横に走る二色の縞が、白地の上に並ぶ。たったそれだけの図像が、ある世代以降の二次元嗜好の象徴として定着していった。
縞パンツ(しまぱん、略して縞パン)とは、横方向に色違いの縞模様を配した女性用ショーツ(パンティ)の総称を指す日本語の俗称である。白地に水色・桃色等の中間色の横縞を交互に配した配色を典型とし、2000 年代以降の二次元成人向け表現分野において、特定のキャラクター類型に結びつく萌え属性の定番のひとつとして広範に用いられる視覚記号として独自の位置を占める。英語圏でも shimapan あるいは striped panties としてオタク文化文脈で輸出され、国際的に通用する記号としての地位を獲得している。
概要
縞パンツの典型的形態は、白地と他色(水色・桃色・薄紫等のパステルカラー)の二色を 2 〜 4 本程度の太い横縞として交互に配したショーツである。縞は腰回りから股下にかけて連続して走り、ウエスト部・脚口部にはレース等の装飾を伴わない簡素な仕立てを基本とする。配色は穏やかな中間色を選ぶ慣習が強く、原色系・モノトーン系の縞は典型から外れる傾向にある。
二次元成人向け表現の文脈では、縞パンツは特定のキャラクター類型と強い結びつきを持つ。具体的には、性的経験に乏しい少女的キャラクター、清楚さを基調とするキャラクター、家庭的・庶民的設定のキャラクターが縞パンツを着用する場面が頻出し、当該キャラクター属性を視覚的に補強する記号として機能する。一方で、派手な装飾を伴うブランドショーツ・ T バック等の挑発的下着が割り当てられるのは、痴女キャラクター・人妻キャラクター・ギャルキャラクター等の対照的な類型である。
成人向け表現分野では、着衣・着エロ・コスプレ・制服等の装束系ジャンルと密接に接続し、衣装下から覗く下着・着替え場面・パンチラ(露出系隣接領域)等の物語装置と組み合わせて流通する。本記事は、二次元・実写を問わず、成人女性ないし成人女性として描かれるキャラクターが縞パンツを着用する文脈における当該下着の記号性・受容史を扱う。
語源
「縞パンツ」は和語「縞」(縦・横の連続模様の意)と外来語「パンツ」(英: pants、ただし日本語では下着としてのショーツの意で用いる和製用法)の合成語である。「縞模様の女性用下着」という即物的な記述語であり、特定のメーカー名・商標に由来する語ではない。略語の「縞パン」は 2000 年代前半以降の二次元オタク文化のスラングとして定着した。
英語圏では shimapan の音写形がそのまま輸出されており、北米の英語版オタク辞典や同人圏で日本語起源の固有名詞として通用する。同時に、説明的な英訳 striped panties も併用される。
歴史
戦前から戦後にかけての縞模様下着
横縞を配した下着自体は、20 世紀の女性下着史において特異な存在ではない。欧米のキャミソール・ブルマーや、戦後日本の子供向け下着・運動着において、縞模様は装飾性を抑えた廉価品の典型的な意匠として広く存在した。とりわけ、戦後復興期から高度経済成長期にかけての日本では、無地のショーツに加えて、簡素な縞・水玉等の柄物が量販店向け下着として流通していた。要出典
二次元表象における出現
縞パンツが成人向け表現の記号として明確な地位を獲得するのは、1990 年代後半から 2000 年代前半にかけての美少女系成人向けゲーム・同人誌・エロ漫画圏である。当時の二次元表現では、登場キャラクターの内面的属性を下着の配色・柄で記号化する手法が定着しつつあり、清楚・庶民・性的経験に乏しい等の属性に縞パンツを割り当てる慣習が広まった。
2005 年前後には、二次元同人圏で縞パンツがある種のミーム的存在として急速に浸透した。同時期に流行した美少女ゲームのキャラクター下着、キャラクター CG 集の着替え場面、画像投稿サイトのタグ等を経由して、「縞パン=二次元の定番下着」という認識が同人圏内で共有されるに至った。漫画家・イラストレーター西又葵、こげどんぼ等の絵柄に代表される美少女系イラストの普及と並行して、縞パンツは視覚的な記号体系の一部として組み込まれていった。
ミーム化と海外輸出
2000 年代後半には、画像投稿掲示板・動画投稿サイトでの拡散を経て、縞パンツは日本のオタク文化を代表する小道具のひとつとして海外にも知られるようになった。北米のオタク文化圏では、日本語の音写形 shimapan が独立した名詞として通用し、二次元イラスト・コスプレ・キャラクターグッズ等の文脈で英語使用者間でも共有される語となった。
