出会い系
スマホの画面に並ぶ顔写真とプロフィール、左右にスワイプして「いいね」を送る現代的な振る舞い。その遠い祖先には、1985 年の繁華街地下のテレクラのボックスがあり、1990 年代のポケベル・PHS の打ち合わせがあり、2000 年代の携帯モバイルサイトの登録フォームがある。男女の出会いを技術が媒介する半世紀近い系譜が、出会い系という業態に結晶している。
出会い系(であいけい、出会い系サイト、dating site、近年は「マッチングアプリ」)とは、男女が知り合うことを目的としてインターネット上で運営される異性紹介サービスの総称である。本項ではテレクラ・伝言ダイヤル・ダイヤル Q2 等の前史から、PC インターネット出会い系、携帯モバイル出会い系、現代マッチングアプリまでの系譜と、2003 年制定の出会い系サイト規制法の枠組みを扱う。
概要
出会い系の基本構造は、(1) サービス事業者が男女のプロフィール登録・通信機能を提供、(2) 男女がプロフィール閲覧・メッセージ交換で接触、(3) 実際の対面に発展、というものである。事業者の課金モデルは、男性側のメッセージ送信課金・女性無料、月額会員制、ポイント制等が中心となる。
サービスのスペクトラムは、(1) 結婚を志向する真剣交際向け(婚活アプリ「ペアーズ」「Omiai」「マリッシュ」等)、(2) 恋愛・カジュアルなデート向け(「Tinder」「with」)、(3) 友達募集・趣味交流向け、(4) 性的関係を志向する出会い向け、(5) パパ活等の対価付き交際向け、と多様に分布する。
語源
「出会い系」は和製語で、1990 年代後半のインターネット普及期に「出会いを目的とするサイト」の略称として成立した要出典。当初は「出会い系サイト」の略称として用いられ、2010 年代以降は「マッチングアプリ」「デーティングアプリ」等の語が並行して用いられるようになった。
英語圏では「online dating site」「dating app」「matchmaking service」等が対応語である。日本語の「出会い系」は若干のネガティブニュアンス(性的関係の暗示、青少年買春のイメージ)を帯びる場合があり、近年の主流アプリは「マッチングアプリ」を自称する傾向にある。
歴史
前史:電話メディア(1985–1995)
1985 年、東京・神田に日本初のテレフォンクラブ(略称・テレクラ)「チロル」が開業した。男性客が個室ボックスに入って待機し、店外から不特定多数の女性が電話をかけてくる形式である。1986 年には NTT が「伝言ダイヤル」を開始し、不特定多数間でのメッセージ交換が可能になった。
1989 年には NTT「ダイヤル Q2」が情報提供サービスとして開始され、その派生として「ツーショットダイヤル」(1 対 1 の通話マッチング)が広まった。これらは自宅・職場の電話から非対面で異性と通話できるサービスで、現代出会い系の通信基盤の祖先である。
1990 年代前半、ポケットベル(ポケベル)が若年層に普及し、女子高生・女子大生間のメッセージ交換に使われた。テレクラ・伝言ダイヤルでアドレス交換 → ポケベルでフォローアップ、という流路が形成された。
PC インターネット出会い系期(1995–2000)
1995 年の Windows 95 発売、ISDN 回線の普及、1996 年のインターネット商用化により、PC インターネットを基盤とする出会い系サイトが登場した。当初は掲示板形式・伝言板形式の単純なサービスで、東京・大阪等の都市部のインターネット・ヘビーユーザーが中心利用層だった。
1996 年〜1999 年にかけて、複数の事業者が出会い系サイトを開設した。同時期、米国では Match.com(1995 年開設)、eHarmony(2000 年開設)等の出会い系プラットフォームが発達しており、日本のサービスは米国モデルを部分的に参照しつつ独自展開した。
携帯モバイル出会い系期(1999–2008)
1999 年 2 月、NTT ドコモが iモードを開始した。携帯電話からのインターネット接続が可能になったことで、若年層・若年女性層のモバイル出会い系利用が爆発的に拡大した。「Magic Online」「ハッピーメール」「ワクワクメール」等の代表的サイトがこの時期に成立した。
携帯出会い系の急拡大は、青少年買春・援助交際・児童ポルノ被害の拡大と並行した。1999 年の児童買春・児童ポルノ禁止法を受けて、出会い系サイトを経由した児童買春事案の増加が社会問題化した。
規制法時代(2003–現在)
2003 年 6 月 13 日、「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律」(通称・出会い系サイト規制法)が公布、9 月 13 日から段階的に施行された。同法は、(1) 児童(18 歳未満)が出会い系サイトで相手を探す行為の禁止、(2) 児童に対する誘引行為の処罰、(3) 出会い系サイト事業者の規制、を骨格とする。
