円錐の先端から徐々に太くなり、最も太い部位の手前で急激に細くなる独特の輪郭。アナルプラグの形状は、安全な保持と確実な抜去を両立させる目的で、半世紀以上をかけて磨き上げられてきた工業設計である。
アナルプラグ(anal plug / butt plug)とは、肛門に挿入して保持することを目的とした円錐型・球型・玉ねぎ型の性具を指す。本体先端から徐々に拡張し、最大径部の直後で急激に縮径する独特の輪郭(「ネック」と呼ばれる縮径部)を持ち、当該縮径部が肛門の括約筋に保持されることで、自重に抗して内部に保持される。1970 年代以降の欧米アダルト玩具産業において形態が確立され、現代では多様な素材・サイズ・付加機能を備える、アナル系玩具の代表的製品として確立している。本項では構造、用法、安全規約について述べる。
概要
アナルプラグの構造的特徴は、(1) 円錐型ないし玉ねぎ型の本体、(2) 最大径部直後の縮径部(ネック)、(3) 体外に残す基台部(flared base)、の三要素に集約される。基台部は本体の体内完全埋没を防ぐ安全設計であり、責任ある製品設計においては必須要件である。基台部を欠く設計の製品は、誤って体内に没入した場合の摘出困難・腸管損傷リスクが高く、責任ある製造者は当該設計を採用しない。
素材の主流は医療用シリコン、ガラス、金属(ステンレス、純銀メッキ)、木材(専門メーカーの一部製品)等である。シリコンは柔軟性・洗浄性・体内適合性のバランスが良く、ガラス・金属は重量感・温度特性(温水・冷水で温めるか冷やすことができる)による独特の感覚を提供する。プラスチック・ジェル系素材は安価だが、洗浄性・体内適合性の観点で医療用シリコンに劣る。
サイズは小型(直径 2 センチ前後、入門者向け)から大型(直径 5 センチ以上、上級者向け)まで広範な選択肢がある。利用者の経験に応じて段階的にサイズを移行することが、安全運用の標準慣行とされる。多くのメーカーが入門者向けサイズから上級者向けサイズまでの「トレーニングセット」を提供する。
語源と成立
英語 butt plug(臀部の栓)が当該カテゴリの一般語形であり、より中立的な anal plug(肛門栓)も並列する。日本語の「アナルプラグ」は anal plug の音転写形である。「バットプラグ」の音転写形も限定的に運用される。
製品としての成立は、1970 年代以降の欧米アダルト玩具産業に求められる。前史として、1900 年代初頭の米国において Dr. Young’s Ideal Rectal Dilators(ヤング医師の理想的直腸拡張器、1892 年特許)等の医療器具が、便秘治療を標榜する形で流通した経緯がある。要出典当該医療器具は 1940 年代に米国食品医薬品局(FDA)により医療効能の科学的根拠不在を理由に流通停止処分を受けたが、形態としては現代のアナルプラグの直接的前駆形態と評価される。
性具としての本格的な確立は、20 世紀後半の欧米におけるBDSM・ゲイ・レザーコミュニティの発達の文脈で進行した。1970 年代の米国西海岸のBDSMコミュニティ、ゲイバスハウス文化、専門店流通(Good Vibrations 等)の交差点において、現代的な形態と運用体系が確立した。日本市場への本格的導入は 1980 年代以降のアダルト玩具輸入流通を経て進行し、現在では国内主要メーカーも独自製品を展開する。
派生形態
標準型アナルプラグ
円錐型ないし玉ねぎ型の基本形態。素材・サイズの違いにより多様な製品が並列する。装着時間は数分から数時間まで、利用者の経験と製品仕様に応じて運用される。
振動型アナルプラグ
ローター・バイブ機能を内蔵した派生型。本体内蔵モーターによる振動、ないし内蔵小型ローターのみによる振動を提供する。リモコン制御型・スマートフォン連動型等の高機能製品も流通する。公開プレイ的演出と組み合わせた装着型運用に適応する。
ジュエル型(jewel butt plug)
