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クィア

kuia
分類法律・社会 用例クィアとして自らを規定する」 クィア・スタディーズの研究領域」 用法名詞 最終更新 ▸ 累計 PV

クィア(くぃあ、英: queer)とは、元来「奇妙な」「変態的な」を意味する英語の蔑称が、1980 年代後半から 1990 年代の米国における性的少数者運動によって肯定的に再領有(reclamation)された語であり、規範的な性別・性的指向のカテゴリに当てはまらない者、又はそれら境界を意識的に攪乱するアイデンティティ・実践・政治的立場を総称する包括概念である。学術領域としてはクィア・スタディーズ(queer studies)・クィア理論(queer theory)を構成し、頭字語LGBTQにおける Q の語源にあたる。

語源

英語 queer は 16 世紀に低地ドイツ語 queer(横向きの、斜めの)又はドイツ語 quer(横切る、ねじれた)を語源として英語に入ったとされる。本義は「奇妙な」「変わった」「正常でない」であり、17-19 世紀には広く一般的な意味で用いられた。

19 世紀末から 20 世紀前半にかけ、性的逸脱者・同性愛者を侮蔑的に指す俗語的用法が定着した。「ストレート」(straight、まっすぐな)に対する「クィア」(斜めの、ねじれた)という対比構造は、規範的性的指向を「正しい方向」、それ以外を「歪んだもの」とみなす近代の性規範を語彙の上で固定化していた。

20 世紀半ばまで、英語圏で queer は同性愛者(特に男性同性愛者)に対する強い蔑称であり、「fag」「dyke」と同等の侮辱性を持つ語として用いられた。

再領有(reclamation)

1980 年代末の転換

エイズ危機(1981 年以降)とそれに対する米国レーガン政権の不作為は、性的少数者運動を急進化させた。1987 年に結成された ACT UP(AIDS Coalition to Unleash Power)、1990 年に結成された Queer Nation は、エイズ対策・差別撤廃を求めて直接行動を展開した中で、長らく蔑称であった queer をあえて自己呼称として奪還する戦略を採った。

Queer Nation のスローガン「We’re here, we’re queer, get used to it」(我々はここにいる、我々はクィアだ、慣れろ)は、蔑称を逆手に取って肯定的アイデンティティへと反転させる典型例であり、同様の再領有は黒人運動における「nigger」「black」、女性運動における「bitch」「slut」等にも見られる現象である。

同化主義への対抗

同時期、ゲイ・レズビアン運動の主流派が「我々も普通の人々と同じである」とする同化主義(assimilationism)的戦略をとっていたのに対し、クィア運動は「我々は規範に同化しない、規範自体を問い直す」とする反同化主義的・反規範的(antinormative)立場を打ち出した。「クィア」を名乗ることは、単なる性的少数者であることの表明にとどまらず、異性愛規範(heteronormativity)・性別二元論(gender binary)・婚姻制度・家族規範を批判する政治的立場の表明でもあった。

クィア理論(queer theory)

学術概念としての成立

学術用語としての「クィア理論」は、1990 年にカリフォルニア大学サンタクルーズ校で開催されたシンポジウムにおいて、テレサ・デ・ラウレティス(Teresa de Lauretis)が提唱したとされる。同年に出版された二つの著作 — イヴ・コゾフスキー・セジウィック(Eve Kosofsky Sedgwick)『クローゼットの認識論』(Epistemology of the Closet, 1990)、ジュディス・バトラー(Judith Butler)『ジェンダー・トラブル』(Gender Trouble, 1990)— は、クィア理論の出発点に位置づけられる。

セジウィックの貢献

セジウィックは『クローゼットの認識論』において、近代西洋文化が「同性愛/異性愛」の二項対立を前提として組織されていることを指摘し、両者の境界を可視化する装置としての「クローゼット」(隠蔽の構造)概念を提示した。同書はカフカ、メルヴィル、ジェイムズ等の文学テクストを精読し、文学・哲学・大衆文化のあらゆる領域に「同性愛/異性愛」の対立構造が潜在的に書き込まれていることを論じた。

バトラーの貢献

バトラーは『ジェンダー・トラブル』において、「ジェンダーは生物学的性別の自然な表現ではなく、反復的な行為(performative act)によって事後的に構築される」とするパフォーマティヴィティ(performativity)理論を展開した。同書は、ボーヴォワール『第二の性』のフェミニズム、フーコー『性の歴史』の権力分析、デリダの脱構築理論を綜合し、「女性」「男性」「同性愛者」「異性愛者」といった全てのアイデンティティ・カテゴリの構築性を主張した。

『ジェンダー・トラブル』(1990)、続編『問題なのは身体だ』(Bodies That Matter, 1993)はクィア理論の理論的基盤を確立し、現代ジェンダー研究・フェミニズム理論に決定的な影響を及ぼしている。

反規範性

クィア理論の核心は「反規範性」(antinormativity)である。性的指向・ジェンダー・人種・階級・障害等のあらゆる規範的カテゴリを所与のものと見なさず、それらが歴史的・社会的に構築される過程と、そこに作用する権力関係を分析対象とする。同性愛者の権利擁護にとどまらず、規範化作用そのものへの批判が学術的眼目となっている。