2008 年 6 月 6 日に同法は改正され、12 月 1 日から施行された。改正により、(1) 出会い系サイト事業者の公安委員会への届出義務、(2) 利用者の年齢確認義務、(3) 児童使用禁止の禁止表示義務、等が強化された。これにより、登録段階での身分証明書(運転免許証等)による年齢確認が、出会い系サイト・アプリの標準運用となった。
マッチングアプリ時代(2012–現在)
2012 年、米国 Tinder がリリースされ、画面スワイプ式のマッチングアプリが世界的に普及し始めた。日本では 2014〜2016 年にかけて「ペアーズ」(2012 年リリース)、「Omiai」(2012 年)、「with」(2016 年)、「Tinder」日本展開、「marrish」(2016 年)等が連続的に登場した。
マッチングアプリは従来の出会い系サイトと比較して、(1) スマホアプリ専用の使いやすい UI、(2) 厳格な年齢確認・本人確認、(3) 婚活・真剣交際志向のブランディング、(4) 月額会員制の透明な課金体系、を特徴とする。これらにより、従来の出会い系のネガティブイメージから一定の脱却を達成し、結婚・恋愛のための一般的選択肢として社会的に浸透した。
2024 年現在、日本のマッチングアプリ市場は数百億円規模で、利用者は累計 2,000 万人を超えるとされる要出典。「ペアーズ」「Omiai」「with」「Tinder」「マリッシュ」「Tapple」等が主要プレーヤーとなっている。
出会い系・マッチングアプリの分類
サービスの志向性別の分類:
婚活系: 結婚を真剣に志向する利用者向け。「ペアーズ」「Omiai」「マリッシュ」「ゼクシィ縁結び」等。プロフィールの詳細記述、年収・職業情報の重視、有料会員制中心。
恋愛・カジュアル系: 恋愛・気軽なデートを志向する利用者向け。「with」「Tinder」「Tapple」等。気軽なメッセージ交換、画像中心のプロフィール、若年層中心。
特定属性向け: シニア向け、LGBTQ 向け、再婚者向け、特定趣味向け等のニッチ系。
パパ活・対価交際系: 経済的支援を伴う交際を志向する利用者向け。「paters」「SugarDaddy」「Love&」等。出会い系サイト規制法の対象であり、年齢確認・違法行為の禁止を運用。
法的位置づけ
出会い系サイト規制法(2003 年制定、2008 年改正)は、(1) インターネット異性紹介事業者(年齢制限なく男女のメッセージ交換ができるサービス)を公安委員会への届出制とし、(2) 児童(18 歳未満)の利用を禁止、(3) 利用者の年齢確認義務、(4) 児童誘引行為の処罰、を規定する。
出会い系サイトを経由した青少年買春・児童ポルノ被害については、児童買春・児童ポルノ禁止法、刑法、各都道府県の青少年健全育成条例による処罰対象となる。
文化的言及
出会い系・マッチングアプリは、現代日本の恋愛・結婚・性愛の主要インフラとして、社会学・経済学・情報学の研究対象となっている。中村淳彦らの社会学的研究、Web メディア「razokulover publog」等の業界史的記述、各種マッチングアプリ事業者の白書等が、業界の現状を継続的に記述している。
「マッチングアプリで知り合って結婚」が日本でもごく一般的になり、結婚相談所・お見合い・職場結婚と並ぶ標準的な出会いの形式として定着している。出会い系・マッチングアプリは、戦後日本のテクノロジー史・恋愛史・性愛史の交差点として、現在も継続的な変化と研究の対象である。
関連項目
参考文献
- 『インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律』 日本国法令 (2003) https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000083/
- 『出会い系サイト - Wikipedia』 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%87%BA%E4%BC%9A%E3%81%84%E7%B3%BB%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%88
- 『「出会い系」の歴史 80年代~現在まで』 razokulover publog https://razokulover.hateblo.jp/entry/2018/07/02/115012
- 『性風俗産業の社会学』 勁草書房 (2017)
別名
- 出会い系サイト
- dating site
- マッチングアプリ
- online dating