競泳水着
水を切るために設計された一枚の布が、伸びた瞬間に肌の輪郭を別の形で立ち上げる。機能性が極まったところに、フェチが居場所を見つけた。
競泳水着(きょうえいみずぎ、英: racing swimsuit または competitive swimwear)とは、水泳競技用に設計された機能性最優先の水着の総称である。とりわけ女性用の競泳水着は、ハイレグカット・タイトな密着・耐塩素性合成繊維による高い伸縮性を備え、水中での流体抵抗を最小化する目的で開発されてきた。一方で当該設計は、身体表面の凹凸を可視化し、布地の境界線を明瞭に浮き立たせる性質を伴うため、成人向け表現分野では装束フェチの一翼として独自の支持を獲得するに至った着衣ジャンルの一形態でもある。
概要
競泳水着は、水泳競技における選手着用衣として開発された機能性水着の系譜に属する。1970 年代以降、ライクラ・スパンデックス等の高伸縮合成繊維の普及に伴い、ナイロン・ポリエステル混紡素材の薄手かつ強靭な水着が標準化した。国際大会基準では「ハイレグカット」と呼ばれる脚口の高位置設定、肩紐から股下までの一体成形、背中の開放部分等が定型として確立する。
成人向け表現分野では、競泳水着は着衣・着エロジャンルの定番衣装のひとつとして機能する。脱衣を伴わないコスプレ・グラビア・着エロビデオの題材として、競泳水着姿の女性出演者の身体を主題とする作品群が独立カテゴリを成している。本記事は、成人女性が成人として競泳水着を着用する文脈における当該衣装の記号性・受容史を扱う。
派生して、競泳水着型のショーツ単品(競パン、競泳ショーツ)も同様のフェチ対象として流通する。同じハイレグ・フィット系のアイテムとして、スクール水着・ブルマと並列に語られることが多い。
語源
「競泳水着」は和語「競泳」(競技として行う水泳)と「水着」(水中で着用する衣装)の合成語である。明治期以降の競技スポーツ普及に伴い、競技用の水着が一般用水着と区別されるようになった経緯を背景とする。英語 competitive swimwear、racing suit 等の対応語に対する翻訳語として確立した。
俗称の「競パン」は競泳水着のショーツ部分を指す造語で、ハイレグカットの女性用ショーツ型水着を指す業界・同人圏のスラングとして定着している。
歴史
競技用水着の系譜
水泳競技用水着の系譜は、19 世紀末から 20 世紀初頭の近代水泳の制度化と並行して発展した。当初は綿・羊毛素材の重い水着が用いられていたが、20 世紀前半にはナイロン繊維の発明(1938 年、デュポン社)を経て、軽量で水に強い合成繊維素材への転換が進展した。1950 年代以降、ライクラ繊維(1958 年、デュポン社)の登場により、現代的なフィット系競泳水着の素材的基盤が確立する。
オーストラリアの水着メーカースピード社(Speedo)は、20 世紀後半の競泳水着市場の代表的ブランドとして、各国代表選手の競技用水着を供給してきた。1972 年のミュンヘンオリンピック以降、合成繊維製のハイレグ系競泳水着が国際大会の標準となった。1980 年代から 1990 年代にかけては、撥水処理・低抵抗素材の開発が進み、女性用水着のハイレグカットの位置はさらに高くなる傾向を示した。
2000 年代後半には、レーザー社の「LZR Racer」(2008 年)に代表される全身被覆型のハイテク水着が記録ラッシュを生み、規制議論を経て 2010 年以降は素材・形状の規制が強化された。要出典 現行の競技用水着は、規制内での性能最適化を旨とした素材・形状を採る。
フェチ対象化の経緯
競泳水着が成人向け表現の対象として注目されるのは、1980 年代後半以降のグラビア写真・アイドル写真集ブームに対応する。ハイレグカットの脚部露出度の高さ、生地の薄さによる身体線の強調、競技場面での汗・水濡れの演出等が、女性身体の視覚的素材として機能した。1990 年代から 2000 年代にかけては、AV・着エロ・グラビアの定番衣装の一つとして地位が確立し、「競泳水着もの」の名称で独立した小カテゴリを形成する。
