ダブル挿入
ひとつの身体に二本の経路が同時に通過するという視覚的事実は、ポルノ表象における極端化の系譜を象徴する。
ダブル挿入(だぶるそうにゅう)とは、1 名の女性に対し 2 本の陰茎または器具が同時に挿入される性的行為を指す業界用語である。英語圏では double penetration(略称 DP)と呼ばれ、日本のアダルトビデオ業界・海外成人映像産業の双方において確立した独立ジャンルを形成する。膣(羅: vagina)・肛門(羅: anus)・口腔(羅: os)の 3 穴のうち 2 穴を同時に運用する構図を取り、参加者構成は最小単位で女性 1 名・男性 2 名となる。本項では用法、語源、ジャンル史、解剖学的検討、規制との関係について述べる。
概要
ダブル挿入は、1 名の女性に対する 2 本の同時挿入を主題化した行為類型である。挿入経路の組合せにより、業界内では概ね次の下位区分が認識されている。
- 膣・肛門同時挿入(double penetration, 狭義の DP): 2 名の男性または 1 名の男性と器具による、膣口と肛門の同時運用
- 膣・口腔同時挿入: 一方が口腔への挿入(イラマチオ的な深部接触を含む)
- 肛門・口腔同時挿入: 海外ポルノで ATM(ass-to-mouth)系演出と接続して運用される形態
- ダブルアナル(double anal, DAP): 肛門への 2 本同時挿入。最も極端化された派生形
日本のアダルトビデオ業界では「2 穴責め」「二穴」「ダブル挿入」等の表記が混在する。「2 穴」表記は膣・肛門の組合せを指す既定の用法として 1990 年代以降に定着した。海外ポルノ業界では DP がほぼ全業界共通の略号として運用され、TP(triple penetration, 3 穴同時)・DAP(double anal penetration)等の派生略号も整備されている。
ダブル挿入は複数プレイの一形態として位置づけられる。最小単位の構成(女 1・男 2)は複数プレイ業界用語上の「3P」に該当し、両概念は包含関係にある。ただし、ダブル挿入は「同時挿入」という構図上の限定を伴うため、3P の全てがダブル挿入を含むわけではなく、両概念は重なりつつも別個の分類軸を形成する。
語源
「ダブル挿入」は英語 double penetration の意訳借用に由来する複合語である。前部要素「ダブル」(double)は「二重の」を意味する英語形容詞の借用、後部「挿入」は漢語動名詞「挿入」(そうにゅう、挿入を参照)で、両者の結合により「2 本同時の挿入」を簡潔に示す術語が形成された。
略号 DP は英語 double penetration の頭字語で、米国ポルノ業界の業界誌『Adult Video News』(AVN, 1983 年創刊)等で 1980 年代後半から定着が確認される業界共通略号である。日本の業界においても 2000 年代以降、海外ポルノ流通の拡大に伴って DP 表記が併用されるようになった。
「2 穴」「二穴」は漢字直裁な記述語で、解剖学的経路を「穴」と俗称化した日本の業界用語特有の表現である。「2 穴責め」の「責め」は SM 文化(SM)に由来する業界用語で、能動 / 受動の役割関係を含意する点で英語 DP よりニュアンスが強い語形となる。
英語 penetration は古代ラテン語 penetrare(「奥深く入る」)に由来し、医学・生理学術語として中性的記述に用いられる一方、ポルノ業界においては挿入行為を直裁に指す業界用語として機能する。
歴史
海外ポルノにおける DP の成立
ダブル挿入の主題化は、1970 年代の欧米成人映像産業の確立期に遡る。1972 年公開の『Deep Throat』、1973 年の『The Devil in Miss Jones』等を頂点とする「ポルノチック」(porno chic)期の作品群においては、極端化された行為類型の主題化が産業全体の差別化戦略の主軸となった。リンダ・ウィリアムズ『Hard Core』(1989)はこの時期のポルノ表象を「視覚化への狂熱」(frenzy of the visible)として概念化し、ダブル挿入を含む極端化構図を当該系譜上に位置づけた。
