円光
「円光」は 援助交際 の別名表記です
1996 年、深夜のテレビ朝日のニュース番組で、ぼかしの入った女子高生が「援助交際」について淡々と語る。30 年近い歳月を経た現在、その語が指す行為の中心はホスト売掛の支払いに化け、SNS のマッチングは LINE のグループ通話に化けたが、女性が男性から金銭の対価を受けて交際・性的関係を持つという行為の構造は、形を変えて存続している。
援助交際(えんじょこうさい、援交)とは、女性(特に 1990 年代の文脈では青少年女子)が男性から金銭・物品の対価を受けて交際・性的関係を持つ行為の総称である。本項では 1990 年代中盤に社会問題として浮上した「青少年女子の援交」を中心に、テレクラ・伝言ダイヤル・ポケットベル等のメディア基盤、東京都青少年健全育成条例の規制対応、現代のパパ活・出会い系との関係を扱う。
概要
援助交際の典型的形式は、(1) 男女がテレクラ・伝言ダイヤル・出会い系サイト・SNS 等で連絡を取り合う、(2) 食事・カラオケ・買い物等の「交際」と、性的関係(キス・性行為等)を組み合わせる、(3) 男性側が女性側に金銭・物品(現金、ブランド物、衣服)を提供する、という流れを取る。
法的観点から見ると、(1) 18 歳未満の女子との性行為は、買春の対価授受の有無を問わず、児童買春・児童ポルノ法(1999)・各都道府県の青少年保護育成条例の処罰対象となる、(2) 18 歳以上の女性との性行為であっても、対価の授受が売春防止法上の「売春」に該当する場合は、女性側・斡旋者側が処罰される、という二段階の規制構造がある。
語源
「援助交際」の用語は、1985〜1990 年頃の風俗・出会い系業界で発生した俗語である要出典。「援助」=金銭・物品の支援、「交際」=男女の関係性、を組み合わせて、対価を伴う関係を婉曲的に表現する語として定着した。「お小遣い稼ぎ」「援交」(略称)等の派生語も並行して用いられる。
社会学者・宮台真司らは、1990 年代中盤に「援助交際」を「青少年女子の主体的な意思に基づく対価付き交際」として記述する観点を提示し、伝統的な「青少年買春」「児童売春」の枠組みとは異なる現代社会現象として論じた。この見解は議論を呼び、1990 年代後半の社会論争の焦点となった。
歴史
前史:テレクラ・伝言ダイヤル(1985–1995)
1985 年に東京・大阪で開業した「テレフォンクラブ」(略称・テレクラ)は、男性客がボックスから電話を受け、不特定多数の女性からの電話に応答する形式の出会い系業態であった。1986 年には NTT が「伝言ダイヤル」を開始し、不特定多数間のメッセージ交換による出会いが可能になった。1989 年に「ダイヤル Q2」のツーショットダイヤルが普及し、自宅からの非対面会話が可能となった。
これらのテレクラ・伝言ダイヤル・ダイヤル Q2 が、援助交際の連絡基盤として機能した。1990 年代前半には、ポケットベル(ベル付きの電子メッセージ通信)を介した男女の連絡が若年女性層に普及し、援助交際の物理的・通信的基盤が整備された。
社会問題化(1995–2000)
1996 年、週刊文春で記者・沼上郁による援助交際ルポルタージュが連載され、女子中高生・高校生の援助交際の実態が大きな社会問題として報道された。同年は「援助交際」が UCAN(ユーキャン)の流行語大賞でトップ 10 に入る等、メディアの主要トピックとなった。
1996 年の東京都・生活文化局の調査によれば、中学生・高校生(男女含む)の 3.3% に援助交際の経験があるとされた。1997 年のベネッセ教育研究所の調査では、女子高校生の 4.4% に援助交際経験があるとされた。これらの統計は、青少年買春問題に対する社会的対応を加速させる要因となった。
1999 年 5 月、児童買春・児童ポルノ禁止法が制定され、18 歳未満の児童に対する金銭授受を伴う性行為は刑事処罰の対象となった。2000 年代以降、東京都・大阪府等の各自治体の青少年健全育成条例(「東京都青少年の健全な育成に関する条例」等)も改正・強化され、青少年と成人男性の対価授受を伴う交際全般が規制対象となった。
