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美少女

bishoujo

戦後日本のマンガ・アニメ・ゲームが半世紀かけて磨き上げた、虚構上のキャラクター造形の到達点としての概念。

美少女(びしょうじょ)とは、第一義的には容姿の優れた若年女性を指す日本語の名詞であり、第二義的には戦後日本のマンガ・アニメ・コンピュータゲームにおいて記号的に造形されたキャラクター類型を指す語である。英語では bishoujo(またはローマ字綴りの bishojo)が借用語として定着しており、beautiful girl の対応語として運用される。本項では、後者すなわち虚構上のキャラクター類型としての「美少女」に重点を置き、その造形史・ジャンル史・記号体系について述べる。実在の未成年に対する性的言及は、本邦の児童ポルノ禁止法等の規制枠組みに照らして対象外であり、本項は虚構領域における文化表象を扱う文化史的記述に徹する。

概要

「美少女」は、辞書的には「美しい少女」を意味する漢語的名詞であるが、現代日本のサブカル文脈においてはマンガ・アニメ・ゲーム上のキャラクター類型を指示する用語として、日常語以上の含意を持って運用される。当該キャラクター類型は、髪型・瞳・体型・服装・声・性格類型(萌え属性)等の記号の組み合わせによってパッケージングされる虚構上の造形物であり、現実の身体美意識とは別個の発達経路を辿った独自の表象体系を構成する。

第二義の「美少女」は、1970 年代後半から 1980 年代にかけて少女マンガ的画風と少年マンガ的物語が交差する領域に発生し、1990 年代のエロゲ隆盛期に「美少女ゲーム」というジャンル名として制度化された。以降、当該語はマンガ・アニメ・ゲームの境界を横断する記号として、同人誌エロ漫画二次創作等の隣接領域に浸透し、現代日本のオタク文化を構成する中核概念の一つとなった。

語源と歴史的射程

「美人」「美女」「美少女」の差異

漢語的名詞としての「美少女」は、「美」(うつくしい)と「少女」(若い女性)の結合からなる。中国古典文献における用例は確認されるが、日本語への定着は近代以降であり、明治・大正期の文芸作品に散見される程度であった。現代日本語においては、年齢層に応じて「美女」「美人」「美少女」が緩やかに使い分けられる。「美人」は成熟した上品さを含意する一般語、「美女」は若々しい華やかさを含意する語形、「美少女」は思春期前後の若年性を含意する語形として運用される傾向がある。

近代以前の日本文学・美術における若年女性の美の表象は、「少女」「乙女」「処女」(おとめ)「娘」等の語形によって担われてきた。喜多川歌麿の美人画、上村松園の日本画等における若年女性表象は、当該時代の美意識を視覚化した代表例である。「美少女」が現代的含意を獲得するのは、戦後マンガ・アニメ・ゲームというメディアの発達と並行する過程においてである要出典

戦後マンガにおける少女表象の系譜

戦後日本のマンガにおける少女表象は、手塚治虫『リボンの騎士』(1953-1956)を起点として独自の発達を辿った。1960-1970 年代の少女マンガ(萩尾望都、竹宮惠子、大島弓子、池田理代子等の「24 年組」)は、大きな瞳・繊細な線・心理描写を特徴とする画風を確立し、後の「美少女」表象の視覚的基盤を提供した。

少年マンガ領域においては、永井豪『ハレンチ学園』(1968-1972)が学園を舞台とした性的表象を導入し、後のエロ漫画系譜の起点を形成した。1970 年代末から 1980 年代にかけて、高橋留美子『うる星やつら』(1978-1987)、あだち充『みゆき』(1980-1984)・『タッチ』(1981-1986)、鳥山明『Dr.スランプ』(1980-1984)等の作品が、ヒロインを物語の中核に据える構造を一般化させた。とりわけ高橋留美子作品のラム、あだち充作品の浅倉南等のキャラクターは、後の「美少女」造形の原型として参照されることが多い。

1980 年代「美少女マンガ」の成立とロリコンブーム

「ロリコン」概念の流行と批判

1980 年代前半、サブカル系雑誌『漫画ブリッコ』(1982-1986)、『レモンピープル』(1982-1998)等を媒介として、若年女性キャラクターを中核とするマンガ作品群が「ロリコンマンガ」「美少女マンガ」と呼ばれる潮流を形成した。吾妻ひでお、内山亜紀、谷口敬等が当時の代表的作家として挙げられる。これらは少女マンガ的画風と性的主題を結合した形式で、当時の読者層(主に大学生から若年男性)に支持された。

