公然わいせつ罪とは、公然とわいせつな行為を行うことを処罰する日本の刑事規定であり、性表現を物として扱う刑法 175 条とは別個に、行為としてのわいせつを規制する条文である。
公然わいせつ罪(刑法 174 条)は、公然とわいせつな行為を行った者を処罰する日本の刑事規定である。明治 40 年(1907 年)制定の現行刑法に当初から含まれる条項であり、現代に至るまで運用されている。物としての性表現(文書・図画・電磁的記録)を規制する刑法 175 条(わいせつ物頒布等罪)に対し、174 条は行為としてのわいせつ(身体を用いた行為)を規制対象とする。両者は併せて、日本のわいせつ規制の中核を成す。本項では条文、構成要件、判例、現代の運用を扱う。
条文
刑法 174 条の現行条文は、以下のとおりである。
第 174 条: 公然とわいせつな行為をした者は、6 月以下の懲役若しくは 30 万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
法定刑は、6 月以下の懲役、30 万円以下の罰金、拘留(1 日以上 30 日未満の身体拘束)、または科料(1,000 円以上 1 万円未満の金銭刑)である。175 条と比較して軽微な刑罰が定められた条文であるが、前科として記録される犯罪類型である。
構成要件
「公然」の意義
「公然」とは、不特定または多数の者が認識しうる状態を指す。判例上、必ずしも実際に多数の者が現に認識する必要はなく、不特定または多数の者が認識しうる可能性が客観的に存在する状態を指すとされる。たとえば、深夜の路上で実際の通行人が皆無であった場合でも、客観的に通行人の認識可能性が存在する場であれば、公然性が認められる。
公然性の判断は、行為の場所・時間・状況・周囲の人の有無・距離・遮蔽物の有無などの要素を総合的に考慮して行われる。建物の中、車両の中、密室などでの行為については、外部からの認識可能性の有無が公然性の判断において重要となる。
「わいせつ」の意義
174 条における「わいせつ」概念は、175 条におけるわいせつ概念と基本的に同一の解釈に基づく。チャタレイ事件最高裁判決(1957)による三要件、すなわち(1)徒らに性欲を興奮または刺激せしめること、(2)普通人の正常な性的羞恥心を害すること、(3)善良な性的道義観念に反すること、を満たす行為がわいせつ行為と判断される。
ただし、175 条の物としての表現と、174 条の行為とでは、わいせつ性の判断における具体的考察要素が一定程度異なる。行為の場合は、芸術性・思想性の評価が抗弁として機能する余地が、物の場合に比して相対的に限定的である傾向がある。
故意
主観的構成要件として、自身の行為が公然性を有することおよびわいせつ性を有することについての認識が要求される。これらの認識を欠いた場合(密室と認識して行為に及んだ等)は、構成要件該当性が阻却される余地がある。
主要適用領域
路上等での露出行為
身体の性的部位を不特定者に対して露出する行為(いわゆる露出狂的行為)は、174 条の典型的適用対象である。「露出」を主題とするフェチ・嗜好の領域は、創作物の中での描写としては許容されるが、現実の公的空間での実行は 174 条違反となる。
実際の摘発事例としては、駅・公園・道路上での性器露出、住宅地での身体露出、車両内からの露出などが、典型的事例として継続的に発生している。
ストリップ・ヌードショー
ストリップ劇場における裸体表現は、観客が金銭を支払って入場する興行であるため、原則として公然性を有さないとされる。ただし、性器の直接的露出や性的行為を伴う演出が含まれる場合には、174 条の適用対象となる可能性が指摘されてきた。
東京高裁平成 5 年 7 月 7 日判決(1993)は、ストリップ劇場の演出における公然わいせつ罪の成否について、観客の入場制限が行われている場合でも、不特定者の入場可能性が事実上存在する場合には公然性が認められる場合があると判断した。これは、興行としての性表現と公然わいせつ罪の境界をめぐる重要先例として、現代の運用に影響を与えている。
公的空間での性行為
公園・路上・公共トイレなどの公的空間での性行為は、174 条違反として摘発される代表的事例の一つである。当事者の合意の有無を問わず、公然性とわいせつ性が認められれば本罪が成立する。
近年は SNS・配信プラットフォームでの公的空間での性行為の動画配信などが新たな摘発事例として発生しており、ネット時代の公然性概念の運用が課題となっている。
撮影目的での露出
成人向け撮影(個人撮影を含む)を目的として、公的空間で身体を露出する行為は、撮影者・出演者の双方に対して 174 条違反となりうる。同人個人撮影領域での「野外露出」「青姦」の主題は、創作上の演出としては流通するが、現実の公的空間での撮影は刑事責任を問われる行為である。
判例の動向
公然性の判断
公然性の判断は、各事案の具体的状況により異なる。一般的に、深夜の人通りの少ない路上、密閉された車両内、遮蔽物のある屋外などについて、公然性の有無が個別に判断される。判例の傾向としては、不特定者の認識可能性が事実上存在する場合には、現実の認識者数を問わず公然性が認められる方向にある。
わいせつ性の判断
行為としてのわいせつ性の判断は、175 条と同一の判断基準を用いつつ、行為の具体的態様に応じて精緻化される。性器の露出、性器を用いた行為、性的接触などが、典型的なわいせつ行為と判断される。一方、軽度の身体露出、芸術的表現の文脈での裸体提示などについては、わいせつ性が否定される事例もある。
文化的行為との境界
文化的行為(神事における裸体、芸術における身体表現)と公然わいせつとの境界は、判例上重要な論点である。神社の祭礼における伝統的な裸体行為(裸祭り)は、文化的・宗教的文脈における行為としてわいせつ性が否定されうる。芸術領域でのパフォーマンス・アート(現代美術における身体表現)も、その文脈と趣旨に応じて判断される。
関連法令との関係
刑法 175 条との関係
刑法 175 条は物としての性表現を、刑法 174 条は行為としてのわいせつを、それぞれ規制対象とする。両者は併存する性表現規制の体系であり、同一の事案で両罪が成立する場合(例: わいせつな行為を撮影し、その撮影物を頒布する場合)もある。
軽犯罪法
軽犯罪法 1 条 20 号は、「公衆の目に触れるような場所で公衆に対し著しく不快感を与えるような仕方でつばき、たんを吐き、又は所かまわず大小便をし、若しくはこれをさせた者」を規定する。身体露出のうち、わいせつ性に至らない軽度のものについては、本号の適用がなされる場合がある。
各都道府県迷惑防止条例
各都道府県の迷惑防止条例は、公共の場所・乗物等での卑わい行為(痴漢行為等)を処罰する規定を含む。174 条のわいせつ行為と一部重なる適用領域を持ち、行為の悪質性・態様に応じて、いずれの法令により処理されるかが異なる。
風営法
風営法上の性風俗特殊営業として営業される業態(ストリップ劇場、店舗型ヘルス、ソープランド等)における行為については、当該営業の許可・届出と運用基準の範囲内である限り、174 条の適用対象とはなりにくい構造を持つ。ただし、許可された業態の範囲を逸脱した行為については、174 条の適用がなされる場合がある。
関連項目
参考文献
- 『刑法各論(第7版)』 弘文堂 (2018)
- 『わいせつ概念と表現の自由』 法律文化社 (1986)
- 『東京高裁 平成5年7月7日判決』 東京高等裁判所 (1993) — ストリップ劇場における公然性の判断
- 『刑法』 明治40年法律第45号 (1907)
別名
- 公然わいせつ罪
- 刑法第174条
- Article 174
- public indecency