1980 年代以降、家庭用 VHS 市場の拡大に伴って米国ポルノ産業は大量生産・カテゴリ細分化期に入った。DP ジャンルもこの時期に独立カテゴリとして整備され、ロッコ・シフレディ(Rocco Siffredi)等のイタリア系男優を中心とする「ハードコア DP」シリーズが 1990 年代に商業的成功を収めた。The Other Hollywood(McNeil & Osborne, 2005)はこの時期の業界口述史として、DP ジャンル成立期の現場証言を収録している。
2000 年代以降、欧米ポルノ業界では DP がほぼ標準演出として定着し、業界賞(AVN Award)においても Best Double Penetration Sex Scene 等の独立部門が設けられている。
日本 AV における 2 穴ジャンル化
日本のアダルトビデオ業界における 2 穴・ダブル挿入の主題化は、1990 年代後半から 2000 年代にかけて整備された。1980 年代からアナル系演出は限定的に存在したが、独立した売りとして「2 穴」を主題化したシリーズの確立は、海外ポルノ流通の影響を受けた 1990 年代後半が画期となる[要出典]。
2000 年代に入ると、複数大手メーカーから 2 穴を主題化した専門レーベルが登場し、「2 穴責め」「ダブル挿入」「W 挿入」等の表記が定着した。藤木 TDC『AV 産業 30 年史』(2009)は同時期のジャンル細分化を、メーカー間の差別化競争の結果として記述している。
2010 年代以降は同人誌・エロ漫画・エロゲ等のサブカル領域でも当該主題の定着が進み、視覚表現としての様式化が完成した。実写領域における身体的負荷の高さに対し、二次元領域では当該制約が解除されるため、より極端化された構図が描かれる傾向が指摘される。
解剖学的・身体的検討
ダブル挿入は、関与する解剖学的部位の特性により、参加者(主に受け手側)に高い身体的負荷を伴う行為類型である。狭義の DP(膣・肛門同時)では、両経路を隔てる直腸膣中隔(septum rectovaginale)が直接的な機械的負荷を受ける。同部位は厚さ数ミリの結合組織層であり、過度の機械的応力は粘膜損傷・直腸膣瘻のリスクを伴う[要出典]。
肛門括約筋(sphincter ani)は外肛門括約筋(随意筋)と内肛門括約筋(不随意筋)の二重構造を持ち、緊張時には収縮が反射的に強化されるため、段階的な弛緩訓練を経ない急激な拡張は粘膜裂創・括約筋損傷の原因となる。ジャック・モーリン『Anal Pleasure and Health』(1981)は当該部位の段階的訓練の必要性を実証的に記述しており、ダブルアナル(DAP)等の極端化形態は当該訓練を経た出演者に限定して運用される業界実態がある。
成人映像作品の制作現場では、上記負荷を踏まえた運用慣行(潤滑剤の十分な使用、休止時間の確保、出演者の健康診断、性感染症スクリーニング等)が業界自主規制の枠組みのもとで整備されている。米国アダルト業界では PASS(Performer Availability Screening Services)による定期検査が標準化されており、日本においても業界自主規制団体による同種の枠組みが運用されている。
派生形態
狭義の DP(膣・肛門同時挿入)
最も典型的な構図。男性 2 名が女性 1 名に対し、一方が膣口に、他方が肛門に同時挿入する形態。座位 / 仰臥位 / 立位等の体位と組み合わされ、撮影時のカメラワークは両経路の同時可視化を目的に設計される。
ダブル膣挿入(double vaginal, DV)
膣口に 2 本の同時挿入を伴う形態。日本の業界では限定的、海外ポルノでは独立略号 DV または DVP として運用される。
ダブルアナル(double anal, DAP)
肛門に 2 本の同時挿入を伴う形態。極端化の頂点に位置する派生で、当該領域の段階的訓練を経た限定的な出演者により運用される業界特性を持つ。
トリプルペネトレーション(triple penetration, TP)
