商業流通の予算と編成から外れたところで、個人または小集団が自分の作りたいゲームを作る。コミケで頒布される CD-R、DLsite で売られる ZIP、Steam の Indie 棚に並ぶインディーゲーム。形は変われど、作家がほぼ単独で制作する小規模ゲームの系譜は、日本のサブカル経済の重要な一翼を担ってきた。
同人ゲーム(どうじんげーむ、同人ソフト)とは、商業流通を経ずに個人・少数集団が制作・頒布するゲーム作品の総称である。本項では同人誌文化の延長線上に発達した日本独自の小規模ゲーム制作・流通形態として、『東方Project』『ひぐらしのなく頃に』『月姫』等の代表作と、DLsite・Steam 等の配信プラットフォーム時代の展開を扱う。
概要
同人ゲームは、(1) 商業出版社・ゲーム会社の編成を経ない、(2) 個人または十数名以下の少数集団で制作される、(3) コミケ等の即売会または DL 配信プラットフォームで頒布される、ゲーム作品である。ジャンル・形式は多様で、ビジュアルノベル、シューティング、RPG、アクション、シミュレーション、パズル等、商業ゲームの全ジャンルにわたる。
性的主題を扱う同人ゲームは、エロゲ市場と重なり、抜きゲー・エロマンガ・同人誌と相互浸透する形で発達した。一方、性的主題を扱わない同人ゲームは、海外の indie game 文化と連続する形で、Steam・itch.io 等のグローバル配信プラットフォームに展開している。
同人ゲームの主要な流通経路は、(1) コミケ・サンクリ・SUPER COMIC CITY 等の即売会での物理頒布、(2) DLsite・FANZA(旧 DMM)・とらのあな・メロンブックス等の電子配信サイト、(3) Steam・itch.io 等のグローバル indie 配信、(4) 公式サイトでのフリー配布(フリーゲーム)、である。
語源
「同人ゲーム」は「同人誌」の派生語で、1980 年代後半から 1990 年代にかけて自然発生した語である。「同人」は「同好の士の集まり」を指す近代日本語で、明治期の文芸同人誌(『我楽多文庫』1885 等)に淵源を持つ。「同人ソフト」もほぼ同義で用いられる。
国際的には「doujin game」「Japanese indie game」「freeware game」等の英語表記が並存する。海外の indie game との差異は明確ではないが、(1) 主要な制作・流通ネットワークがコミケ等の同人誌即売会経由であること、(2) 二次創作系の比重が大きいこと、(3) エロゲ市場との重層、等が日本固有の特徴とされる。
歴史
黎明期(1980–1990 年代前半)
1980 年代の同人ゲーム制作は、PC-8801・PC-9801・X68000 等の国産パソコンとカセットテープ・フロッピーディスクの自家頒布が中心であった。プログラミングと美術・音楽・シナリオを個人で兼任する作家が、雑誌投稿・パソコン通信・即売会を通じて少部数頒布を行った。
1986 年のチームアミューズメント『機甲装兵 ARMO』、1989 年のあぶそりゅ〜と『戦国ターボ』等が初期の代表的タイトルである要出典。1990 年代前半までの同人ゲームは、技術的・物量的に商業ゲームを大きく下回り、ニッチな存在に留まった。
1990 年代後半:技術環境の整備
1995 年の Windows 95 普及、CD-R ドライブの低価格化、Visual Basic・HSP 等の簡易プログラミング環境の整備により、同人ゲーム制作の障壁が劇的に低下した。RPG ツクール(エンターブレイン、1992〜)、吉里吉里(W.Dee、1999〜)等のフリー制作ツールが一般化し、プログラミング能力のない作家でもゲーム制作が可能になった。
コミケでは同人ゲームの専門ジャンルが拡大し、1990 年代後半には数百サークル規模の集積が成立した。商業エロゲメーカーから独立した個人作家、商業デビュー前のアマチュア作家、商業を志向しない純粋な趣味作家、等が混在する場として発達した。
2000 年代:ヒット作品の連鎖
2000 年代に入ると、同人ゲームから商業的・文化的に大きな成功を収める作品が連続的に登場した。
『東方Project』(上海アリス幻樂団・ZUN): 1996 年に PC-9801 版『東方靈異伝』として開始、1997 年コミケC52 で頒布。2002 年の Windows 移行版『東方紅魔郷』以降、ZUN の個人制作する弾幕シューティングシリーズとして爆発的なファンダムを形成した。原作二次創作ガイドラインを公表し、二次創作 OK の方針が広範な派生作品(同人誌・同人ゲーム・MAD 動画・ヴォーカル CD)を生む循環を作った。
『ひぐらしのなく頃に』(07th Expansion・竜騎士07): 2002 年から 2006 年にかけて、夏コミ・冬コミで連続的に頒布されたサウンドノベル形式の同人ゲーム。村社会の連続殺人をテーマにしたサスペンス・ホラー的展開で爆発的支持を獲得し、後にアニメ化・商業ゲーム移植・実写映画化と多メディア展開した。
