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単純所持(児童ポルノ)

tanjunshoji

「持っているだけで罪になる」という規範は、日本の刑事法において長く例外的なものであった。

単純所持(たんじゅんしょじ)とは、児童ポルノを販売・頒布・提供・公然陳列等の目的を伴わずに、自己の支配下に置く行為をいう。日本では 2014 年(平成 26 年)6 月に成立した改正児童買春・児童ポルノ禁止法(平成 26 年法律第 79 号)によって、自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノの所持が処罰対象となった(7 条 1 項)。それ以前、現行法下での所持規制は提供目的所持(7 条 2 項)に限られており、純粋な私的保有は刑事処罰の射程外にあった。本項では立法に至る経緯、構成要件、国際比較、創作物規制論争との接続点を扱う。

立法以前の状況

1999 年成立時の不処罰

1999 年(平成 11 年)5 月成立、同年 11 月施行の児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(当時の正式名称)は、児童ポルノの製造・提供・公然陳列・輸出入等を処罰対象としたが、提供目的を伴わない単純所持は処罰範囲から除外していた。立法当時の議論では、私的領域への過度の刑事介入への懸念、自己使用目的の保有を捕捉するための捜査手法(住居侵入・押収)が憲法 35 条との関係で問題を生む可能性、「自己の性的好奇心を満たす目的」の主観的要件の立証困難等が、単純所持処罰化を見送る理由として指摘された要出典

2004 年改正における先送り

2004 年(平成 16 年)6 月成立の第一次改正は、提供罪等の法定刑引き上げ、インターネット流通への対応強化、提供目的所持の処罰範囲拡張を主眼とするものであった。単純所持処罰化は与野党間の協議で複数回俎上に載ったものの、表現規制との関係で慎重論が強く、合意に至らず先送りとなった。同改正の附則は、施行から 3 年を目途とする見直し条項を置き、後の単純所持規制論議の基礎となった。

2009 年法案の廃案

2008 年から 2009 年にかけて、自由民主党・公明党は単純所持処罰化を含む改正案を国会に提出した。同案は漫画・アニメ・CG 等の架空表現への規制適用可能性を巡り、出版業界・漫画家・表現規制反対運動から強い反対を受け、衆議院解散により審議未了廃案となった。同案を巡る論争は、児童保護運動と表現の自由を擁護する立場との対立構図を明確化した契機としても理解されている。

2014 年改正と立法

法案の概要

2014 年(平成 26 年)6 月 18 日、与党・民主党・維新の会の共同提出による改正案が衆議院本会議で可決、25 日に参議院本会議で全会一致により可決成立した。同年 7 月 15 日公布・施行、ただし単純所持罪に係る罰則部分は 1 年間の周知期間を経て 2015 年 7 月 15 日から適用された。改正法は児童ポルノの単純所持を新たに 7 条 1 項として処罰対象とし、法定刑を 1 年以下の懲役又は 100 万円以下の罰金と定めた。

「自己の性的好奇心を満たす目的」要件

新設された 7 条 1 項は、単に児童ポルノを所持する行為ではなく、「自己の性的好奇心を満たす目的で」所持する行為を構成要件とする。この主観的要件は、過失的所持(意図せずダウンロードしたケース、メール添付の自動受信、家族・他者の所有物が同居人の支配下に偶然存在するケース等)を処罰範囲から除外する機能を担う。立法過程では、当該要件が捜査機関の運用裁量を広げ過ぎないかが論じられ、衆参の法務委員会答弁では、所持の経緯・態様・再生履歴等を総合考慮して認定する旨が確認された。

周知期間と運用開始

罰則部分の施行を 1 年遅らせる経過措置は、改正法案の重要な特徴である。これは、過去に何らかの経路で取得し、現に保管しているコンテンツを処分する機会を国民に与えるという立法配慮であり、罪刑法定主義における新規犯罪化に伴う遡及的不利益を緩和する設計として位置づけられる。警察庁の統計によれば、2015 年の運用開始以降、単純所持に係る検挙人員は年々増加し、2020 年代には児童ポルノ関連検挙の主要類型のひとつを占めるに至っている。

国際的潮流と協調

国連子どもの権利条約と選択議定書

1989 年国連子どもの権利条約 34 条は、児童をあらゆる形態の性的搾取・性的虐待から保護する義務を締約国に課した。2000 年に採択された選択議定書(児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関するもの、2002 年発効)は、3 条 1 項(c)で「児童ポルノの製造、頒布、配布、輸入、輸出、提供、販売又は所持」を犯罪化することを締約国に求める。日本は 2005 年に同議定書を締結したが、所持の犯罪化義務との関係で単純所持の不処罰状態は国際的義務との緊張を孕み続けた。

G8 諸国における先行立法

2010 年代前半までに、米国、英国、ドイツ、フランス、カナダ、イタリア、ロシアといった G8 諸国は、いずれも単純所持を刑事処罰の対象としていた。日本のみが単純所持を犯罪化していなかった状況は、国際会議や二国間協議の場で繰り返し指摘される事項となり、2014 年改正の重要な政治的推進力となった。

