「外で出すから大丈夫」。性教育の現場が最も警戒する一文である。
外出し(そとだし)とは、性交の終末において、射精に先立って陰茎を膣外へ抜去し、体外で射精を完結させる行為を指す日本語の口語表現である。医学・公衆衛生分野では膣外射精(英: withdrawal method)、ラテン語に由来する古典的呼称では性交中絶(羅: coitus interruptus)と呼称される。一般人口における代表的な避妊試行法のひとつである一方、効果の不確実性が累々と指摘されており、世界保健機関(WHO)をはじめとする公衆衛生機関は単独避妊法としての推奨を行っていない。
概要
外出しは、性交における射精の場所を体外に置く事象記述であり、特定の体位や場面構成を指す語ではない。生殖生理学上は、射精に至る前段階で陰茎を抜去することにより精液の膣内到達を回避しようとする行為であり、人類が古来より用いてきた避妊試行法の最も簡素な形式に分類される。
成人映像産業における用語としての「外出し」は、画面上の演出区分として機能し、対概念である中出しとの二項対立的分類において確立した語である。商品としての作品の格付けにおいて、両者は明確に区別される。日本の自主規制下で結合部の直接描写に制約が課されてきた歴史的経緯のもと、射精の場所が体外か体内かという一点が、画面上で視覚的に確認可能な数少ない演出差異として機能してきたという文脈がある。
なお現実の性行為における当該行為の選択は、当事者間の合意、避妊措置、性感染症対策などの文脈に依拠すべき事柄であり、本項は専ら語史・避妊学・文化史的記述に徹する。
語源
「外出し」は、日本語の名詞「外」(そと、外部)と動詞「出す」の連用形「出し」の合成語であり、「外部へ向かって出す」「体外に放出する」の意を直截に表現する口語的造語である。中出しとの対比における対義表現として広く用いられる。
医学領域における日本語表記としては「膣外射精」が用いられ、英語の extravaginal ejaculation ないし withdrawal に対応する。古典ラテン語の coitus interruptus(coitus 「性交」+ interruptus 「中断された」)は、19 世紀以降の人口学・避妊学における学術用語として国際的に流通している。「中断された性交」という直截な命名が、行為の本質を端的に示している。
「ピルアウト」は経口避妊薬(ピル)を用いずに体外射精のみで避妊を試みる方略を指す日本語圏の口語的合成語である要出典。
ユダヤ教・キリスト教の伝承における「オナン(Onan)」の故事は、外出しの古典的言及としてしばしば引用される。『旧約聖書』創世記第 38 章において、オナンが亡兄の妻タマルとの性交時に「種を地に流した」(英欽定訳: spilled it on the ground)と記述されており、これが膣外射精の最古の文書記録のひとつとされる。後年、自慰を意味する onanism(オナニズム)の語源としても流用されたが、原典の記述自体は膣外射精の描写であることは聖書解釈学において指摘される所である。
避妊法としての位置づけ
失敗率の実態
膣外射精は、コンドームや経口避妊薬と並んで世界的に最も広く実践されてきた避妊試行法である一方、効果の不確実性が極めて高い方法であることが避妊学研究によって繰り返し示されている。Trussell ほかによる Pearl 指数(年間 100 女性あたりの妊娠数)を用いた米国コホート研究では、外出しの典型使用時失敗率は約 22%(perfect use では約 4%)とされ、コンドーム(typical 13%)、経口避妊薬(typical 7%)、子宮内避妊器具(IUD、typical 0.1–0.8%)と比較して有意に高い失敗率を示す。
この高い失敗率の主因として、以下の二点が医学文献で挙げられる。
第一に、先カウパー腺液(尿道球腺液、英: pre-ejaculate)中の精子の存在である。Killick ほか(2011)による研究では、調査対象男性の約 41% の先カウパー腺液サンプルから運動精子が検出されており、射精に至る前の段階で既に精子が膣内へ到達しうる事実が確認されている。「射精さえ外でやれば妊娠しない」という素朴な理解は、生理学的事実と整合しない。
第二に、抜去のタイミングを正確に制御することの困難である。射精反射は中枢神経系の不随意な過程であり、自覚的な「射精直前」の感覚から実際の射出までの時間的余裕は極めて短い。性的興奮の高まりとともに自己制御能力が低下する状況下において、抜去判断の遅延は容易に生じうる。
性感染症予防効果の欠如
外出しは、たとえ実施が成功した場合であっても、性感染症(STI)の予防効果を持たない。HIV、梅毒、淋菌、クラミジア、HPV、HSV-2 等の主要な性感染症は、先カウパー腺液・膣分泌液・粘膜接触を介して伝播しうるため、結合の存在自体がリスク要因となる。WHO は性感染症予防にはラテックスコンドームの一貫した正しい使用が唯一の有効な障壁的方法であると明記している。
公衆衛生機関の見解
WHO が刊行する『Selected Practice Recommendations for Contraceptive Use』および『Family Planning: A Global Handbook for Providers』においては、膣外射精は「他に利用可能な避妊法がない、もしくはそれらが受容不可能である状況下における暫定的方法」として位置づけられており、第一選択の避妊法としては推奨されていない。日本産科婦人科学会、日本家族計画協会も同様に、確実な避妊を求める性行為においてはコンドーム・低用量ピル・IUD・IUS 等の確立された方法の併用を推奨している。
