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明治の性風俗

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分類歴史・文化 用例明治の性風俗を概観する」 「明治期の婚姻制度と性風俗の関係を論じる」 用法名詞・動詞 関連吉原 / 公娼制度 / 遊女 / 島原 / 私娼 / / カストリ雑誌 / 春画 最終更新 ▸ 累計 PV

明治の性風俗(めいじのせいふうぞく)とは、1868 年(明治元年)から 1912 年(明治 45 年/大正元年)に至る明治期の日本において展開した性売買・性表現・婚姻制度・身体規範の総体である。江戸期から継承された遊廓を基盤とする伝統的廓文化が、西洋近代の法制度・衛生学・キリスト教倫理・出版資本主義との接触を通じて再編成される過渡期の様態を指す。本項では、芸娼妓解放令(1872)を起点とする公娼制度の近代的整備、銘酒屋・私娼の隆盛、廃娼運動の登場、近代医学による性病管理、近代家族法の成立、雑誌メディアによる性表現の通俗化を中心に扱う。

概要

明治期の性風俗は、近世から近代への移行期における重層的な構造を呈する。第一に、近世の制度が法形式を換えて公娼制度として再編された。第二に、指定地外で営業する私娼、特に銘酒屋・銘酒屋女・茶汲女と呼ばれる業態が都市部で急速に拡大した。第三に、キリスト教団体・廃娼団体・大審院判決を背景とする廃娼運動が台頭し、女性の身体的自己決定権をめぐる議論が公共空間に登場した。第四に、ドイツ衛生学の導入により梅毒・淋病の管理が国家的事業として組織され、駆梅院・検黴所(けんばいじょ)が設置された。第五に、明治民法(1898 施行)による近代家父長制家族の確立と、それを支える「家」イデオロギーが性的規範を規定した。第六に、活版印刷の普及と新聞・雑誌メディアの拡大が、戯作的性表現から近代小説における性描写、さらには通俗的「軟派雑誌」へと、性表象を量産化した。

これらの諸要素は相互に影響を及ぼしながら、一方で近世の慣習を継承し、他方で近代国家の身体管理装置を確立する両義的構造を成した。

語源と時代区分

「明治」は元号であり、1868 年 9 月 8 日(慶応 4 年 9 月 8 日)の改元から 1912 年 7 月 30 日の明治天皇崩御までを指す。要出典 性風俗史の研究上、「明治の性風俗」という時代区分は、必ずしも元号に厳密には対応せず、幕末の開港(1859 年の横浜開港)から大正期初頭(1910 年代)までの長期的な近代化過程として捉えられることが多い。藤目ゆき(1997)は「近代公娼制」の成立を 1900 年(明治 33 年)の娼妓取締規則制定に置き、ここを画期として明治後半-大正-戦前昭和を一連の体制と扱う。

「性風俗」(せいふうぞく)の語自体は近世にも用例があるが、英語 sexuality(性的様態)・morals(風紀)・prostitution(売春)などの訳語として近代的概念に再編されたのは明治期以降である。

歴史的展開

マリア・ルス号事件と芸娼妓解放令(1872)

明治期性風俗史の出発点は、1872 年(明治 5 年)6 月のマリア・ルス号事件である。ペルー船籍の同船は横浜港に入港中、船内で虐待されていた中国人苦力(クーリー)の解放を日本側が裁定したが、ペルー側は「日本国内の遊女・芸妓も同様の身柄拘束を受けている」と反論した。国際的批判を受けた明治政府は、同年 10 月 2 日、太政官布告第 295 号(芸娼妓解放令)を発布した。同令は人身売買の禁止と娼妓・芸妓の身柄拘束の解放、年季奉公契約の無効化を定めた。

しかし司法省は翌月、貸座敷渡世規則を制定し、業者(楼主)が「座敷を貸す」業態として営業を継続することを許可した。娼妓は形式上「自由意志により貸座敷で営業する独立業者」と再定義され、実質的には前借金による経済的拘束のもとで楼主の管理下に置かれた。これは後に「牛馬解放令」と俗称された通り、家畜のごとく拘束された遊女を解放するという形式上の革新と、経済的拘束による事実上の身柄管理の継続という、明治公娼制度の二重性の起点となった。

貸座敷規則の整備(1873-1900)

1873 年(明治 6 年)以降、各府県は個別に貸座敷規則・娼妓規則を制定し、地方ごとに指定地・登録手続・税制を整備した。東京府令第 145 号(1873)を皮切りに、京都府・大阪府などが相次いで規則を制定し、近世の地区がほぼそのまま「貸座敷免許地」として再認定された。吉原島原・新町・伊勢古市・長崎丸山などが代表例である。

明治 10 年代から 20 年代にかけて、新規の指定地の認可も進み、軍隊・港湾・鉄道沿線の都市に新たな貸座敷地区が成立した。広島・呉・佐世保・舞鶴などの軍港、北海道・台湾(1895 年領有)・関東州(1905 年租借)などの植民地・準植民地にも公娼制度が移植された。