国際捜査協力(ICAC、Interpol、ICSE)

米国司法省主導の Internet Crimes Against Children Task Force(ICAC)、国際刑事警察機構(Interpol)が運用する国際児童性的搾取データベース(International Child Sexual Exploitation database, ICSE)等は、児童ポルノコンテンツの国際流通に対する捜査協力の枠組みを構成する。これら枠組みへの実効的な参加には、参加国が自国法制において単純所持を犯罪化していることが事実上の前提となっており、2014 年改正は国際捜査協力の前提条件整備という意味も持った。

創作物との関係

改正法附則 2 条の留保

2014 年改正の審議過程で最大の争点となったのは、漫画・アニメ・コンピュータグラフィックス(CG)等の架空表現を規制対象に含めるか否かであった。出版業界・著作者団体・表現規制反対運動は、創作物規制が芸術表現・娯楽表現の萎縮効果を生む点、保護法益(現実の児童の権利)との関係が稀薄である点を指摘し、強い反対論を展開した。

最終的に附則 2 条は、漫画・アニメ等の創作物が児童の権利を侵害するか否かについて「調査研究を推進し、その結果に基づき必要な措置を講ずる」旨を定める形で留保された。立法者意思としては、単純所持処罰化の対象は実在児童を撮影・録画した記録に限られることが確認された。

「準児童ポルノ」概念の不採用

立法論として、実在児童を伴わない描写であっても、児童に類似した特徴を持つ者を性的に描写した表現を「準児童ポルノ」として規制対象に含める提案が、児童保護運動の側から繰り返し提示されてきた。同概念は英国 Coroners and Justice Act 2009 における「prohibited image」、カナダ刑法 163.1 条における広範な定義等に類似する規制構想である。日本の 2014 年改正は同概念を採用せず、保護法益を実在児童に限定する立場を継続した。

将来的争点としての創作物規制

附則 2 条の留保は、将来的に創作物規制が再び立法課題として浮上する可能性を残している。2010 年代後半以降の国連子どもの権利委員会総括所見・選択議定書実施報告審査では、日本に対して創作物を含む児童ポルノ規制の強化が繰り返し勧告されてきた。これに対し、日本政府は表現の自由・芸術表現との関係を理由に慎重姿勢を維持している。創作物規制論争は、児童保護を法益とする立場と、保護法益を実在児童に限定し表現の自由を重視する立場との理論的対立を継続している。

運用上の論点

「所持」の射程

「所持」概念には、物理的占有(印刷物・記録媒体の保管)に加え、電磁的記録の支配可能性が含まれると解されている。クラウドストレージへの保存、ストリーミング視聴後のキャッシュ、ピアツーピア(P2P)ネットワークでの一時的保有等の事案では、所持の射程をどこまで広げるかが運用上の論点となる。判例・実務では、対象記録に対する継続的な支配可能性の有無を中心に判断する傾向がある要出典

自首・任意提出の取扱い

施行直後、警察庁は単純所持罪に関する全国統一的な運用方針を通達し、初回・少量・自発的廃棄等の事情がある場合には、捜査の重点を提供・製造側に置く運用を示した。これは、単純所持処罰化の主眼が需要側を抑止することによる児童虐待の抑制にあるという立法目的を踏まえた運用配慮として理解されている。

表現規制との緊張

わいせつ概念を中心とする一般わいせつ規制が、頒布・公然陳列等を中核とするのに対し、単純所持規制は私的領域に踏み込む点で性質を異にする。後者は、保護法益を「実在児童の権利」に明確化することで正当化されるが、私的所持を犯罪化する手法は刑事法の謙抑性原則との関係で議論の余地を残す。学説には、単純所持処罰化を支持する立場(児童虐待コンテンツに対する需要抑止こそが児童保護の実効性を担保するとする論)と、より限定的な構成要件(継続的所持、大量所持、配布意図推認可能な所持等)を支持する立場とが併存する。

関連項目

参考文献

  1. 『児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律』 e-Gov 法令検索 (1999) https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0100000052
  2. 『児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律(平成 26 年法律第 79 号)』 衆議院 (2014) https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/18620140625079.htm
  3. 『第 186 回国会 法務委員会 議事録』 衆議院 (2014)
  4. 『第 186 回国会 法務委員会 議事録』 参議院 (2014)
  5. 『令和 5 年における少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況』 警察庁生活安全局 (2024)
  6. 園田寿 『児童ポルノ規制と表現の自由』 日本評論社 (2008)
  7. 『子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議 行動のためのアジェンダ』 ECPAT International (1996)
  8. 森田展彰ほか 『児童虐待としての児童ポルノに関する研究』 日本子ども虐待防止学会 (2013)
  9. 『単純所持処罰化を巡る議論の経緯』 朝日新聞 (2014)
  10. 『児童ポルノ法改正案、衆院通過』 読売新聞 (2014)

別名

  • 児童ポルノ単純所持罪
  • 単純所持規制
  • simple possession
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