着物
帯を解く一動作の中に、いくつもの記号が積み重なっている。日本の和装が長い歴史をかけて定型化してきた構造が、結ばれる時と解かれる時で別の意味を持つ。
着物(きもの、英: kimono)とは、日本の伝統的な衣服形式の総称である。広義には日本の伝統服装一般を指すが、現代の用法ではより狭義に和装の正装・略装(振袖・留袖・訪問着・小紋等)を指す場合が多い。襟・帯・袂(たもと)等の独自構造、左前ではなく右前(下前)で合わせる作法、対丈で仕立て上げる構造等を典型とする。成人向け表現分野では、和装フェチの中核装束として、上位概念から個別意匠までの広範な記号領域を覆う装束として独自の地位を保持する。
概要
着物の基本構造は、肩から踝に達する対丈の身頃、両側面を覆う袂、襟先で交差する襟、腰の位置で締める帯から成る。男女・身分・年齢・季節・場面に応じて、形状・素材・意匠の使い分けが体系化されている。代表的な形式として、振袖(未婚女性の正装)・留袖(既婚女性の正装)・訪問着(略礼装)・付下げ・色無地・小紋・紬等の意匠区分が並存する。
成人向け表現分野では、着物は着衣・コスプレ系の和装枝の中核装束として組み込まれてきた。人妻・義姉・義母・巫女等のキャラクター類型と組み合わさり、和装系の物語装置として広範な作品群を形成する。本記事は、成人女性ないし成人女性として描かれるキャラクターが当該装束を着用する文脈における当該記号を扱う。
語源
「着物」は和語「着る」(着用する)の連用形に「物」を付した名詞で、文字通り「着用する物」を意味する一般語である。古代から中世にかけては、衣服全般を指す広義語として用いられた。明治期以降の洋装化を経て、洋装と区別される日本固有の衣服形式を指す狭義の用法が確立し、現代に至る。
英語 kimono は、19 世紀後半以降の日本文化の海外紹介を経て、英語に借用された日本語起源の固有名詞である。欧米圏では日本の伝統服装一般を指す総称として用いられ、現代では西洋ファッションのインスピレーション源としても言及される。
「呉服」(ごふく)は、古代中国の呉国に由来する織物を指す語であり、日本では着物の素材としての絹織物・着物業界を指す慣用語として現代でも用いられる。
歴史
古代から中世
日本の衣服形式は、古代の貫頭衣・上下二部式衣装を経て、中国・朝鮮半島からの服飾文化の影響を受けつつ独自の発展を遂げた。奈良時代の養老衣服令(718 年)は、官人の服装を規定する制度的基盤として、日本の服装史における重要な分岐点である。要出典
平安時代には、貴族層の間で十二単(じゅうにひとえ)に代表される多重襲ね着の様式が発達した。庶民層では、袖の細い活動的な装束(小袖)が日常着として用いられた。中世以降、武家の台頭を背景として小袖が公的な装束としても用いられるようになり、後の着物の原型が形成される。
江戸時代の体系化
江戸時代には、現代の着物の様式がほぼ完成形に達した。男女別・身分別・場面別・季節別の意匠区分が体系化され、織・染・刺繍等の技術発展と並行して、意匠の多様化と精緻化が進んだ。武士・町人・農民・職人等の各身分が、それぞれの規範の中で着物文化を発展させた。
江戸後期から幕末にかけては、町人文化の興隆を背景として、着物意匠の華やかさが最盛期を迎える。春画・浮世絵には、当時の着物文化の意匠的多様性が記録されており、現代の和装史研究の重要資料となっている。
遊郭文化と着物は密接に結びついており、遊女の打掛・帯・髪飾り等の装いは、一般女性の流行を先導する位置にあった。江戸の華やかな着物文化の主要な担い手として、遊郭・歌舞伎・町人の三者が並列する構図が形成された。
近代以降の地位変動
明治期以降の洋装化政策と並行して、着物の日常着としての地位は徐々に縮小した。20 世紀前半までは、男女ともに日常着として着物が用いられる場面が多く残ったが、第二次大戦後の急速な生活様式の洋風化を経て、1960 年代以降に着物は特別な場面の装束へと位置を変えた。