規制と社会変動(2000–2010)
2000 年代に入り、児童買春・児童ポルノ法の運用、青少年健全育成条例の強化、警察行政の取締強化により、表面化していた青少年女子の援助交際は大幅に縮小した。出会い系サイト規制法(2003 年制定、2008 年改正)が、出会い系サイトを経由した青少年と成人男性の接触を制度的に制限した。
しかし、援助交際そのものが消滅したわけではなく、(1) 18 歳以上の女性に主体が移行、(2) ネット上のマッチングアプリ・SNS への基盤移行、(3) 「パパ活」等のリブランディング、により形を変えて存続した。
現代への移行(2010–現在)
2010 年代に入ると、「援助交際」の語は若年女性層では「古い言葉」として認識されるようになり、代わって「パパ活」が主流の呼称となった。両者の事実的内容は連続性を持つが、(1) パパ活は SNS・マッチングアプリでの出会いが基盤、(2) 性行為を必ずしも前提としない「食事のみ」「お茶のみ」のセッションも含まれる、(3) 18 歳以上の主体的な経済的自立手段としての位置づけが強調される、等の差異が認められる。
2020 年代以降は、ホストクラブの売掛を支払うために援助交際・パパ活・立ちんぼに従事する女性層が社会問題として浮上し、新宿区・東京都・警察庁の連携対応が始まっている。
法的位置づけ
援助交際の法的問題は、相手の年齢により大きく異なる。
18 歳未満の児童との関係: 児童買春・児童ポルノ禁止法 4 条により、児童に対する金銭授受を伴う性行為は買春として処罰される(3 年以下の懲役または 100 万円以下の罰金)。各都道府県の青少年健全育成条例も「淫行」として規制する。同意の有無を問わず、男性側に刑事責任が課される。
18 歳以上の女性との関係: 売春防止法が直接処罰対象としているのは性交の対価授受であり、対価の授受がない場合や、性交を伴わない関係の場合は同法の処罰対象とならない。ただし、勧誘・周旋・場所提供の行為は同法 5 条等で処罰される。
斡旋業者・場所提供者の処罰: テレクラ業者、出会い系業者、ホテル業者等は、児童買春の幇助、または売春防止法上の周旋・場所提供罪として処罰されうる。
文化的言及
援助交際は、1990 年代日本の社会問題・若者論・ジェンダー論の中心的トピックとなった。宮台真司『援助交際の社会学』(朝日新聞社、1996)、酒井隆史らの 1990 年代後半の若者論研究、フェミニズム系研究者(上野千鶴子、北原みのり等)の批評等が、援助交際を多角的に論じた。
メディア表象としては、岩井俊二監督映画『リリィ・シュシュのすべて』(2001)、村上龍小説『ラブ&ポップ』(1996、後に庵野秀明監督で映画化)等が、援助交際時代の青少年女子の心情を描いた代表作である。
援助交際は、戦後日本の青少年・性・経済の交差点として、現在のパパ活・出会い系に連続する社会現象の起点として、現在も継続的な研究・論議の対象となっている。
関連項目
参考文献
- 『援助交際 - Wikipedia』 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8F%B4%E5%8A%A9%E4%BA%A4%E9%9A%9B
- 『東京都青少年の健全な育成に関する条例』 東京都 https://www.reiki.metro.tokyo.lg.jp/reiki/reiki_honbun/g101rg00002150.html
- 『モノグラフ高校生 援助交際 1997』 ベネッセ教育総合研究所 https://ssjda.iss.u-tokyo.ac.jp/Direct/gaiyo.php?lang=jpn&eid=c052
- 『援助交際の社会学』 朝日新聞社 (1996)
- 『性風俗産業の社会学』 勁草書房 (2017)
別名
- 援交
- enjo kosai
- compensated dating
- 円光