アナル舐め
口腔の機能を、性器以外の部位に向けるという発想自体が、性愛文献の中では遅くまで本格的に主題化されなかった。
アナル舐め(あなるなめ、英: rimming、rim job、医学用語 anilingus または analingus)とは、口・舌・唇によって相手の肛門・肛門周辺を刺激する性行為。日本語では「リミング」(英語の音写)・「アニリングス」(医学用語)・「アナル舐め」(俗語)などの名で呼ばれ、文脈により使い分けられる。性風俗業の選択肢の一つとして、AV・成人向け漫画における特殊行為として、また同性愛男性間の性行為の一形態として、独自の位置を占める。衛生管理が重要な行為として、医学・公衆衛生の文脈でも論じられる。
概要
アナル舐めは、オーラルセックスの一類型として位置づけられる。フェラチオ(挿入側性器への口腔刺激)・クンニリングス(被挿入側性器への口腔刺激)と並列に、口腔を用いた性的刺激の一形態として性愛体系の中に組み込まれる。
肛門および肛門周辺は、体内・体外の境界部に位置し、内括約筋・外括約筋を含む複雑な神経分布を持つ。性感帯としての機能を有することは性科学・解剖学の文脈で確認されており(陰部神経の枝が肛門周辺に到達する)、刺激により性的興奮を誘発しうる。アナル舐めは、この生理学的基盤の上に成立する性行為として位置づけられる。
衛生管理の観点からは、アナル舐めは複数の感染症リスクを伴う行為として認識される。A 型肝炎・赤痢アメーバ症・尖圭コンジローマ・大腸菌・サルモネラなどの病原体が、肛門周辺から口腔・咽頭への伝播経路として機能しうる。安全な実施には、入浴・洗浄・デンタルダム(口唇用バリア)などの衛生対策が推奨される。
語源
「アナル舐め」(あなるなめ)は、英語 anal(肛門の)の借用と和語動詞「舐める」の連用形・名詞化の合成語。1980–90 年代の性風俗業界・AV 業界用語として成立し、以降は性愛俗語として一般流通している。
「リミング」(rimming)は英語俗語の音写。rim(縁、肛門の縁の意)の動詞用法に由来し、英語圏のゲイコミュニティ・BDSMコミュニティでは標準的な俗語として用いられる。「リムジョブ」(rim job)も並列の俗語として流通する。
医学用語「アニリングス」(anilingus、または analingus)は、ラテン語 anus(肛門)+ lingere(舐める)の複合語。19 世紀末から 20 世紀初頭の医学・性科学文献において確立した用語で、医学的・中性的な語感を持つ。
歴史
古代
アナル舐めに類する行為の記述は、古代地中海世界の文献において確認される。古代ローマの卑猥詩(carmina priapeia・カトゥルス詩集など)にはアニリングスへの言及が含まれる。古代ローマでは、アニリングスを実施することは通常、社会的に従属的・侮辱的位置づけと結びつけられ、自由人・特に成人男性が他者にアニリングスを「実施する」ことは恥辱的と見なされる文化的規範が存在した。
古代インドの『カーマ・スートラ』では、アニリングスへの直接的言及は限定的だが、肛門周辺への口腔接触に関する記述は性愛技法の一部として包含される要出典。日本の江戸艶本・春画においては、アニリングスの図像は限定的で、近代以前の日本の性愛文化におけるこの行為の位置づけは限定的だったと考えられる。
近代
19–20 世紀の医学・性科学文献において、アニリングスは性的多様性の一形態として記述された。クラフト・エビング『性的精神病理』(1886)では、アニリングスは「倒錯」の一類型として扱われたが、20 世紀後半以降の性科学では病的視する立場は否定され、合意的な性的多様性の一形態として位置づけられる。
1948 年のキンゼイ報告では、アメリカの異性愛男性の経験率が低い行為として記述され、当時の社会的タブー性が反映された結果が報告された。1970 年代以降の性解放運動・LGBTQ 解放運動を経て、アニリングスは多様な性的選択肢の一つとして社会的可視性を高めた。
現代