「ロリコン」(ロリータ・コンプレックス)の語は、ナボコフ『ロリータ』(1955)に由来する英語圏の精神医学用語 Lolita complex の借用語であり、1970 年代末に日本のサブカル領域で流行した語である。当時の用法は現在より広く、思春期以降の若年女性キャラクター全般を指す語として運用されることもあった。1980 年代後半以降、現実の児童に対する性的志向との混同・社会的批判の高まりを受け、「ロリコン」概念は実在児童への性的言及から明確に分離される方向で再整理が進んだ。1989 年の連続幼女誘拐殺人事件報道を契機とする「オタクバッシング」は、当該領域に強い社会的圧力を及ぼし、業界の自主規制と表現の方向転換を促した。

「美少女」概念の独立

1980 年代を通じて、「美少女」概念は「ロリコン」概念から徐々に独立する形で再構築された。ササキバラ・ゴウ『美少女の現代史』(2004)は、「美少女」が単なる若年女性表象ではなく、マンガ・アニメ・ゲームを横断する記号体系として独自の地位を獲得した過程を分析している。同書によれば、「美少女」は実在の少女との対応関係よりも、メディア横断的な記号の組み合わせとして自律的に発達した虚構上の造形概念であり、その独自性は実在児童への性的言及とは区別される文化的射程を持つ。

1990 年代「美少女ゲーム」というジャンル名の定着

「美少女ゲーム」の制度化

1990 年代前半、PC ゲーム市場におけるエロゲの発達と並行して、「美少女ゲーム」というジャンル名が業界・メディアに定着した。当該語は、性表現を含むか否かにかかわらず、美少女キャラクターを物語の中核に据えるコンピュータゲーム作品群の総称として運用される。エルフ『同級生』(1992)、Leaf『雫』(1996)・『To Heart』(1997)、Key『Kanon』(1999)等が、当該ジャンルの確立期を代表する作品として記憶されている。

「美少女ゲーム」「ギャルゲー」「エロゲ」「ノベルゲーム」は重なり合うジャンル概念であり、各語の運用は文脈・媒体により流動的である。一般的には、コンシューマー機向けの全年齢版を「ギャルゲー」、PC 向けの成人向け版を「エロゲ」、両者を含む包括概念として「美少女ゲーム」が用いられる傾向にある。雑誌『パソコンパラダイス』(1994-2010)、『TECH GIAN』(1995-2018)等は、当該ジャンルの専門誌として業界の制度化に寄与した。

キャラクター造形の標準化

「美少女ゲーム」というジャンル名の制度化は、キャラクター造形の標準化を伴った。原画家・シナリオライター・声優の役割分業が確立され、各メーカーは専属原画家(エルフの蛭田昌人、Leaf の水無月徹、Key の樋上いたる等)を中心とするキャラクター造形を展開した。キャラクター造形は、髪型・瞳の色・髪色・体型・服装(とりわけ制服)・性格類型・声等の記号の組み合わせとしてパッケージングされ、各記号は他作品と相互参照可能な共通体系を形成した。

東浩紀『動物化するポストモダン』(2001)は、当該記号体系を「萌え要素」と呼び、消費者がキャラクターを「萌え要素のデータベース」から組み合わされた生成物として消費する構造を分析した。同書の議論は、「美少女」キャラクターが個別の作品に閉じない、メディア横断的な共通記号体系として運用されている事実を理論化したものであり、以降のオタク文化研究の基礎枠組みとして広く参照されている。

二次元と三次元、属性・記号

「二次元」概念の独立

「美少女」キャラクターは、現実の身体美意識とは異なる独自の発達経路を辿ってきた虚構上の造形物であり、現代オタク文化においては「二次元」と総称される領域を構成する。「二次元」と「三次元」(現実)の対比は、虚構上のキャラクターを実在の人物とは別個のカテゴリとして認識する文化的態度を表現する語である。当該対比は、虚構上の表象を現実から切り離して享受する受容態度を制度化するとともに、虚構表現と実在児童への性的言及との明確な区別を支える文化的基盤の一つとなっている。

萌え属性の体系化

「美少女」キャラクターの造形は、複数の記号(萌え属性)の組み合わせとしてパッケージングされる。代表的属性として以下が挙げられる:

  • 髪色・髪型: 黒髪ロング、金髪ツインテール、ピンク髪ショート、銀髪ストレート等
  • 瞳: 大きさ、色(青、緑、紅、金等)、ハイライト形状
  • 服装: 制服(セーラー服、ブレザー)、巫女装束、メイド服、ナース服等
  • 性格類型: ツンデレ、ヤンデレ、クーデレ、天然、ボクっ娘、お嬢様、幼なじみ等
  • 役割: 妹、姉、後輩、先輩、生徒会長、隣人、義姉等
  • 声: 声優の演技スタイル(高音、ロリ声、姉口調、囁き声等)

これらの記号は組み合わせ可能な要素として運用され、各キャラクターは複数の属性の交差点として造形される。サブカル雑誌・ファンサイト・同人誌等を通じて、当該記号体系は継続的に更新・拡張されている。

