戦後数十年の学校体育を支配した一枚の短い布。それが姿を消した後、画面の中だけに残された記号として、独自の文化空間を保持し続けている。
ブルマ(英: bloomers、語源はアメリア・ブルーマー)とは、女性用の短い股下のパンツ型下衣の総称で、戦後日本では小・中・高等学校の女子用体育衣として広く普及した装束を指す。1990 年代後半から 2000 年代初頭にかけての段階的廃止により、現在では現役の学校体育衣としてはほぼ姿を消したものの、成人向け表現分野では懐古的なフェチ装束・コスプレ装束として独自の地位を保持している。
本記事は、成人女性が成人として当該装束を着用するコスプレ・着エロビデオ・グラビア等の文脈における当該衣装を扱う。
概要
ブルマの典型的形態は、ウエスト部に伸縮帯を設け、股下を覆い太腿の根元で締める短い股下のパンツである。戦後日本の体育衣としては、紺色・黒色・濃紺等の地味な配色を基調とし、ストレッチ性のあるニット素材で仕立てる。1960 年代から 1990 年代にかけては、ナイロン・ポリエステル等の合成繊維製の高伸縮性ブルマが標準として広く流通した。
成人向け表現分野では、ブルマは戦後昭和の学校体育を象徴する記号として組み込まれてきた。コスプレ衣装メーカーが大人サイズのブルマ型衣装を販売し、AV・着エロ・グラビア・同人誌・エロ漫画圏で繰り返し用いられる定番装束として機能する。学校体育の現役衣装としては姿を消した一方で、フェチ表象としては固定的な地位を維持し続ける、特異な歴史的軌道を持つ衣装である。
語源
「ブルマ」は、19 世紀米国の女性服改革運動家アメリア・ブルーマー(Amelia Bloomer、1818-1894)の姓に由来する。ブルーマーは 1850 年代に女性服改革の機関誌『The Lily』の編集者として、当時の女性服(コルセット・長いスカート)の身体的束縛を批判し、トルコ風のだぶついたパンツ(Turkish trousers)とスカートを組み合わせた服装を提唱した。要出典 当該服装の中核を成すパンツ部分が、ブルーマーの姓と結びついて bloomers と呼ばれるに至った。
日本語への移入は明治期以降の女子体育普及に伴うもので、当初は「ブルーマー」と表記された後、戦後に短縮形「ブルマ」が定着した。
歴史
米国における女性服改革運動
19 世紀中葉の米国では、コルセット・床まで届く長いスカート等の女性服が、女性の身体活動を制約し健康を損なう問題として批判された。フェミニズム運動の系譜の中で、エリザベス・スミス・ミラーが考案したトルコ風パンツとスカートの組み合わせを、アメリア・ブルーマーが機関誌で広めたことが、当該服装に「ブルーマー」の名称を与える契機となった。要出典
当初の「ブルーマー」は、当時の女性服に対する急進的な改革提案として強い社会的反発を受け、広範な普及には至らなかった。しかし、19 世紀末から 20 世紀初頭にかけて、自転車の普及・女性スポーツの興隆と並行して、女性スポーツ用の機能的下衣として再度注目されるようになる。
日本における体育衣としての普及
明治期以降の女子体育の制度化に伴い、日本でも女性用の体育衣の標準化が課題となった。当初は和装・はかまを応用した形態が用いられたが、20 世紀前半から半ばにかけて欧米のブルーマー型短パンが採用され、女子体育衣の標準として普及した。戦後の学校教育の整備の中で、紺色のニット素材のブルマが、女子小・中・高等学校の体育衣として全国的に標準化される。
1960 年代から 1990 年代にかけては、伸縮性合成繊維の進歩を経て、よりフィット感の高い形態のブルマが標準として確立した。当該時期の女子学生の体育衣は、上半身に体操着シャツ・下半身にブルマという組み合わせが、世代を越えて共有される視覚的記憶となった。
段階的廃止
