映像・同人誌・エロ漫画等のサブカル領域においても、美女は基幹概念として運用される。「美女が登場する作品」は商品差別化の基本軸の一つを構成し、人妻・熟女・OL等の役割属性と結合する形でジャンル・カテゴリを形成する。
なお本項においては、当該語は成人女性を指す語として一貫して扱う。未成年文脈は法制度上・倫理上対象外であり、本邦の児童ポルノ禁止法等の規制枠組みのもと、明確に区別されるべき領域である。
語源
「美女」は漢字「美」(美しい、立派な)と「女」(おんな、成人女性)の二字熟語であり、漢語起源の中国古典に語源を持つ。中国古典文献(『詩経』『論語』等)における「美女」の用例は古代に遡り、容姿の優れた女性を指す中性的記述語として使用されてきた。
日本語における「美女」の用法は、奈良・平安期の漢籍受容を経て定着した。平安文学における「美女」の用例は『源氏物語』『枕草子』等にも確認できる。近世以降は俗文芸・浮世絵・戯作等の領域で広く使用され、当該時代における美意識の表象と結びつく形で発達した。
英語の対応語 beauty は古フランス語 biauté、ラテン語 bellitas(bellus = 美しい)に起源を持ち、中世英語に取り込まれた語形である。「美女」と「美しい男性」を区別する語形は近代英語までは厳密でなく、現代英語においても beauty は男女両用可能な語形として運用される(ただし圧倒的に女性指示が多い)。
美意識史
古代から近世まで
世界各地の古代文明は、それぞれ独自の美意識体系を持っていた。古代エジプトの美意識(均整、ナチュラルな表情)、古代ギリシアの均整美(プロポーションの数学的調和、ポリュクレイトス『カノン』に基づく)、古代ローマの古典美の継承等、地中海世界の美意識は連続的な系譜を形成する。
中世欧州においては、キリスト教神学が美意識に強い影響を与えた。聖母マリアの美意識(純潔・慎ましさ・精神性)が女性美の理想として広く受容され、世俗的肉感性を排除する美意識体系が中世を通じて支配的地位を保った。ルネサンス期(15–16 世紀)の到来により、古典古代の美意識(プロポーション、肉感性、自然な美)が再評価され、現代に至る西洋美意識の基礎が形成された。
東洋・日本においては、近世以降の春画・浮世絵が女性美の表象として独自の系譜を発達させた。喜多川歌麿の美人画、東洲斎写楽の役者絵等、江戸期の浮世絵は当該時代の女性美の理想を視覚化した代表的記録として位置づけられる。鈴木春信、鳥居清長、歌川国貞等、各絵師は時代ごとの美意識の変化を作品に反映している。
近代以降の美意識のグローバル化
19 世紀以降、近代西洋的美意識が全世界的に拡散し、各地域の伝統的美意識と相互作用する過程が進行した。日本においても、明治期以降の西洋化に伴い、伝統的美意識(顔の小ささ、肌の白さ、髪の黒さ、慎ましい表情)に加え、西洋的美意識(目の大きさ、立体的顔立ち、グラマー型身体等)が並列する複合的美意識が形成された。
20 世紀後半以降は、写真・映画・テレビ等のメディアの発達に伴い、美意識のメディア化・標準化が進行した。グラビアアイドル、女優、モデル等のメディア表象が現代日本の美意識形成に与える影響は、井上章一『美人論』(1991)等のメディア研究で論じられている。同氏は美意識の構築過程を社会史・文化史の観点から実証的に追跡し、「美人」概念が時代と共に変容する過程を整理している。
美意識の文化人類学的考察
ナンシー・エトコフ『Survival of the Prettiest』(1999)等の進化心理学的研究は、美意識に進化生物学的基盤を見出す立場を取る。一方、社会構築主義的立場からは、美意識は文化的・歴史的構築物であるとする見解が主張される。両立場の対話は現代美意識研究の継続的論点を形成している。
現代日本における運用
サブカル領域における美女表象
アダルトビデオ・同人誌・エロ漫画等のサブカル領域における美女表象は、商品差別化の基本軸の一つを構成する。「絶世の美女」「美熟女」「美人妻」「美人 OL」等の修飾結合により、属性の細分化が進行している。
サブカル領域における美女表象は、現実の身体美意識と相互作用しつつ、独自の発達経路を辿ってきた。誇張された巨乳表現、極端なスレンダー表現、現実離れした顔立ちの定型化等、現実とは離れた美意識体系が並走する形で発達した。
ジャンル別運用
各サブジャンルは独自の美女像を発達させ、商品ラインナップの差別化を実現している。
文化的言及
メディア研究・ジェンダー論の領域では、美女表象の構築過程・社会的機能・心理的影響が継続的研究主題となっている。井上章一『美人論』(1991)、Etcoff『Survival of the Prettiest』(1999)、ウンベルト・エーコ『美の歴史』(2004)等は、当該主題を扱う代表的著作として位置づけられる。
ジェンダー論的観点からは、美女表象が女性の身体・容姿の客体化と接続する過程、自尊心・身体満足度に与える影響、美容医療・化粧品産業との相互作用等、複数の論点が並行して議論されている。当該議論は、表現の自由・産業の発達・労働者の主体性・消費者の選択等、複雑な利害が交錯する論点として、単純化困難な性質を持つ。
文学領域においては、「美女」は古代以来の文学主題であり、ホメロス『イリアス』の「ヘレネー」、シェイクスピア『ロミオとジュリエット』の「ジュリエット」、紫式部『源氏物語』の各女性人物、谷崎潤一郎『春琴抄』の「春琴」等、世界文学史を通じて多数の代表的表象が並列する。
関連項目
参考文献
- 『美意識の歴史』 東洋書林 (2005) — 原書: Storia della Bellezza, 2004
- 『美人論』 リブロポート (1991)
- 『日本国語大辞典(第二版)「美女」項』 小学館 (2001)
- 『Survival of the Prettiest』 Anchor Books (1999)