8 月 2 日を「縞パンの日」とする俗称が、語呂合わせ(82=しまぱん)に基づきインターネット圏で流通する。要出典 公的な記念日としての制定には至らないが、年中行事的な投稿イベントの口実として、同人圏・SNS 圏で持続的に言及される慣習となった。
萌え属性としての受容
縞パンツが定番の萌え属性として確立した背景には、複数の要因がある。第一に、地味さの記号化である。派手な装飾を伴わない簡素な縞模様は、キャラクターの庶民的・清楚的・素朴的属性を視覚的に補強する。挑発的なランジェリーが割り当てられない類型のキャラクターに、しかし下着であるという性的指示性は保持しつつ装着させるのに適した意匠として機能した。
第二に、視覚的記憶への定着しやすさがある。白地と中間色の二色構成は、スカートが捲れた瞬間に瞬時に認識可能な単純な図像であり、漫画・アニメの一コマ・一フレーム単位のパンチラ場面で機能を発揮する。複雑な柄や写実的なレース表現は、二次元の簡略化された描線では再現が難しく、結果として単純化された縞模様が二次元下着の標準形として収斂する力が働いた。
第三に、内輪文化的な記号性がある。「縞パンを履かせるのは古き良きオタク絵」という自己言及的な認識が同人圏内で形成され、縞パンツを描くこと自体がオタク的審美の表明として機能する循環構造が成立した。00 年代の美少女絵の典型的記号として、現在では懐古的な含意も帯びる。
派生形態
縞パンツの派生・変奏として、以下の形態が流通する。
- 配色変奏:白地に黒・赤・濃紺等を配した「強い」配色は、キャラクターの強気・勝ち気な属性に割り当てられる場合がある
- 縞数変奏:細い縞を多数配した形態は派手な印象を与え、太い縞 2 〜 3 本の単純構成は素朴な印象を与える
- 素材変奏:ニット・コットン素材を強調した造形は家庭的・素朴な印象を、サテン・シルク調素材は装飾性を加味した変奏となる
- スク水縞:スクール水着に縞模様を配した変奏作例も同人圏で流通する
- 縞ニーソ:ニーソックスに同様の配色を施した「縞ニーソ」は、縞パンツと同型の意匠を異なる装束に転用した派生例である
これらの変奏は、縞パンツの基本図像から派生した二次的記号として、二次元嗜好圏内で流通する。
サブカル文脈での言及
縞パンツは 2000 年代以降のオタク文化のステレオタイプ的記号として、しばしばパロディ・自己言及の対象となる。アニメ・漫画作品中で「縞パン」が言及される場面、グッズ化された縞パンツモチーフ商品(クッション・タオル等のキャラクターグッズ)、コスプレ衣装としての縞パンツの流通など、縞パンツは商品形態を伴って文化財的に流通する記号となった。
「8 月 2 日=縞パンの日」「8 月=縞パン月間」等の語呂合わせ的な集約日には、画像投稿サイト・SNS で関連投稿が増加する慣習が観察される。要出典
成人向け表現を超えた一般文化圏でも、縞パンツへの言及は「ベタなオタク的下着の象徴」として戯画的に消費される場合がある。テレビ番組・一般雑誌・芸能人のSNS発言等で、二次元オタク文化の記号として言及される事例が断続的に観察される。
関連表象
縞パンツが組み込まれる物語装置として、以下の場面類型がある。
パンチラ場面は、縞パンツが最も典型的に流通する文脈である。スカートが捲れた一瞬に縞パンが視認される構図は、二次元表現の最頻出の演出である。続く着替え場面・更衣室場面では、キャラクターが私的空間で縞パンツを露出する状況が描かれ、より長い時間軸で縞パンツが画面に登場する。下着泥棒・洗濯場面等の物語素も、縞パンツを画面中央に配置する正当化として機能する。
服装文脈では、制服・スクール水着・ブルマ等の装束系記号と組み合わさることで、装束フェチの中核的アイテムとして機能する。とりわけ、上から下まで一貫して「素朴系」「清楚系」の記号で固められたキャラクターに、下着として縞パンツを割り当てる手法は二次元キャラクターデザインの定石として確立している。
関連項目
参考文献
- 『下着の文化史』 光文社 (2008)
- 『萌えるアキバ系の心理学』 ぶんか社 (2005)
- 『オタク・イズ・デッド』 新潮社 (2008)
- 『二次元美少女の表象』 青弓社 (2014)
別名
- しまぱん
- 縞パン
- striped panties
- striped underwear