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山本直樹

yamamotonaoki

性表現の作家として出発し、表現規制をめぐる論争の渦中に立ちつづけた漫画家がいる。

山本直樹(やまもとなおき、英: Yamamoto Naoki、1960 年 - )とは、日本の漫画家である。性的主題を中核に据えた青年漫画作品で知られる一方、1992 年に自作『BLUE』が東京都青少年の健全な育成に関する条例(以下、東京都青少年健全育成条例)に基づく有害図書指定を受けた経緯を契機として、表現規制論争の当事者の一人として継続的に発言を行ってきた人物としても知られている。本項では、二次資料で確認可能な事実関係を中心に、業界史および表現規制史における位置づけを記述する。

概要

山本直樹は、エロ漫画とその周辺領域を出自としつつ、性表現を青年漫画の主題として再定式化した世代の作家として位置づけられる。1980 年代後半から 1990 年代にかけての有害コミック論争を経て、自身が指定対象となった当事者であるという経歴によって、作家活動と表現規制問題への発言が分かちがたく結びついた数少ない作家の一人となった。代表作には『あさってDANCE』『BLUE』『ありがとう』『ビリーバーズ』『レッド』などがあり、そのうち『レッド』は連合赤軍事件を題材とする長期連載として、第 14 回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞している(2010 年)。

性描写を含む青年漫画の文脈において先駆的位置を占めると同時に、2010 年代以降は政治・宗教・思想を主題化した社会派長編によっても評価されており、エロ漫画作家としての出自と社会派漫画家としての評価が同一の作家像のうちに併存している点に特徴がある。

略歴

出生から修業期

山本直樹は、1960 年に北海道松前郡福島町で生まれた要出典。早稲田大学教育学部国語国文学科に進学し、在学中に小池一夫が主宰する漫画家養成機関「劇画村塾」に入塾。1983 年に同大学を卒業した後、漫画家としての本格的な活動を開始した。劇画村塾は 1970 年代末から 1980 年代にかけて多数の漫画家を輩出した養成機関であり、山本もその一期生世代として、ストーリーテリングの方法論を体系的に学んだ作家の一人として位置づけられる。

デビューと別名義

1984 年、成人向け漫画誌に「森山塔」名義で作品を発表し、エロ漫画作家として職業活動を開始した。同時期に「山本直樹」名義での一般青年誌への作品発表も並行して行い、両名義が同一人物であることが、業界・読者の双方に徐々に認知されるかたちで作家活動が展開された。「森山塔」のほか、「塔山森」名義の使用も知られている。エロ漫画と青年漫画を二つの名義で書き分けるという形式は、当時の業界慣行としては必ずしも例外的ではなかったが、後年、両領域の作品が同一作家の連続的な営みとして再評価される過程で、名義の使い分けそのものが作家論の対象となった。

1980 年代のエロ漫画領域における森山塔名義の活動については、永山薫『エロマンガ・スタディーズ』(2006)が、同時期のロリコンブーム以降のエロマンガ表現の刷新を担った作家群の一人として位置づけている。米沢嘉博『戦後エロマンガ史』(2010)もまた、1980 年代後半のエロマンガ表現の質的変化を語る文脈において同名義に言及している。

山本直樹名義での青年誌進出

1980 年代後半から 1990 年代初頭にかけて、山本直樹名義での青年漫画誌への作品発表が本格化した。代表作の一つである『あさってDANCE』は、青年漫画における性描写の許容範囲を、当時の流通慣行に対して大きく押し広げた作品として参照されることが多い。続く『BLUE』(1991 年)は、後述するとおり、東京都青少年健全育成条例下の有害図書指定対象となり、表現規制論争史上の象徴的事例となった。

表現規制との関わり

『BLUE』の有害図書指定

『BLUE』は、1991 年に小学館の青年漫画誌『ビッグコミックスピリッツ』春季増刊号に発表された短編作品で、同年に光文社から単行本化された。性描写を含むことから、1992 年 3 月に東京都青少年健全育成条例に基づく有害図書(当時の名称で「有害コミック」、現在は「不健全な図書類」要出典)指定を受け、出版社による自主回収が行われた経緯が、長岡義幸『有害コミック問題を考える』(2010)などの同時代資料に記録されている。同年 10 月には、弓立社が成人向けとして復刻刊行した。

『BLUE』指定は、いわゆる「有害コミック論争」の象徴的事例として、その後の漫画表現規制をめぐる議論で繰り返し参照されることとなった。1990 年代初頭の同論争は、PTA・地方自治体・出版業界・漫画家団体・流通事業者を巻き込む全国的な広がりを見せ、表現規制を業界外から論じる論点(青少年育成、性犯罪との因果)と、業界内から論じる論点(表現の自由、編集権、流通実態)とが正面から衝突した時期にあたる。

表現規制をめぐる発言

『BLUE』指定の当事者となったことを契機として、山本直樹は 1992 年に発足した「コミック表現の自由を守る会」に参加するなど、表現規制をめぐる業界内外の議論に継続的に関わってきた要出典。一方で、いわゆる反表現規制陣営の言説を全面的に肯定する立場ではなく、規制の論点と表現の側の問題とを切り分けて論じる発言を行うことが多い点が、二次資料における山本評の特徴として指摘されている。