娼妓取締規則(1900)

1900 年(明治 33 年)10 月 2 日、内務省令第 44 号として娼妓取締規則が発布され、それまで各府県でばらばらであった娼妓管理が全国一元的な基準で整備された。同規則は、登録制(警察への登録と娼妓鑑札の交付)、年齢制限(満 18 歳以上)、定期性病検査、指定地内居住、自由廃業権の制度化を定めた。詳細は公娼制度の項に譲る。

同年 2 月には大審院が、娼妓の前借金契約を公序良俗違反として無効とし、本人意思による廃業を認める判決を下した。この判決は廃娼運動の法的基盤となり、自由廃業運動を全国に波及させた。

派生形態

銘酒屋と私娼の隆盛

明治期都市部、とくに東京の浅草・玉ノ井・亀戸・洲崎、関西の松島・飛田などにおいて、表向きは「銘酒屋」(めいしゅや)と称しつつ実態として性売買を行う業態が急速に拡大した。銘酒屋とは、店頭にビール・銘酒の樽を並べ、二階に「銘酒屋女」と呼ばれる女性を待機させ、客に飲酒を口実として性的接客を行わせる業態である。

銘酒屋は公娼制度の指定地外で営業する非認可業態であり、法形式上は飲食店として届け出るだけで開業可能であった。警察は風俗取締の対象としつつも、税収・労働需要・男性人口の流入などの要因により、事実上黙認した。明治後期から大正期にかけて、銘酒屋数は東京府内だけでも数千軒に達したと推計される。要出典

銘酒屋以外にも、茶汲女(ちゃくみおんな、お茶屋・水茶屋に類する業態の女性)、矢場女(やばおんな、的当て遊技場の女性)、待合茶屋の仲居、芸者(本来は芸を売る職業であるが性売買と接続する場合あり)など、多様な私娼的業態が都市の周縁部に存在した。これらは指定地公娼制度の補完装置として機能し、公娼指定地に出入りすることのできない階層の男性需要を吸収した。

軍隊と性風俗

明治政府は徴兵令(1873)・大日本帝国憲法(1889)・軍人勅諭などを通じて近代軍隊を確立した。軍は将兵の性病管理を重要課題とし、軍隊近傍に「軍隊指定」の貸座敷地区を設けた。日清戦争(1894-95)・日露戦争(1904-05)・第一次世界大戦への参加を通じて、軍隊と性風俗の制度的結合が深化し、これは後の「慰安婦」制度の前史となった(吉見 1992、林 2006)。

軍医による性病検査・治療は、ドイツ陸軍に倣った衛生体制の一環として整備され、駆梅院・隔離病舎が各地に設置された。

文化的言及

衛生学の導入と性病管理

明治政府は内務省衛生局(1875 設立)を中心に、ドイツ衛生学を導入した。ベルツ(Erwin von Bälz, 1849-1913)を東京医学校(後の東京帝大医学部)に招聘し、近代医学・衛生学の基礎を築いた。性病(花柳病・かりゅうびょう、と総称)の管理は公衆衛生の中核課題とされ、検黴所(けんばいじょ)・駆梅院などの隔離医療施設が指定地に併設された。

公娼に対する週 1-2 回の性病検査は娼妓取締規則により義務化され、陽性者は強制的に駆梅院に収容された。検査の対象は娼妓のみで、客側は対象外であった。これに対しフェミニズム的批判は、女性の身体のみを管理対象とする非対称構造を「二重基準(double standard)」として問題化した。

性病(梅毒・淋病)の罹患は明治期社会に深刻な影響を及ぼし、軍隊・遊廓・家庭を通じた感染拡大は、優生思想と結びつきつつ「民族衛生」の言説を形成した。

近代家族法と性的規範

1898 年(明治 31 年)に施行された明治民法は、近代家父長制家族(「家」制度)を法的に確立した。戸主権・家督相続・婚姻同意権・夫の妻に対する後見権などが規定され、女性の法的地位は夫・戸主に従属するものとされた。

性的規範の面では、姦通罪(刑法 183 条、1907 年制定)が妻の不貞のみを処罰し夫の不貞を不問とする非対称規定を定め、二重基準を法制度化した。同条は 1947 年に廃止された。要出典

近代家族の理想型(「良妻賢母」「家庭」)が女性誌・修身教科書を通じて流布される一方、男性の遊廓通いは「甲斐性」として黙認された。性風俗は近代家族の対極にあるのではなく、近代家族を補完する制度として機能した。

廃娼運動とキリスト教

明治 10 年代以降、キリスト教団体を中心とする廃娼運動が登場した。日本基督教婦人矯風会(1886 設立、初代会頭・矢島楫子)、救世軍(1895 来日)、廃娼期成同盟会(1893 設立)などが代表的団体である。機関誌『婦人新報』『廓清』『廃娼』を通じて、公娼制度の人権侵害性を批判し、自由廃業の支援活動を展開した。