現代では、着物は冠婚葬祭・成人式・卒業式・初詣・結婚式・伝統行事等の特別な場面の装束として用いられ、日常着としての位置は伝統文化愛好家・職業上の必要(料亭・茶道・華道・着付け師等)に限定される。それでも、着物文化は伝統工芸・伝統行事・観光・文化外交等の各文脈で継続的に維持されている。
海外での認知
着物は、ジャポニスム(19 世紀末の欧米における日本趣味)以降、日本文化を象徴する装束として国際的に認知されるに至った。20 世紀以降の世界的なファッション史の中で、着物の意匠・構造・着付け等の要素は、複数のデザイナーによって西洋ファッションのインスピレーション源として用いられている。要出典
受容心理(成人向け表現の文脈)
着物がフェチ対象として安定した地位を持つ背景には、複数の要因がある。第一に、構造的複雑さと脱衣過程の物語性がある。襟・帯・袂・帯揚げ・帯締め等の複数層から成る着物の構造は、脱衣・乱れの過程を物語装置として展開する余地を持つ。「帯が解ける」「襟元が乱れる」「袖がほどける」等の場面は、着物に固有の物語装置として機能する。
第二に、伝統的清楚さの記号と艶やかさの両立がある。着物は伝統的・公式的な装束として清楚さを記号化する一方で、襟元の白い肌・うなじ・袂から覗く手首等の限定的な肌見せが、隠すことで強調する独自の表象的効果を成立させる。
第三に、年長女性の記号としての位置がある。現代の日本社会では、着物は年長女性(人妻・義姉・義母等のキャラクター類型)の装束としてしばしば割り当てられる。年長女性の貫禄・色気・職業性等の記号と、着物の意匠が結びつく構図が、サブカル表現において定型化している。
サブカル類型
成人向け表現分野で着物が組み込まれる類型として、以下の構図が定型化している。
人妻和装系の場面構成では、和装姿の年長女性キャラクター(人妻・義母)が、和室・正座・茶道等の和装的場面と組み合わさる。和装の貫禄と艶やかさが、当該キャラクター類型の核を成す。
巫女系の場面構成では、神社・神事の場面で巫女装束(白衣・緋袴)が和装系の独自の枝として展開する。これは別記事の巫女で詳述する。
歴史物・時代劇系の場面構成では、武家の妻・町人の妻・遊女・芸妓等の歴史的キャラクター類型に着物が組み合わさる。江戸期・明治期等の歴史的時代設定が、当該装束の意匠的根拠を成す。
正月・成人式・結婚式系の場面構成では、振袖・留袖・色打掛等の華やかな正装着物が、行事の場面と組み合わさる。
派生形態
着物の主な形式区分は以下の通り。
- 振袖:未婚女性の最高位の正装。袖丈が長い
- 留袖:既婚女性の正装。袖丈が短い
- 訪問着:略礼装
- 付下げ:訪問着より格を下げた略礼装
- 色無地:無地染めの略礼装
- 小紋:細かい柄を一面に染めた普段着
- 紬:絹紬糸の織物。普段着・お洒落着
- 打掛:婚礼・舞台衣装の最上位の上掛け
- 男着物:男性用の正装・略装
- 浴衣:夏季用の単(ひとえ)の略装
関連表象
着物が組み込まれる物語装置として、和室・畳・正座・茶室・神社・温泉宿等の和装系空間が定型化している。これらの空間と着物が組み合わさることで、和装系の物語装置が完成する。
服装文脈では、浴衣・ふんどし・巫女・義姉・義母等の和装系記号・関連キャラクター類型と隣接する位置にある。装束系成人向けジャンルの中で、着物は和装系の上位概念にあたる装束として、より個別の浴衣・ふんどし・巫女装束等を内包する記号群の頂点に位置する。
関連項目
参考文献
- 『日本服飾史』 東京堂出版 (2013)
- 『Kimono: Fashioning Culture』 Yale University Press (1993)
- 『和装の社会学』 青弓社 (2015)
- 『近世服飾史』 雄山閣 (2001)
別名
- キモノ
- kimono
- 和服
- 呉服