歴史
膣外射精は、人類が記録上もっとも古くから実践してきた避妊試行法と考えられている。前述のオナンの故事に加え、古代ギリシア・ローマ期の医学文献(ソラヌス『婦人科論』など)、イスラーム圏古典法学における al-ʿazl に関する議論、中世ヨーロッパの教会法における議論など、各文化圏において膣外射精への言及が確認される。
近代以降、ヨーロッパにおける人口転換期の研究は、19 世紀フランスを中心とする出生率の早期低下が coitus interruptus の広範な実践と関連していた可能性を示唆している。当時、コンドーム(加硫ゴム製の量産品が普及したのは 19 世紀後半以降)や信頼性の高い経口避妊薬が存在しない状況下で、膣外射精は最も入手容易な避妊試行手段として機能した。
20 世紀後半に経口避妊薬(1960 年に米国 FDA が認可)、IUD、近代的コンドームが普及すると、先進国における外出しの単独使用は減少傾向を示したが、現在に至るまで完全に消失することはなく、若年層・無計画的性交渉・避妊具非所持時の即時的選択肢として根強く残存している。
文化的言及
AV 業界における演出区分
中出しの対概念として、AV 業界では「外出し」が古典的な演出区分として確立してきた。1980 年代から 1990 年代の作品群においては、自主規制下の表現上の制約により射精場面が体外で完結する形が標準であり、その文脈では「外出し」が默認の前提であって、わざわざジャンル名として商品化される性質のものではなかった。
1990 年代以降、中出しが解禁・商品化されジャンルとして拡大するに従い、外出しは「中出しではない」ことを示す対比的標識として後景化した。ジャケット表記における「中出し解禁」「初中出し」といった修飾は、その商品が外出し作品ではないことを積極的に主張する装置として機能する。語の流通量の点では、中出しが業界用語として国際的に借用された(nakadashi として英語圏に定着)のに対し、外出しは医学的呼称(withdrawal / pull-out)が併存する形で、業界用語としての海外輸出は限定的に留まる。
エロ漫画・フィクションにおける扱い
エロ漫画・成人向けゲーム・官能小説等の物語作品において、「外出しなら大丈夫」「外で出すから心配するな」といった登場人物の発話は、頻出する定型表現として機能する。これらの発話は、しばしば物語上、避妊効果の欠如を観客に予感させる伏線として機能し、後続する妊娠展開・寝取られ展開の起点を構成する。
一方で、避妊効果を実際以上に保証する誤解を強化しうる描写——とりわけ性教育を欠いた読者層に対して「外出しが安全な避妊法である」かのような印象を与える描写——は、公衆衛生・性教育上の懸念として教育者・医療従事者から指摘されることがある要出典。フィクションの性表現が現実の避妊行動に与える影響については疫学的因果の特定が困難であるが、性教育の不在を補完する情報源としてフィクションが参照されうるという構造自体が論点として認識されている。
性教育上の警告
日本国内外の公的性教育プログラムにおいては、若年層に対し膣外射精を単独避妊法として依拠することへの警告が繰り返し発信されてきた。日本家族計画協会の啓発資料、文部科学省の学習指導要領にもとづく保健教育、各国の同種プログラムは、外出しを「避妊と呼ぶに値しない」とまでは断じないものの、確実な避妊を求める場合における不適格性を明確化している。
隣接概念
- 中出し: 膣内に射精する行為。外出しの対概念。
- 顔射(がんしゃ): 顔面に向けて射精する行為。
- ぶっかけ: 複数射出者による体外放出を主題化した概念。
- 生ハメ: コンドーム非装着での性交。外出しが避妊試行手段として援用されやすい文脈。
- 射精: 射精に伴う絶頂現象一般。
関連項目
参考文献
- 『Selected Practice Recommendations for Contraceptive Use, 3rd ed.』 WHO (2016) https://www.who.int/publications/i/item/9789241565400
- 『Family Planning: A Global Handbook for Providers (2022 update)』 WHO (2022)
- 『Contraceptive Technology, 21st ed.』 Ayer Company Publishers (2018)
- 『Contraceptive failure in the United States』 Contraception, vol. 83, no. 5 (2011) — Pearl 指数による主要避妊法の失敗率比較研究
- 『Pre-ejaculate as a possible vehicle of HIV-1 and sperm』 Human Fertility, vol. 14, no. 1 (2011) — 先カウパー腺液中の運動精子検出に関する研究
- 『避妊・低用量経口避妊薬の使用に関するガイドライン』 日本産科婦人科学会 (2020)
- 『家族計画指導の手引き』 日本家族計画協会 (2019)
別名
- sotodashi
- 膣外射精
- ピルアウト
- 性交中絶
- withdrawal method
- coitus interruptus
- pull-out method