頭字語における Q

頭字語LGBTQ・LGBTQ+・LGBTQIA+ における Q は、文脈に応じて二義的に解釈される。

  • Queer(クィア): 既存の性的カテゴリに当てはまらない、又はそれらを意識的に攪乱する総称的アイデンティティ。
  • Questioning(クエスチョニング): 自身の性的指向・ジェンダーアイデンティティを模索中の状態。

両義性は当事者運動の中で意識的に維持されており、明確な定義よりも当事者の自己定義を尊重する姿勢が反映されている。一部の文書では「Q」を二度繰り返し「LGBTQQ」と表記することで両義を併記する例もある。

日本における受容

学術領域としての導入

日本では 1990 年代後半から英米のクィア理論が紹介され始めた。バトラー『ジェンダー・トラブル』の邦訳(青土社、1999 年)、セジウィック『男同士の絆』(Between Men, 1985 / 邦訳 名古屋大学出版会、2001 年)等の主要文献の翻訳が、学術領域の形成を支えた。

クィア学会

2007 年、日本クィア学会(現・日本クィア・スタディーズ学会)が設立され、機関誌『論叢クィア』を継続的に刊行している。同学会は社会学・文学・歴史学・人類学・法学等の領域を横断する学際的研究機関として、日本における当領域の中心的役割を担っている。

クィア映画祭

東京国際レズビアン&ゲイ映画祭(1992 年開始)は、2007 年に「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」、2017 年に「レインボー・リール東京」と改称され、日本における性的少数者を主題とする映画文化の中心となってきた。同様の映画祭は関西クィア映画祭(2005 年開始)等、各地で継続的に開催されている。

一般への浸透

2010 年代以降、日本社会でLGBTという語が一般的認知を獲得していく中で、その後段に位置する「クィア」は依然として学術用語・運動用語の色合いが強い。一般向け媒体では「LGBTQ」の Q として登場することが多く、「クィア」単独で用いられる場合は学術文脈・当事者運動の文脈に限定される傾向がある。

菊地夏野『日本のリベラリズムとクィア』(青弓社、2019 年)等は、日本社会における新自由主義的多様性言説の中でクィア概念がどのように受容・矮小化されているかを批判的に検討している。

「LGBT」との差異

包括性

LGBT・LGBTQ は具体的なアイデンティティ・カテゴリ(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー等)の頭字語であるのに対し、「クィア」はそれらを内包しつつ、頭字語の中に収まらない多様な性的アイデンティティ・実践を包摂する。アセクシュアル(他者に性的に惹かれない者)、パンセクシュアル(性別を問わない者)、ノンバイナリー(性別二元論に当てはまらない者)等、頭字語の拡張では捉えきれない多様性を、「クィア」は単一語として包摂し得る。

政治性

LGBTが個別の権利保障(同性婚、職場差別禁止、医療アクセス等)を中心に展開する権利擁護的言説であるのに対し、「クィア」は規範化作用そのものへの批判を含む政治的立場である。婚姻制度・家族規範・性別二元論を所与とせず、それらを問い直す批判的視座が「クィア」概念の核にある。

ゆえに、同性婚法制化を最終目標とする立場と、婚姻制度自体を批判するクィアな立場との間には緊張関係が存在する。クィア理論は同性愛者の婚姻参入を「規範への同化」と捉え、より根本的な制度批判を志向する立場をも包含する。

流動性

クィアは固定的アイデンティティを指す語ではなく、常に「規範からの逸脱」「規範の揺るがし」を志向する流動的概念として機能する。一個人が自らを「クィア」と名乗る場合、その内実(同性愛者か、両性愛者か、トランスジェンダーか、性別違和を持つか等)は問われない、又は問われない方が望ましいとされる。「クィア」と名乗ること自体が、既存のカテゴリ化要請への抵抗の表明として機能する場合もある。

議論

「クィア」の規範化

クィア理論が学術領域として制度化されたことに伴い、「クィア」自体が新たな規範・カテゴリとして固定化していくとの批判がある。反規範性を旨とする概念が、それ自体新たな規範になり得るというパラドックスは、クィア・スタディーズ内部における継続的な論点である要出典

商業化

2010 年代以降、企業の多様性(diversity)・包摂(inclusion)言説の中で、性的少数者の象徴がマーケティングに利用される現象が広がった。レインボーフラッグを掲げる企業の増加、プライドパレードへの企業協賛等は、性的少数者の社会的可視化に寄与した一方で、批判的政治性が骨抜きにされる「ピンクウォッシング」(pinkwashing)・「レインボーキャピタリズム」(rainbow capitalism)との批判を呼んでいる。クィア理論はこの動向を、規範化作用の現代的形態として批判的に分析している。

蔑称性の残存

英語圏では queer の再領有が広範に進んだ一方で、世代・地域・コミュニティによっては依然として侮蔑語として受容される場合がある。当事者団体・教育現場では、文脈に応じた使用上の配慮が継続的に議論されている。

関連項目

参考文献

  1. Eve Kosofsky Sedgwick 『Epistemology of the Closet』 University of California Press (1990)
  2. Judith Butler 『Gender Trouble: Feminism and the Subversion of Identity』 Routledge (1990)
  3. Judith Butler 『Bodies That Matter: On the Discursive Limits of Sex』 Routledge (1993)
  4. 菊地夏野 『日本のリベラリズムとクィア』 青弓社 (2019)
  5. 菊地夏野・堀江有里・飯野由里子 編 『クィア・スタディーズをひらく』 晃洋書房 (2019)

別名

  • Queer
  • queer
  • Q
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