成人向けゲーム・同人誌・エロ漫画圏では、競泳水着は水泳部・水泳スクール等のキャラクター類型と結びつく定番装束として継続的に流通する。とりわけ「水泳部の先輩」「コーチ」「インストラクター」等の年長女性キャラクターに割り当てられることが多く、年下キャラクターに割り当てられることの多いスクール水着と対照的な記号配置を示す。
現代の流通
現代では、競泳水着は商業 AV・着エロビデオ・グラビア・コスプレ衣装の各市場で安定した需要を維持する。専門レーベルが競泳水着を主題とする作品群を継続的にリリースし、コスプレ衣装メーカーが競泳水着型のフェチ衣装(競技用ではなく見せ用に最適化した変奏)を販売する。FANZA・DMM 等の主要配信プラットフォームでは、検索タグとして「競泳水着」「競パン」等が定着している。
サブカル類型
競泳水着が二次元嗜好圏で組み込まれるキャラクター類型として、以下の構図が定型化している。
水泳部所属の年長女子キャラクターは、競泳水着の最も典型的な担い手である。日焼けした肌・引き締まった筋肉質の身体・スポーツ選手としての勝ち気な性格等の属性と組み合わさり、独自のキャラクター類型(「水泳部の先輩」)を形成する。日焼け跡(競泳水着の境界線が肌の白い部分と日焼けした部分を分ける)は、当該キャラクター類型の頻出する視覚的サブ記号である。
水泳インストラクター・スイミングコーチのキャラクター類型では、年上の指導者(教師・コーチ)としての役割と競泳水着が組み合わさる。年下キャラクター(生徒・選手)に対する指導場面が物語装置として用いられる。
宇宙人・SF 設定のキャラクターに、機能美を強調する意図で競泳水着型衣装を割り当てる例も見られる。フィット系全身衣装としての競泳水着の造形が、SF 設定の機能美と親和性を持つためである。
派生形態
競泳水着の派生・変奏として、以下の形態が流通する。
- 競パン:競泳水着のショーツ部分のみを単品化したアイテム。トップレス・ノーブラ等の上半身露出と組み合わさる場合が多い
- ハイレグレオタード:競泳水着と同じくハイレグカットを採用した陸上競技用・体操用衣装で、競泳水着のフェチ的特性を陸上の文脈に転用したもの
- 全身競泳水着:2000 年代後半に流行した全身被覆型水着の意匠的フェチ的応用作例
- 半透明素材競泳水着:濡れた状態での透け感を強調する変奏作例。AV・着エロ用に特化した非競技衣装として制作される
- 校章・刺繍入り競泳水着:学校・チームの所属を示す刺繍を加えた変奏。物語上の所属設定の補強として機能する
関連表象
競泳水着が組み込まれる物語装置として、プールサイド・更衣室・水中シーンの三典型がある。プールサイドでは、濡れた状態の競泳水着の透け感・肌への密着が視覚的主題となる。更衣室では、競泳水着の着脱・着替え場面が物語装置として機能する。水中シーンでは、水の屈折を経由して競泳水着の輪郭・身体線が独自の視覚効果を持つ。
服装文脈では、制服・ブルマ・スクール水着等の装束系記号と隣接する位置にあり、装束系成人向けジャンルの一翼を成す。スクール水着が「学生」を記号化するのに対し、競泳水着は「競技者」「年長者」を記号化する点で、両者は意匠的類似性にも関わらず別カテゴリとして流通する。
関連項目
参考文献
- 『水着の文化史』 光村推古書院 (2003)
- 『Speedo: An Australian Icon』 Hardie Grant (2014)
- 『水着とジェンダー』 新曜社 (2009)
- 『ファッション辞典』 文化出版局 (1999)
別名
- 競泳水着
- レーシングスーツ
- racing swimsuit
- competitive swimwear
- 競パン