その後も、2008 年には『堀田』第 3 巻が東京都条例に基づく有害図書指定を受けるなど、複数回にわたって規制の対象となっている。一連の経緯は、特定作家の「事件性」というよりも、青年漫画における性表現の許容線をめぐる継続的な制度的緊張の現れとして整理されることが多い。

2010 年東京都青少年健全育成条例改正

2010 年に行われた東京都青少年健全育成条例の改正(いわゆる「非実在青少年」規定をめぐる改正)は、漫画・アニメ表現に対する規制対象の拡張可能性を含む内容であったため、漫画家・出版業界・批評家を巻き込む大規模な論争を引き起こした。山本直樹もこの改正をめぐる議論において当事者の一人として発言を行った。同論争は、永山薫・昼間たかし編『マンガ論争』、山口貴士らによる『「マンガ論争勃発」』(2007)などで継続的に扱われている。

なお、東京都の図書類指定は、刑法 175 条によるわいせつ物該当性の司法判断とは異なる行政上の制度であり、表現それ自体を全面的に禁止するものではない一方、流通段階での販売・展示を制限する効果を持つ。山本直樹の事例は、この行政規制が作家活動に対して持つ実効的影響を可視化した事例の一つとして、表現規制論において繰り返し参照されている。

主な作品

性表現を主題とする作品

  • 『あさってDANCE』 — 1989 年から 1990 年代初頭にかけて連載された青年漫画作品。性描写を伴う日常劇として、当時の青年漫画における表現の幅を押し広げた作品の一つとされる。
  • 『BLUE』 — 1991 年発表。前述のとおり東京都条例による有害図書指定の対象となり、表現規制論争の象徴的事例となった。
  • 『ありがとう』 — 2002 年から青年漫画誌で連載された長編。郊外社会の閉塞と性をめぐる関係性を主題化した作品として評価が高い。同作の後、より過激な描写を含む短編群も継続的に発表されている。

社会派長編

  • 『ビリーバーズ』 — 新興宗教教団の閉鎖的共同体を題材とする長編で、オウム真理教事件をめぐる同時代的問題意識を背景に持つ作品として論じられる。
  • 『レッド』 — 2006 年から 2018 年にかけて足かけ 13 年にわたって連載され、連合赤軍の山岳ベース事件およびあさま山荘事件に至る経緯を、史料に基づきつつ群像劇として再構成した長編。第 14 回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞(2010 年)を受賞している。

『レッド』『ビリーバーズ』のような社会派長編と、エロ漫画ないし性表現を主題とする青年漫画作品とが、同一作家の作品系列として併存している点が、山本直樹評価の中心軸の一つとなっている。永山薫『エロマンガ・スタディーズ』ほか、複数の研究文献が、性表現の文体と社会派叙述の文体とが連続的に接続している点を、山本作品の固有性として論じている。

文化的評価

業界評価

山本直樹は、性表現を主題とする青年漫画の代表的作家の一人として位置づけられると同時に、エロ漫画(成人向け漫画)領域の歴史を青年漫画史と接続する結節点的存在としても評価されている。1980 年代に「森山塔」名義でエロ漫画領域に蓄積した文体的経験が、青年漫画における性描写の質的更新に直接接続したという整理が、複数の二次資料で繰り返されている。

表現規制史における意義

『BLUE』指定をはじめとする一連の経験を通じて、山本直樹は単なる表現規制反対論者ではなく、規制と表現の両面を当事者として経験した作家として、表現規制論において固有の位置を占めている。その発言は、業界団体的言説とも、純粋な思想的言説とも異なる、作家現場からの問題提起として参照されてきた。

同人・サブカル領域との接点

同人誌文化やコミックマーケットを擁する 1980-90 年代のサブカルチャー文脈の中で、山本直樹の作品は、商業誌と同人誌の境界、エロ漫画と一般漫画の境界、フィクションと社会派叙述の境界、といった複数の境界線を越境する作家性として読まれてきた。これらの境界線は、いずれも有害コミック論争・児童ポルノ法・条例改正論争において制度的な争点として再浮上した境界線でもあり、山本作品はそれらの境界を作品内部で扱う姿勢を一貫して示してきた。

関連項目

参考文献

主要な参考文献は frontmatter の references を参照。

参考文献

  1. 永山薫 『エロマンガ・スタディーズ―「快楽装置」としての漫画入門』 イースト・プレス (2006) — 1980-90 年代エロマンガ史における山本直樹の位置づけを論じる
  2. 永山薫・昼間たかし 編 『マンガ論争』 永山薫事務所 (2009-) — 有害コミック・東京都条例改正論争を継続的に扱う論集シリーズ
  3. 長岡義幸 『有害コミック問題を考える』 ポット出版 (2010) — 1990 年代有害コミック論争の経緯を実証的にまとめた一次的記録
  4. 山口貴士・長岡義幸 ほか 『「マンガ論争勃発」』 マイクロマガジン社 (2007) — 東京都青少年健全育成条例改正論争の論点整理
  5. 米沢嘉博 『戦後エロマンガ史』 青林工藝舎 (2010) — 三流劇画ムーブから 1990 年代有害コミック論争に至る通史

別名

  • Yamamoto Naoki
  • 森山塔
  • 塔山森
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