戦闘美少女と精神分析的考察

精神科医・斎藤環『戦闘美少女の精神分析』(2000、英訳 Beautiful Fighting Girl, 2011)は、戦闘行為を担う美少女キャラクター(『美少女戦士セーラームーン』、『新世紀エヴァンゲリオン』綾波レイ、『機動戦艦ナデシコ』ホシノ・ルリ等)を主題として、当該類型の精神分析的考察を行った代表的論考である。同書は、戦闘美少女が現実の女性表象に還元されない独自の虚構上の存在として消費される構造を分析し、「ファルスを持つ少女」という精神分析的概念を導入した。本書は欧米のサブカル研究にも翻訳・紹介され、海外のオタク文化研究において頻繁に参照される。

オタク文化との接続

「美少女」と「オタク」の相互形成

「美少女」キャラクター類型と、その消費者層としての「オタク」概念は、1980-1990 年代を通じて相互形成的に発達してきた。「オタク」は当初は揶揄的呼称として運用されたが、1990 年代後半以降は自称としても定着し、世代を超えたサブカル消費者層のアイデンティティを表現する語となった。

宮台真司ほか『サブカルチャー神話解体』(1993)は、戦後日本のサブカルチャー全般を扱った代表的論集であり、少女表象の変容を社会学的観点から論じている。本田透『電波男』(2005)等は、当該文化のなかで「美少女」キャラクターが消費者の感情生活に占める位置を、自己分析的・エッセイ的に描出した著作として記憶されている。

海外への波及

2000 年代以降、日本のマンガ・アニメ・ゲームの海外展開に伴い、「美少女」キャラクター類型は bishoujo の語形で英語圏・欧州・東アジアに伝播した。北米市場における日本マンガ・アニメの定着過程は、椎名ゆかり『もえるアメリカ』(2010)等で記録されている。「美少女ゲーム」は bishoujo game、ノベル系列は visual novel として翻訳・流通し、海外発の同形式作品(『Doki Doki Literature Club!』(2017)等)にも影響を与えた。

英語圏の批評・学術領域では、moe(萌え)、otakubishoujo 等の借用語が日本サブカル研究の標準語彙として定着している。Patrick W. Galbraith、Thomas Lamarre、Saito Tamaki(英訳)等の研究者が、当該領域の英語圏研究を牽引してきた。

文化的言及

「美少女」概念は、消費者の趣味的選択に閉じない、より広い社会文化的論点と接続する。表現の自由と児童保護のバランス、虚構と現実の区別、ジェンダー表象の構築過程、二次元と三次元の境界等、複数の議論軸が当該概念を巡って交錯する。とりわけ虚構上のキャラクター表現と実在児童への性的言及の区別は、国内外の法制度・倫理議論において継続的論点を形成しており、各国の規制枠組みは虚構表現の取り扱いにおいて立場を異にする。

『美少女ゲームの臨界点』(2004)、『動物化するポストモダン』(2001)、『戦闘美少女の精神分析』(2000)等の理論的著作は、「美少女」を単なる消費対象としてではなく、戦後日本社会の文化的・心理的構造を反映する記号として捉える視座を提供した。当該視座は、「美少女」概念を消費批判的文脈にも、文化擁護的文脈にも位置づけ得る複数の解釈余地を残しており、今日に至るまで活発な議論の主題であり続けている。

関連項目

参考文献

  1. 更科修一郎・東浩紀ほか 『美少女ゲームの臨界点』 波状言論 (2004)
  2. 斎藤環 『戦闘美少女の精神分析』 太田出版 (2000)
  3. 東浩紀 『動物化するポストモダン――オタクから見た日本社会』 講談社現代新書 (2001)
  4. 宮台真司・石原英樹・大塚明子 『サブカルチャー神話解体――少女・音楽・マンガ・性の変容と現在』 PARCO出版 (1993)
  5. 椎名ゆかり 『もえるアメリカ――米国人はいかにしてMANGAを読むようになったか』 太田出版 (2010)
  6. 宮本直毅 『エロゲー文化研究概論』 総合科学出版 (2013)
  7. Saito, Tamaki 『Beautiful Fighting Girl』 University of Minnesota Press (2011) — 『戦闘美少女の精神分析』英訳
  8. 東園子ほか編 『おたく/Otaku/Geek』 京都精華大学国際マンガ研究センター (2014)
  9. ササキバラ・ゴウ 『美少女の現代史――「萌え」とキャラクター』 講談社現代新書 (2004)
  10. 金田淳子ほか 『「ロリコン」の誕生――子ども支配の現在史』 勁草書房 (2017) — ロリコンブーム再検証論集

別名

  • bishoujo
  • bishojo
  • beautiful girl
  • 美少女キャラクター
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