座位
両者が向き合って座る、ただそれだけの形が、性愛文献の中で最古層から繰り返し描かれてきた。古代インドの聖典が「upaviṣṭa(座って)」と書き留めた身体配置だ。
座位(ざい、英: sitting position)とは、両者が座位姿勢を取って結合する性交体位の総称。狭義には対面座位(両者が向き合って座位を取る形)を指し、広義には背面座位・横座位を含む。仰臥位・腹臥位を取らないため、両者の上半身が最大接触面積で密着する点が特徴で、視線・唇・胸部のいずれもが至近距離で交錯する。古代インドの『カーマ・スートラ』、中国房中術文献、平安期の『医心方』、江戸の四十八手いずれにも独立した記述があり、世界的な古典体位の一つとして位置づけられる。
概要
座位は、両者の腰部が近接した座位姿勢で結合する体位。対面座位では、挿入側が両脚を交差させた胡坐(あぐら)もしくは長座(両脚を伸ばす)を取り、被挿入側が挿入側の腰部にまたがって対面で座る。両者の上半身は直立し、視線が水平で交錯する。両者の上肢は互いの背面に回り、抱擁の姿勢を取る場合が多い。
運動学的には、座位は騎乗位と正常位の中間的性質を持つ。挿入の主導は、被挿入側の骨盤運動と挿入側の腰部運動の相互的協働により成立する。両者の体重がそれぞれの座面で支えられるため、長時間の維持が他の体位と比べて容易な点も座位の特徴となる。
挿入深度は、両者の骨盤角度の調整により広範に変動する。被挿入側が上半身を後傾すれば挿入は浅く、前傾すれば深くなる。両者の上肢が背面に回って抱擁を構成する点で、心理的密着感を強調する体位として、性愛指南書では「親密性の高い体位」「カップルが感情を交換する体位」と位置づけられる。
語源
「座位」(ざい)は、医学・生理学における「座っている姿勢」を意味する解剖学用語に由来する。性交体位の文脈における「座位」の語は、明治・大正期の性教育文献において体位分類の一カテゴリとして導入された近代用語と考えられる要出典。江戸期の艶本では、座位に相当する体位は「居合(いあい)」「居茶臼(いぢゃうす)」「居中柱(いちゅうばしら)」といった「居」(座る)を含む合成語で個別に呼ばれ、「座位」という総称的呼称はなかった。
英語圏では sitting position が一般的で、ヨガ用語に由来する lotus position(蓮華座位)も対面座位の派生に対して用いられる。サンスクリット語では『カーマ・スートラ』が upaviṣṭa(うちに座る、座位)と記載した語が古典名となる。中国語では「坐式」(zuò shì)が標準語。
歴史
古代
座位に類する体位は、古代インドの『カーマ・スートラ』(紀元 4–5 世紀頃)第二巻に upaviṣṭa(うちに座る)として記述されている。挿入側が長座を取り、被挿入側がその脚の間に座って結合するという基本配置が記されており、両者が瞑想的姿勢で結合する性愛理念と結びつけられた。
中国の房中術文献における体位分類「九法」では、座位に相当する体位として「魚接鱗」(ぎょせつりん)が記載される。両者が座って向き合い、結合する姿勢を魚の鱗が触れ合うさまに例える詩的命名で、平安期の『医心方』(984)に引用された。
江戸期
江戸期の四十八手体系においては、座位系列の体位は「居」を冠した複数の名で個別に呼ばれた。「居茶臼」(いぢゃうす)は対面座位を指し、「居中柱」(いちゅうばしら)は被挿入側が挿入側の片脚を抱える変種、「立ち中柱」(たちなかばしら)は座位から立位への移行型を指す。江戸艶本では座位系列は対面型・背面型の両方が描かれ、襖や柱を背にする画面構成が好まれた。
春画における座位の構図は、両者の上半身が画面に大きく描かれる点に特徴があり、表情・髪・上半身の衣装の細部を画面化できる構造的優位を持つ。鈴木春信の春画群には、座位の構図が頻出する。
近代以降
明治期以降、欧米の性愛指南書翻訳を通じて「座位」の総称的呼称が学術用語として導入された。戦後、ヴァン・デ・ヴェルデ『完全なる結婚』(1948 年翻訳)、コンフォート『The Joy of Sex』(1972)など、性愛指南書における体位分類の中で「座位」は独立カテゴリとして確立した。
現代日本語では「対面座位」「背面座位」が日常会話レベルでも一定の認知を得る用語となっており、性愛指南書・AV ジャンル名のいずれでも基本体位の一角を占める。
派生形態
対面座位(taimen-zai)
両者が向き合って座位を取る基本型。挿入側が胡坐(あぐら)・正座・長座のいずれかを取り、被挿入側が挿入側の腰部にまたがる。両者の上肢が互いの背面に回り、抱擁の姿勢を作る。視線・唇・胸部のいずれもが至近距離で交錯する。
背面座位
被挿入側が挿入側の足側を向き、後ろ向きに座位を取る形態。視線の交錯が発生しないため、対面座位とは異なる心理的様相を帯びる。AV 表現では、被挿入側の身体を画面前景に配置できる構図として背面騎乗位に近い構成で演出される。
椅子座位
挿入側が椅子・ソファに座り、被挿入側がその腰部にまたがる形態。両者の体重支持が椅子に委ねられるため、長時間の維持が容易となる。AV 演出では「会社の応接室」「家庭のソファ」などのシチュエーションと結びついて頻出する。
蓮華座位(lotus position)
挿入側が蓮華座(ヨガの瞑想姿勢、両足を反対の腿に乗せる)を取り、被挿入側がその腰部にまたがる形態。古代インドの瞑想・タントラ哲学と結びついた変種で、現代のセックス・タントラ指南書において独立カテゴリとして紹介される。
立位座位移行型
座位から立位、もしくは立位から座位への移行過程で結合を維持する変種。江戸の四十八手における「立ち中柱」「立ち茶臼」など、現代の AV 演出における「立ち上がる座位」がこの系列に該当する。
受容心理と表現
座位は、両者の身体接触面積の広さ・視線の至近性から、「親密性の体位」「感情の交換が中心となる体位」として性愛指南書で位置づけられる。AV・成人向け漫画における座位の登場場面は、しばしば物語のクライマックス・関係修復・告白などの感情的山場と重ねて配置される。
騎乗位・正常位・後背位の三大基本体位がジャンル名として独立カテゴリを形成するのに対し、座位は中間体位として演出文法に組み込まれる場合が多い。三大体位間の移行を結ぶ中継体として描かれるパターン、もしくは感情の高まりに合わせて両者が抱き合う体位として配置されるパターンが、AV における座位の典型的な使われ方となる。
寝取られ系作品においては、座位は「両者が抱き合って結合している」という構図そのものが心理的破壊力を持つ場面として描かれる場合がある。視線の交錯と抱擁が同時に発生する体位構造のため、「親密な関係」を視覚的に表現する記号として強い記憶残存性を持つからだ。
関連項目
参考文献
- 『Kāmasūtra』 (c. 4th century CE)
- 『医心方 巻第二十八「房内篇」』 (984)
- 『江戸の性語辞典』 朝日新聞出版 (2014)
- 『完全なる結婚』 白揚社 (1948) — 原著1926年、戦後日本語訳版
別名
- 座位体位
- sitting position
- lotus position