『月姫』(TYPE-MOON): 2000 年冬コミで頒布された同人ビジュアルノベル。重厚な伝奇シナリオで強烈なファンダムを形成し、2004 年の商業作品『Fate/stay night』へと TYPE-MOON の発展の起点となった。
『うみねこのなく頃に』(2007〜)、『マブラヴ』(2003、商業移行)、『ひぐらしのなく頃に解』(2004〜)等、2000 年代の同人ゲーム発ヒットは商業出版・アニメ化・社会的認知へと転化する流路を確立した。
2010 年代:DLsite・Steam 時代
2010 年代以降、同人ゲームの主戦場はコミケ即売会から DLsite・FANZA・Steam・itch.io 等の DL 配信プラットフォームへと移行した。物理メディアの制作・流通コストから解放され、個人作家が低コストで世界に向けて頒布できる環境が整った。
DLsite には抜きゲー系・二次創作系の同人ゲームが大量に流通し、月間配信本数は数千本規模に達する。Steam ではビジュアルノベルの英語化版、シューティング、RPG、ローグライク等が出品され、海外プレイヤーの新規受容層を開拓している。
2020 年代:プラットフォームの拡張
2020 年代に入ると、Nintendo Switch・PlayStation・Xbox 等の家庭用ゲーム機への indie game 配信、スマホアプリストア配信、サブスクリプション・サービス(Game Pass、Apple Arcade)への組込み、ライブ配信プラットフォーム(YouTube、Twitch、ニコニコ動画)でのプレイ動画文化等、同人ゲーム発作品が触れる機会の経路は多様化している。
商業 indie ゲームと同人ゲームの境界は流動化しており、同人発作家が商業デビューする流路、商業作家が個人プロジェクトを同人として展開する流路、両者が制度的に相互移動可能な構造が成立している。
主要ジャンル
ジャンル別の同人ゲーム集積:
- ビジュアルノベル・サウンドノベル系: 個人作家のシナリオ作品が中心
- 東方系: 弾幕シューティング・原作派生作品が大量
- RPG・SLG 系: RPG ツクール製作品、Wolf RPGエディター製作品
- アクション・シューティング系: 商業に準じる技術力の作品も
- 抜きゲー・エロゲ系: DLsite・FANZA で大量配信
- フリーゲーム系: 公式サイトでの無料配布、『青鬼』『Ib』等
著作権・法的論点
二次創作系の同人ゲームは、原作の著作権との関係で著作権法上の翻案権・複製権の侵害となる可能性がある。しかし、原作の多くが二次創作を「黙認」する姿勢を取っており、現実の摘発・告訴は限定的である。原作公式が二次創作ガイドラインを公表しているケース(『東方』『艦これ』『東方』等)では、ガイドライン遵守を前提に二次創作の頒布が事実上許容されている。
成人向け同人ゲームについては、刑法 175 条のわいせつ図画頒布罪、青少年保護育成条例等の規制があり、配信プラットフォーム側の自主規制(モザイク等)が運用されている。
文化的言及
同人ゲームは、サブカルチャー研究・ゲーム研究の主要対象である。中川大地『コンピュータゲームの神話学』(PLANETS、2016)、更科修一郎ほか『美少女ゲームの臨界点』(波状言論、2004)等が、同人ゲームと商業ゲームの相互関係を論じている。
『東方Project』『ひぐらし』『月姫』等の同人発作品は、商業 IP に劣らない大規模ファンダムと商業展開を達成し、日本のサブカルチャー経済における同人発の創作流通モデルを確立した。
関連項目
参考文献
- 『上海アリス幻樂団 - Wikipedia』 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E6%B5%B7%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%82%B9%E5%B9%BB%E6%A8%82%E5%9B%A3
- 『東方Project - Wikipedia』 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E6%96%B9Project
- 『コンピュータゲームの神話学』 PLANETS (2016)
- 『ひぐらしのなく頃に - Wikipedia』 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%B2%E3%81%90%E3%82%89%E3%81%97%E3%81%AE%E3%81%AA%E3%81%8F%E9%A0%83%E3%81%AB
- 『美少女ゲームの臨界点』 波状言論 (2004)
別名
- 同人ソフト
- doujin game
- インディーゲーム(日本固有)
- フリーゲーム