照明、観客の視線、衣擦れの音すら通常の倍量で耳に入る舞台空間。公開プレイの興奮は「されること」より「見られながらされること」に焦点が置かれ、視線が新たな刺激として参加する性愛の形式を生む。
公開プレイ(こうかいぷれい)とは、観客の前で性愛行為やSMプレイを行う実践形態を指す業界用語である。SMバー、BDSMコミュニティの専用イベント、ストリップ劇場、フェティッシュ系パーティ等を舞台に、観客に見られながら行為を行うことを主題とした性愛様式の総称として運用される。英語圏では public play ないし public BDSM の語形が並列し、より一般的な露出とは区別される独立カテゴリを構成する。本項では実践形態、合意原則、法的位置づけ、文化史について述べる。
概要
公開プレイの本質は、観客の視線を性愛局面の構成要素として組み込む点にある。閉鎖的な性愛局面における行為と、観客を前提として行う行為では、参加者の心理的状態・行為の所作・興奮の質が質的に異なる。公開プレイにおける興奮は、行為の物理的内容ではなく、「見られている」という認識そのものから生じる。当該認識は、伝統的なSMプレイにおける「支配される」「拘束される」感覚と並列する、独立した興奮源として理解される。
実践の場としては、(1) 専用の閉鎖空間において合意ある観客の前で行うもの、(2) 半公開空間(バー、クラブ、専用イベント会場)において会員制・参加同意制で行うもの、(3) 公衆の面前で行うもの、の三類型が区別される。(1) と (2) は合意ある観客に限定された参加者間で運用され、責任ある実践共同体の倫理プロトコルの枠内で行われる。(3) は法的・倫理的に異質な領域であり、日本では刑法 174 条(公然わいせつ罪)の適用対象となる場合があるため、責任ある実践共同体の許容範囲外に置かれる。
合意原則の運用にあたっては、観客側の事前合意も明示的に確認されることが要請される。一般客が偶然に居合わせる場所での運用は許容されず、参加者・実演者・観客全員の事前合意が前提となる。会員制SMバー・BDSMコミュニティの専用イベント等は、当該事前合意の枠組みを制度的に整備した運用形態として位置づけられる。
語源と展開
「公開プレイ」は、形容動詞「公開」(公衆の前に開示すること)と外来語「プレイ」(play: 性愛・SM行為一般を指す業界用語)の複合語である。「プレイ」を性愛行為の総称として用いる用法は、20 世紀後半の日本におけるSM・性風俗業界用語の流通を経て一般化したもので、英語の play の借用語形である。「公開プレイ」という語形の確立は、20 世紀後半のSM雑誌・関連メディアにおける運用に求められる。
国際的には、英語圏BDSMコミュニティにおいて 20 世紀後半から「play party」「public play」「dungeon party」等の呼称で類似実践が体系化された。1970 年代以降の米国西海岸を中心とするBDSMコミュニティにおいて、専用施設(ダンジョン)を備える会員制パーティ形態が確立し、現在に至る公開プレイの基本様式が成立した。日本における類似形態の発達は、1970 年代以降のSMバー・専門誌主催イベントを中心として進行し、英語圏とは独立した経路を経て発達してきた。
派生形態と実践類型
SM バー / クラブ
会員制ないし入場制のSM専門店舗。店内に専用のプレイ空間(縛り台、X 字台、十字架、檻等)を備え、参加者と観客が同一空間に共在する形態。日本の都市部(東京、大阪、名古屋等)に複数の店舗が存在し、それぞれ独自のコミュニティを形成する。要出典店舗ごとの運用ルール(撮影禁止、観客参加禁止、酒精類制限等)が事前に明示され、参加者の事前合意のうえで運営される。
プレイパーティ
BDSMコミュニティが主催する大規模イベント。会員制・招待制で運営され、複数のプレイ空間と多数の参加者・観客が同一会場に集合する形態。米国の主要都市(サンフランシスコ、ニューヨーク、ロサンゼルス等)、欧州の主要都市(ベルリン、ロンドン、アムステルダム等)で大規模イベントが定期開催されており、近年は日本のコミュニティも国際的な交流を持つ。
縛り講習会・実演会
