側位
朝の寝床で、二人がそのまま寝そべったまま身体が結ばれる。仰向けに起き上がる必要すらない、ある種の怠惰さに支えられた身体配置だ。
側位(そくい、英: side position、spooning position)とは、両者が側臥位(横向き)を取って性交する体位の総称。対面側位(対面で側臥位を取る形)と背面側位(被挿入側が背を向ける形、英 spooning)に大別される。両者の体重が寝具に分散され、長時間の維持が容易で身体的負担が小さい点を特徴とする。古代インドの『カーマ・スートラ』、平安期の『医心方』、戦後の性愛指南書のいずれにも独立した記述があり、世界的な古典体位の一つとして位置づけられる。
概要
側位は、両者が寝具上で横向きに身体を倒して結合する体位。両者の体重がいずれも寝具に支えられ、四肢の運動負担が最小化する点が運動学的特徴となる。挿入深度・運動の振幅は正常位に劣るが、結合運動を長時間維持しうる点が魅力で、性愛指南書では「疲労時の体位」「妊娠中期以降の体位」「高齢者の体位」として推奨される事例が多い。
側位の二大類型は対面側位と背面側位だ。対面側位では両者が向き合って側臥位を取り、被挿入側の上脚を挿入側の腰部・脚に巻きつける配置となる。視線の交錯と身体接触が両立する構造で、正常位の親密性を維持しつつ運動負担を低減できる。背面側位(英 spooning、スプーン位とも)では、被挿入側が背を向け、挿入側がその背後に密着して側臥位を取る。両者の身体がスプーンの重なりのように一致するためこの名で呼ばれる。
語源
「側位」(そくい)は、医学・解剖学における「側臥位」(そくがい、horizontal lateral position)を性交体位の文脈に転用した近代用語。明治・大正期の性教育文献における体位分類の中で、「側位」が独立カテゴリとして導入された。
英語圏では side position が一般的で、背面側位については spooning position(スプーン位、二つのスプーンが重なるさまから)が広く流通する。サンスクリット語の『カーマ・スートラ』では「parshvaḥ」(側面)を冠した体位群が記述されている。中国の房中術文献では「魚比目」(ぎょひもく、二尾の魚が並ぶさま)が側位に近い体位として記録された。
松葉崩しも広義には半側位の派生体位に位置づけられる。被挿入側が完全に側位を取らず、半側位(身体が 90 度未満の側方旋回をした状態)である点で、対面側位とは区別されることが多い。
歴史
古代
『カーマ・スートラ』(紀元 4–5 世紀頃)第二巻には、側位に類する体位として被挿入側が「側面に寝かされる体位」(pārśvasaṃpuṭa)が記述されている。この体位は、被挿入側が一方の側に身体を傾けつつ、両脚で挿入側を挟む形を取る。中国房中術における「魚比目」は、両者が向き合って側臥位を取る対面側位の古典名で、平安期の『医心方』(984)に引用された。
中世から近世
江戸期の春画においては、側位の構図は正常位・騎乗位・後背位の三大体位に比べて画題化頻度が低い傾向にある。両者が水平軸に沿って画面に配置されるため、画面構成として動的迫力が乏しく、絵師の好みに合わなかった面があると考えられる要出典。
江戸艶本に登場する側位系列の体位名としては、「茶臼くずし」「居松葉」「横松葉」「鵯(ひよどり)越え」など、現代の体位呼称体系との一義的な対応関係が確定しがたい固有名が複数記録されている。
近代以降
明治期以降の性愛指南書翻訳・性教育文献を通じて、「側位」は学術用語として確立した。戦後のヴァン・デ・ヴェルデ『完全なる結婚』(1948 年訳)は、側位を「身体的負担の小さい体位」として推奨し、産後・妊娠中・高齢期の性生活の文脈で側位の有用性を強調した。コンフォート『The Joy of Sex』(1972)も側位を独立章で取り上げ、「ベッドの中で目覚めたまま結合できる体位」として紹介している。
AV・成人向け漫画における側位の登場頻度は、正常位・騎乗位・後背位の三大体位に大きく劣る。画面構成上の制約(両者の身体が水平軸に沿って配置されるため、画面が縦長フォーマットには映えない)が一因と推定される。一方で、夫婦・恋人の日常を描く成人向け漫画(人妻系・恋愛系)においては、起床時の結合場面・就寝前の結合場面で側位が選ばれる事例が見られる。
派生形態
対面側位
両者が向き合って側臥位を取る形態。被挿入側の上脚を挿入側の腰部・脚に巻きつける、もしくは挿入側の上肢で抱える配置となる。視線の交錯と身体接触の両立を特徴とする。両者の唇が至近距離に置かれるため、正常位の親密性を踏襲しつつ身体負担を軽減した変種に位置づけられる。
背面側位(スプーン位)
被挿入側が背を向け、挿入側がその背後に密着して側臥位を取る形態。両者の身体がスプーンの重なりのように一致する。被挿入側の臀部に挿入側の腰部が密着する構造で、心理的密着感が高い。妊娠中・産後の性生活の文脈で推奨される代表的体位として、性愛指南書で頻出する。
90 度交差側位
挿入側が仰臥位を取り、被挿入側が挿入側の腰部に対して 90 度交差した側臥位を取る形態。挿入側の脚は被挿入側の脚の下に位置し、結合部の角度が独特の組み合わせとなる。AV 演出における特殊体位の一つとして登場する。
松葉崩し系
被挿入側が半側位を取り、片脚を挿入側の肩に担ぐ形態。広義には側位の派生に分類されるが、四十八手由来の固有名で独立体位として扱われる。
受容心理と表現
側位は、AV・成人向け漫画における登場頻度の低さに反して、現実の性生活における利用頻度は相応に高いと推定される。性愛指南書の言説では、「カップルが日常的に選ぶ体位」「眠気と性欲が同居する瞬間の体位」として位置づけられる。視覚的迫力よりも身体的快適性を優先する文脈で選ばれる体位だ。
側位の心理的記号性は、「日常」「親密性」「持続性」のいずれかに収斂する。スプーン位(背面側位)は、就寝前・起床時の結合を象徴する構図として、夫婦の長期関係の親密性を表現する記号として機能する。対面側位は、視線・唇の交錯を維持しつつ身体的疲労を最小化する構造のため、「夜通し続く性愛」を表現する場面で選ばれる事例がある。
成人向け漫画における側位は、人妻系の生活感のある日常エロ・恋愛系の長期関係エロにおいて、夫婦・恋人の親密性を表現する場面で配置される。一方、AV では激しい運動・大胆な構図を前提とする制作文法の中で、側位は「箸休め」「シーンの中継体」として使われることが多く、メイン体位として配されるパターンは限定的だ。
寝取られ系作品においては、夫婦の日常を演出する側位の構図が、後の正常位・騎乗位シーンとの対比として効果的に用いられる事例が見られる。「妻と二人で側位で眠っていた頃」を回想する構図と、「妻が他の男と正常位で結合する」現在の構図の対比は、関係の喪失を視覚化する古典的な演出文法として定着している。
関連項目
参考文献
- 『Kāmasūtra』 (c. 4th century CE)
- 『医心方 巻第二十八「房内篇」』 (984)
- 『完全なる結婚』 白揚社 (1948)
- 『性愛の医学』 日本評論社 (1965)
別名
- 横位
- side position
- spooning position
- lateral position