現代日本においては、アナル舐めは性風俗業(ファッションヘルス・デリヘル・ピンサロ・M性感など)の選択肢の一つとして提供されることがある。店舗系風俗・派遣型風俗のいずれにおいても、追加サービスメニュー(オプション)として明示される事例が見られる。
AV・成人向け漫画における表現では、アナル舐めは「特殊行為」「マニアック行為」のカテゴリに分類される傾向にある。AV ジャンル名としては「アナル系」「リミング」「M男向け」などのカテゴリの中に包含される。一般向け AV における登場頻度は限定的で、特定ジャンル(同性愛・BDSM・専門マニアック系)の中で固有の表現を獲得する。
衛生・医学的考慮
アナル舐めの衛生面・医学的リスクは、複数の感染症伝播経路と関連する。
感染症リスク
肛門周辺は、消化管内容物・腸内細菌の存在により、口腔への伝播リスクを伴う部位である。アナル舐めにより伝播しうる病原体には、(一)A 型肝炎ウイルス(hepatitis A virus、HAV)、(二)赤痢アメーバ・ジアルジアなどの寄生虫、(三)大腸菌・サルモネラ・シゲラなどの細菌、(四)尖圭コンジローマ(condyloma acuminatum、HPV による)などが含まれる。
特に A 型肝炎は、近年の日本において男性間性的接触者(MSM)の間で感染拡大が報告されている。2017–2018 年の東京都を中心とした全国的流行では、アナル舐めを介した経口感染が主要伝播経路として推定された。HAV ワクチンの接種が、感染予防の主要対策として推奨される。
安全な実施
リスク低減のための実施手順として、(一)実施前の入浴・肛門周辺の洗浄、(二)デンタルダム(口唇用バリア)の使用、(三)実施前後の口腔洗浄、(四)肛門と膣・口腔と膣を交互に往来させない(細菌の移動を回避する)、などが性教育・公衆衛生文献で推奨される。
下痢・痔・直腸出血などの症状がある状態でのアナル舐めは、感染リスクを大幅に高めるため、実施を回避することが推奨される。
受容心理と表現
アナル舐めの受容心理は、性愛文化におけるタブー性・特殊性と深く絡み合う。「通常の性的接触の境界の外」に位置する行為として認識される傾向があり、この越境性が性的興奮の源となる事例がある。BDSM・SM文化の文脈では、アナル舐めは支配・服従関係を表現する行為として位置づけられる事例があり、被支配側が支配側のためにアナル舐めを実施する設定が、特定ジャンルのエロ漫画・同人誌で定型として描かれる。
痴女系作品・M男向け作品では、女性が男性にアナル舐めを実施する構図、もしくは女性が男性からアナル舐めを受ける構図が、ジャンルの主要要素として頻出する。M性感の店舗においても、アナル舐めは女性キャストから男性客への提供サービスの一つとして位置を占める。
アナル・浣腸・クンニリングス・手コキなどの関連行為と組み合わせる演出が、AV・成人向け漫画における標準的な配置となる。アナル舐めからアナルセックスへの移行、浣腸後のアナル舐め、クンニリングスからアナル舐めへの移行など、行為の連続的展開が表現の典型パターンとして定着している。
関連項目
参考文献
- 『アニリングス』 ウィキペディア日本語版 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%B9
- 『アナル舐めだけでも性病に感染するの?』 性病検査の病院なび https://seibyoukensa-lab.com/yobou/huuzoku-action/anaru-nameru/
- 『A型肝炎について』 あおぞらクリニック新橋院 https://www.aozoracl.com/a-hepatitis
- 『Sexual Behavior in the Human Male』 W. B. Saunders (1948)
別名
- リミング
- rimming
- rim job
- アニリングス
- analingus
- anilingus
- 肛門口腔接触