緊縛技法の講習・実演を主目的とするイベント。教育的・芸術的文脈での運用が主軸であり、純粋な性愛文脈とは一線を画す位置づけがなされる。日本の代表的緊縛師(明智伝鬼、有末剛、二鶴ら)による国際巡回講習は、日本緊縛文化の海外展開の主要経路の一つとなった。
ストリップ劇場における特殊演出
ストリップ劇場の演目の一として、緊縛・SM・公開オナニー等を組み込んだ特殊演出形態。1970 年代以降のピンク映画・特殊浴場文化の周辺領域として発達した経緯を持つ。
撮影現場における公開プレイ
アダルトビデオ等の撮影現場は、撮影スタッフを観客とする限定的な公開プレイの一形態として位置づけうる。職業的演者にとって日常的な局面であり、独自の心理的調整が要請される労働環境を構成する。「公開オナニー」「公開羞恥」等の撮影テーマは、当該局面の二重構造(撮影現場 + 視聴者)を意識した企画として運用される。
目隠しを伴う公開プレイ
目隠しを組み合わせた変則形態。被目隠し者は観客の存在を聴覚・気配のみで認識し、視覚的に観客を確認できない状態に置かれる。視覚遮断による予測不可能性と、観客への意識のずれが組み合わさった独特の心理状態を生む。被目隠し者にとっては「自分が見られていることを承知しているが、誰がどう見ているかは分からない」という二重の緊張が興奮を増幅する装置として機能する。
法的位置づけと安全規約
日本における公開プレイの法的位置づけは、刑法 174 条(公然わいせつ罪)・刑法 175 条(わいせつ物頒布罪)との関係で慎重な運用が要請される。「公然」とは不特定または多数の者が認識しうる状態を指し、会員制・閉鎖空間における運用は通常「公然」性が否定される運用となるが、状況によっては司法判断が分かれる場合がある。要出典責任ある実践共同体は、(1) 完全な閉鎖空間での運用、(2) 参加者全員の事前合意、(3) 一般客の偶然的アクセスの遮断、の三要件を厳守する慣行を確立してきた。
倫理規約としては、SM・BDSMコミュニティが共有する SSC(Safe, Sane, Consensual)・RACK(Risk-Aware Consensual Kink)プロトコルが、公開プレイにおいても基本指針として運用される。とりわけ、(a) 実演者間の合意、(b) 観客側の合意(参加同意・撮影制限)、(c) 場所運営者側の合意、の三層的合意構造の確認が要請される。観客が望まない撮影・SNS 拡散等の二次利用は厳に禁止される運用慣行が定着している。
文化的言及
SM文化研究の観点では、公開プレイは「親密性の脱私事化」の主題として論じられる。性愛は伝統的に私的領域に属するとされてきたが、公開プレイは観客との緩やかな共在を通じて、当該領域の境界を再編成する実践として位置づけられる。Gloria Brame ら『Different Loving』(1993 年)は、英語圏BDSMコミュニティの民族誌的研究において、公開プレイが当該コミュニティのアイデンティティ構築における主要儀礼として機能する様態を記述する。
日本における公開プレイ文化は、戦後のSMサブカルチャー、ストリップ劇場、特殊浴場の各領域の交差点として発達してきた経緯を持つ。団鬼六(1931–2011)のSM小説群は、当該領域の文学的記録として参照される代表的著作群である。1990 年代以降の SNS・インターネット文化の発達は、公開プレイの組織化・コミュニティ形成を加速させ、現在では国際的なBDSMコミュニティとの相互交流が活発化している。
緊縛技法の海外展開、とりわけ shibari の語形での欧米への浸透は、日本の公開プレイ文化の国際的影響力の代表的事例である。アジア・欧米のフェティッシュ系イベントにおいて、日本緊縛師による実演公演が定番の演目として組み込まれる状況が、2010 年代以降に確立した。
関連項目
参考文献
- 『Different Loving』 Villard Books (1993)
- 『団鬼六 SM の世界』 三笠書房 (1979)
- 『Public Play and Exhibitionism』 Wikipedia (English) https://en.wikipedia.org/wiki/Exhibitionism
- 『刑法各論』 東京大学出版会 (2015) — 公然わいせつ罪・公衆面前性的行為の法的位置づけ
別名
- 公開SM
- パブリックプレイ
- public play
- public sex