3 穴(膣・肛門・口腔)の同時運用を伴う形態。最小単位で女 1・男 3 の構成となり、複数プレイの最小単位を超える規模を要する。視覚的極端化の系譜における到達点の一つとして位置づけられる。
器具併用型
陰茎 1 本と器具(バイブレータ・ディルド等、大人のおもちゃを参照)の組合せによる形態。出演者数を抑えつつ視覚的構図を実現できるため、低予算作品・配信特化作品で採用される傾向がある。
文化的言及
ジェンダー・セクシュアリティ研究の領域では、ダブル挿入表象は「複数の他者による身体の占有」という主題装置として論じられる。リンダ・ウィリアムズ以降のポルノ研究では、当該構図が伝統的な「一対一」の性的関係性のフレームを破壊し、身体を「複数の経路を持つ対象」として再構成する点が、批評的検討の中核を形成する。
寝取られ系作品との接続も活発で、当該系統では DP が「他者による所有」の主題を強化する装置として機能する。物語的フレームを伴う DP は純粋な視覚的演出としての DP とは別個のサブジャンルを形成し、感情的・関係論的な負荷を伴う点で差別化される。
公衆衛生上の観点からは、当該行為に伴う性感染症伝播リスク、出演者の身体的負荷、撮影現場の衛生管理が継続的論点である。世界保健機関(WHO)・米国疾病予防管理センター(CDC)等の公衆衛生機関は、肛門経路を含む性的接触におけるコンドーム使用・潤滑剤使用・事前準備の重要性を啓発資料に継続的に記載している。
規制との関係
ダブル挿入を含む多人数撮影は、出演者保護・同意取得の観点から法的・倫理的な検討対象となる行為類型である。日本においては 2022 年に施行された「AV 出演被害防止・救済法」(通称 AV 新法)が、出演契約の書面化、撮影前の説明義務、撮影終了後の公表猶予期間等を義務化した。多人数撮影・極端化された行為類型を含む撮影については、契約段階での個別合意取得・撮影内容の事前説明が法的義務として明確化された。
同法施行後の運用上、ダブル挿入を含む高負荷行為については、契約書において具体的行為内容を列挙して同意取得する慣行が定着している。出演者は同意した範囲を超える行為の撮影を拒否する権利を保持し、また撮影後 1 年間は契約解除権を行使し得る。
刑法上は、合意成人間の当該行為そのものは処罰対象ではないが、撮影行為が強制性交等罪・不同意性交等罪の構成要件に該当する場合(撮影現場での同意取得不全、契約と異なる行為の強要等)、刑事責任が生じ得る。2023 年の刑法改正により「不同意性交等罪」が新設され、同意取得の実質性に関する判断枠組みが整備された結果、業界の同意取得実務はより慎重な運用が求められている。
国際的には、当該領域の規制は国により大きく異なる。フランス・ドイツ等は商業ポルノ全体を許容しつつ出演者保護法制を整備し、米国は連邦法 18 U.S.C. § 2257 により出演者の年齢・身元記録保管を義務化している。アイスランド・韓国等は当該領域全体を強く規制する立法を採用しており、規制強度の地域差が国際的なポルノ流通の構造を規定している。
関連項目
参考文献
- 『AV 産業 30 年史』 文藝春秋 (2009) — 1990 年代以降のジャンル細分化の記述
- 『Anal Pleasure and Health』 Down There Press (1981) — 肛門括約筋の解剖学・段階的訓練
- 『Hard Core: Power, Pleasure, and the Frenzy of the Visible』 University of California Press (1989) — 視覚的極端化の系譜論
- 『The Other Hollywood: The Uncensored Oral History of the Porn Film Industry』 ReganBooks (2005) — 1980–90 年代米国ポルノにおける DP 定着の証言史
- 『性風俗の歴史を学ぶ』 筑摩書房 (2007)
- 『性的同意年齢及び性犯罪に関する刑法改正』 法務省刑事局 (2023) — AV 出演被害防止・救済法の運用と多人数撮影
別名
- DP
- double penetration
- 2穴責め
- 二穴
- ダブルペネトレーション