1990 年代以降、ブルマに対する批判が顕在化した。第一は、生徒側からのプライバシー侵害の問題提起である。短い股下・身体への密着・男性教員等の視線への懸念が、生徒会・PTA 等の場で議論されるようになった。第二は、ブルマ型衣装の盗撮被害の社会問題化である。当該衣装が盗撮の対象として狙われる事例が報道され、生徒の安全への懸念が高まった。要出典
これらを背景として、1990 年代後半から 2000 年代初頭にかけて、各都道府県の公立小・中・高等学校で、女子体育衣をブルマからハーフパンツ・ジャージ等に切り替える方針転換が進んだ。2000 年前後を境に、ブルマは現役の学校体育衣としては事実上姿を消し、現代の学齢期生徒にとっては「過去の体育衣」として認識される存在となった。
成人向け表現での記号化
学校体育衣としてのブルマが姿を消す一方で、成人向け表現分野ではブルマの記号性が独立した文脈で保存・流通する経路が形成された。1990 年代から 2000 年代のエロ漫画・成人向けゲーム・同人誌圏では、ブルマは「昭和的・懐古的」「素朴な学園風景」を呼び起こす記号として頻繁に用いられた。
商業 AV・コスプレ衣装業界では、現役衣装ではなくフェチ衣装として大人サイズのブルマが継続的に流通する。「ブルマもの」「体操服もの」は独立カテゴリとしての地位を保持し、主要配信プラットフォームの検索タグとして安定した存在感を持つ。
受容心理
ブルマがフェチ対象として安定した地位を保持し続ける背景には、複数の要因がある。第一に、世代記憶としての共有性がある。ブルマを学校体育衣として経験した世代(おおむね 1990 年代以前の女子学生として教育を受けた世代、および同時期の男子学生として隣接して目撃した世代)にとって、ブルマは個人的記憶と結びついた具体的な記号として機能する。
第二に、廃止された衣装としての特異な位置がある。現役衣装であれば日常の延長に過ぎないが、廃止されたことで「過去の記号」として独立した存在となり、かえって独自の文化的位置を獲得した。記号論的に言えば、現役の指示対象を失った記号が、虚構的時空の中でのみ流通する形へと変化した。
第三に、地味さと身体強調の二重性がある。紺色基調の地味な配色と、伸縮素材によるフィット感は、見せる装束ではない素朴さを保ちつつ身体線を可視化する独自の視覚効果を成立させる。当該二重性が、装束フェチの複雑な視覚装置として機能する。
派生形態
ブルマの派生・変奏として、以下の形態が流通する。
- 紺ブルマ:濃紺基調の戦後日本標準型。最も典型的な意匠
- 提灯ブルマ:1970 年代以前のだぶついた古典型。懐古的審美の対象として言及される
- ぴちぴちブルマ:1980 年代以降の高伸縮素材のフィット系。フェチ嗜好の主流意匠
- 体操服+ブルマ:ブルマ単独ではなく、白の半袖体操服シャツとの組み合わせ。学園系記号としての完成形
- ブルマ+ニーソックス:複合的な装束フェチ意匠の一つ
- 名札付きブルマ:スクール水着同様、名札枠付き変奏。学園記号の補強
関連表象
ブルマが組み込まれる物語装置として、体育館・校庭・更衣室の三典型がある。体育館・校庭では、運動場面・部活動場面が物語装置として機能する。更衣室では、着替え場面が中心となる。
服装文脈では、制服・スクール水着・縞パンツ・ニーソックス・美脚等の装束系記号と隣接する位置にあり、装束系成人向けジャンルの中で「学園・体育・懐古」という独自の記号束を形成する。
関連項目
参考文献
- 『Mrs. Bloomer's Pants』 Smithsonian Magazine (2012) https://www.smithsonianmag.com/
- 『学校制服の文化史』 東京書籍 (2005)
- 『近代日本女性体育史』 不昧堂出版 (1995)
- 『スポーツファッションの社会史』 青弓社 (2018)
別名
- ブルマー
- bloomers
- bloomer
- 体育パンツ