群馬県議会の廃娼決議(1893)、神奈川県議会の決議(1934)など、地方議会レベルでは廃娼決議が相次いだ。しかし内務省は公娼制度の維持を基本方針とし続け、全国的廃止は 1946 年の GHQ 覚書を待つことになる。

雑誌メディアと性表現

明治期は活版印刷・新聞・雑誌メディアが急速に拡大した時代であり、性表現の流通形態も大きく変化した。江戸期の春画は出版法・新聞紙法・刑法 175 条(わいせつ物頒布罪、1907 年制定)などの法規制により公的流通から退場し、地下流通化した。

代わって登場したのが「軟派雑誌」と総称される通俗大衆誌である。『風俗画報』(1889 創刊)は風俗・芸能・遊廓記事を掲載し、『文芸倶楽部』『新小説』などの文芸誌は花柳小説・通俗小説を通じて性表現を量産した。明治後期には『中央公論』『太陽』など総合雑誌でも遊廓論・廃娼論が論じられ、性風俗は社会論の対象として知識人層の言説空間に入った。

文学史的には、樋口一葉『たけくらべ』(1895-96)が吉原周辺の少女を描き、永井荷風の初期作品(『地獄の花』1902 ほか)が銘酒屋・娼妓を題材とした。森鴎外『ヰタ・セクスアリス』(1909)は性的発達史を医学的視点から記述した点で画期的であった。

西洋ジェンダー観の流入

明治期には、ヴィクトリア朝英国の性的禁欲倫理、ドイツ衛生学の身体管理、フランス文学の恋愛小説、米国キリスト教の禁酒・廃娼運動など、多様な西洋的ジェンダー観・性的価値観が並行して流入した。これらは互いに矛盾しながらも、近代日本の「性」言説を構成する複数の参照系として作用した。

「恋愛」(れんあい)という訳語(love の翻訳)は明治 20 年代に定着し、北村透谷『厭世詩家と女性』(1892)などを通じて、近世の「色」「情」「執心」とは異なる近代的恋愛観念が成立した。これは性風俗の主流から距離を置いた知識人男性の理念として機能し、後の純文学・自然主義文学の系譜を準備した。

史学的論点

明治の性風俗をめぐる近年の研究は、以下のような論点を提示する。第一に、近世/近代の連続性と断絶の問題である。藤目ゆき(1997)・Stanley(2012)らは、近世の年季奉公制度が近代公娼制度に直接接続される様態を実証的に明らかにしている。第二に、ジェンダーと国家の関係である。藤野豊(2001)は、性売買が国家の制度装置として組織化されたことを「性の国家管理」と呼び、近代日本の国民国家形成過程における中心的論点とした。第三に、植民地・軍隊・性風俗の三角関係である。吉見義明(1992)・林博史ら(2006)による「慰安婦」研究は、明治期に整備された公娼制度が、後の戦時性奴隷制度の前史を成すことを論じる。第四に、メディア・出版資本主義と性表象の関係である。明治期の雑誌・新聞・小説における性表象の量産化は、現代の性表現メディアの起源として再検討されつつある。

関連項目

参考文献

  • 藤野豊『性の国家管理:買売春の近現代史』不二出版、2001 年
  • 藤目ゆき『近代日本公娼制度の社会史的研究』不二出版、1997 年
  • 吉見義明編『従軍慰安婦資料集』大月書店、1992 年
  • 林博史ほか編『日本軍「慰安婦」関係資料集成』明石書店、2006 年
  • 中山太郎『売笑三千年史』春陽堂、1927 年
  • 山本俊一『公娼制度と廃娼運動』不二出版、1983 年
  • Stanley, Amy. Selling Women: Prostitution, Markets, and the Household in Early Modern Japan. University of California Press, 2012.

参考文献

  1. 藤野豊 『性の国家管理:買売春の近現代史』 不二出版 (2001)
  2. 藤目ゆき 『近代日本公娼制度の社会史的研究』 不二出版 (1997)
  3. 吉見義明 『従軍慰安婦資料集』 大月書店 (1992) — 公娼制度を前提とした近代軍隊と性売買の連続性を論じた基礎資料
  4. 林博史 ほか 『日本軍「慰安婦」関係資料集成』 明石書店 (2006)
  5. 中山太郎 『売笑三千年史』 春陽堂 (1927)
  6. 山本俊一 『公娼制度と廃娼運動』 不二出版 (1983)
  7. Stanley, Amy 『Selling Women: Prostitution, Markets, and the Household in Early Modern Japan』 University of California Press (2012)
  8. 『明治の性』 Wikipedia 関連項目 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AC%E5%A8%BC%E5%88%B6%E5%BA%A6

別名

  • 明治時代性風俗
  • 明治期の性文化
  • Meiji period sexuality
  • Meiji-era prostitution
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