基台部に装飾用宝石(本物の宝石ないし合成石)を配置した装飾的派生型。要出典装着時に基台部のみが体外に露出することを利用した、視覚的演出を主目的とする派生形態である。公開プレイ・撮影演出における運用が中心となる。
尾型(tail plug)
基台部から動物の尾(キツネ尾、猫尾、馬尾等のフェイクファー製尾)を伸ばした装飾型。pet play(動物プレイ、ロールプレイの一形態)系の演出における運用が中心となる。BDSMサブカルチャーの派生領域における定型器具として位置づけられる。
拡張トレーニング型
直径の異なる複数本がセットになった、段階的拡張のための専用製品。「肛門拡張」を主目的とする運用において、利用者の段階的経験蓄積に資する設計となっている。
インフレータブル型
体内挿入後にポンプで膨張させる派生型。挿入時は小径で、体内において段階的に拡張する設計である。安全運用には特段の経験と注意が要請される高度な製品で、入門者向けではない。
安全規約
肛門領域は膣と異なり、自然分泌される潤滑液を持たない。アナルプラグ運用にあたっては、専用潤滑剤(シリコン系・水溶性)の十分な使用が必須要件である。シリコン系潤滑剤はシリコン製品との相性に注意が要請され(化学反応により製品が劣化する場合がある)、シリコン製品との運用には水溶性潤滑剤の使用が推奨される。
挿入前後の衛生管理として、(1) 使用前後の本体洗浄、(2) 挿入前の肛門領域・周辺の清拭、(3) 挿入時のゆっくりとした段階的アプローチ、(4) 不快感・痛みの即時中止、(5) 抜去時の慎重な所作、(6) 抜去後の体勢調整(再閉鎖までの数分間)が標準慣行とされる。
医学的留意事項としては、(a) 肛門領域に裂傷・痔疾・痔瘻等の既往がある場合の使用回避、(b) サイズの段階的移行(無理な急拡張の回避)、(c) 長時間装着の自己管理(連続使用による組織充血・血流障害の回避)、(d) 基台部のない製品の使用回避、(e) 不適切素材(品質基準を満たさない安価製品)の使用回避が挙げられる。とりわけ基台部のない製品が体内に滑入した事例は、各国の救急医療現場で散発的に報告されており、責任ある製品選定が不可欠である。要出典
文化的言及
サブカル文化研究の観点から、アナルプラグは性的快楽の領域における肛門領域の主流化過程の象徴的器具として論じられる。20 世紀後半の欧米BDSM・ゲイ文化における当該器具の発達は、伝統的に病理化・タブー視されてきた肛門領域の性的快楽への、肯定的アプローチの確立過程と並走する。
アダルトビデオ・エロマンガ・エロゲ・同人誌等のサブカル領域における運用は、アナル系作品の中核演出として定着している。「アナル拡張」「アナルプラグ装着」「公開プレイ的アナル装着」等の演出が独立カテゴリを形成し、それぞれの作品群が固有のコミュニティを持つ。調教系作品においては、長時間装着・ロールプレイ系演出と組み合わせた複合演出が標準化されている。
法制度上の位置づけは、各国のアダルト玩具規制の文脈で論じられる。日本においては、刑法175 条(わいせつ物頒布罪)との関係で、商品設計・販売形態の運用基準が業界内に形成されている。
関連項目
参考文献
- 『Sex Toys: A Cultural History』 Duke University Press (2017)
- 『The Ultimate Guide to Anal Sex for Women』 Cleis Press (2006) — アナルセックス・アナル玩具の安全運用ガイド
- 『Anal Sex Health』 American Sexual Health Association — アナル領域の医学的安全情報 https://www.ashasexualhealth.org/
- 『Butt Plug』 Wikipedia (English) https://en.wikipedia.org/wiki/Butt_plug
別名
- バットプラグ
- butt plug
- anal plug
- アナル栓