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電車の中でスマートフォンを操作する乗客の指先で、Pixiv の投稿欄やノクターンノベルズの連載がスクロールされている。あるいは Kindle 端末の画面に、商業文庫レーベルのロゴを冠さない、見知らぬ個人作家による作品が表示される。21 世紀の性愛文芸は、出版社の編集を経ない流通経路を介して、無数の書き手と読み手のあいだを直接往来している。

エロ小説(えろしょうせつ)とは、性愛描写を主たる主題とする散文作品全般を指す俗称である。日本の出版界において文庫レーベルを中核に発達した官能小説を含むが、それより広く、商業出版を経ない同人誌・ウェブ投稿小説・電子書籍個人出版(self-publishing)による作品群、および英米圏の self-published erotica や中国語圏のネット小説等、流通経路と編集形態を問わない包括的概念として用いられる。本項では、官能小説の項で扱わない領域、すなわちアマチュア・セミプロ・個人出版領域を中心に、エロ小説の概念的範囲・歴史的経緯・現代のプラットフォーム生態を扱う。

概要

エロ小説の語は、語義上は「エロを主題とする小説」であり、媒体・流通経路・編集体制を問わない包括的呼称として機能する。商業文庫レーベルから刊行される作品を指す場合は官能小説という呼称が優先される傾向にあるが、ウェブ小説・同人誌・個人電子書籍を含めた広義の総称としては「エロ小説」が日常的に用いられる要出典

語感としては、「官能小説」が出版業界用語的・やや格式ある呼称であるのに対し、「エロ小説」はより口語的・俗称的であり、読者・書き手のコミュニティ内部で慣用される要出典。「成人向け小説」「R18 小説」「18 禁小説」は、ほぼ同義の婉曲的呼称として併用される。英語圏では erotic fiction、erotic novel、erotica、smut(俗語)等が対応する語として用いられる。

範囲は曖昧で、(1) 性愛描写の比重が物語の大半を占める作品から、(2) 主筋は別にあるが性愛場面を含む作品、(3) 短編掌編から長編連載までの長さの幅、(4) 文芸性を志向する作品から純粋に興奮喚起目的の機能的散文まで、多様なグラデーションを形成する。

語源

「エロ」は英語 erotic(古典ギリシア語 Ἔρως / Eros に由来)の短縮形であり、大正期から昭和初期の日本語に外来語として定着した。1930 年前後の「エロ・グロ・ナンセンス」の流行語化を経て、性的・愛欲的という意味を担う日本語語彙となり、戦後は「エロ本」「エロ漫画」「エロ動画」等、性的表象を扱う作品ジャンルの接頭語として広く生産的に用いられている。

「エロ小説」という複合語の成立時期は不明だが、戦後カストリ期(1946–1949)前後にはすでに口語表現として用いられていたと推定される要出典。1980 年代以降の専門文庫レーベル成立に伴い、出版業界では官能小説が公式呼称として整備された一方、読者・コミュニティ層では「エロ小説」が一貫して俗称として通用し続けた。2000 年代以降のインターネット普及により、ブログ・掲示板・投稿サイト上の個人作家による作品群が「エロ小説」と自称される事例が広範に観察され、商業出版圏外を含む広義の総称としての位置を確立した。

歴史

アマチュア投稿の前史 — 投稿雑誌・同人誌(1950–1990 年代)

商業出版を経ないアマチュア書き手による性愛文芸の系譜は、戦後の SM・フェティシズム専門誌における読者投稿欄に遡ることができる。『奇譚クラブ』『裏窓』『風俗奇譚』等の専門誌は、職業作家による連載と並行して、読者からの体験記・創作短編を継続的に掲載しており、これがアマチュア書き手の発表媒体として機能した。詳細は官能小説カストリ雑誌の項を参照。

1970 年代以降、コミックマーケット(コミケ)の興隆を背景に、漫画同人誌に並行して小説同人誌(ノベル本)も発行されるようになった。アニメ・ゲーム作品の二次創作としての性愛短編、オリジナル設定の長編、SS(short story)集等が、コミケ・サンクリ等の即売会で流通した。媒体は紙のオフセット印刷・コピー本が中心で、ファンコミュニティ内部での閉鎖的流通であった。

テキストサイト・個人 HTML 期(1995–2005)

1990 年代後半のインターネット普及に伴い、個人運営のホームページ上に小説を掲載する「テキストサイト」文化が興隆した。HTML を直接書いて文章を公開するこの形式は、ウェブ初期文学全般の発表形態であったが、性愛主題の作品も少なからず含まれていた。匿名性・秘匿性が高く、検索エンジンでの可視性も限定的であった反面、商業流通を介さないアマチュア表現の場として一定の役割を果たした要出典

2002 年の『侍魂』に代表されるテキストサイトブーム、および 2004 年前後の Movable Type / WordPress 普及によるブログ化の流れのなかで、こうした個人 HTML 上の小説群はブログ形式へ、後にウェブ小説プラットフォームへと移行していった。

ウェブ小説プラットフォーム期(2004 年以降)

2004 年、Hinaproject(現・株式会社ヒナプロジェクト)の運営する小説投稿サイト「小説家になろう」が開設された。同サイトは無料登録による作品投稿・閲覧・評価機能を備え、ユーザー生成コンテンツ(UGC)型のウェブ小説プラットフォームの先駆的存在となった要出典。「なろう」本体は性愛描写を含む作品の投稿に制限を設けていたが、2010 年に成人向け派生サイトとして「ノクターンノベルズ」(男性向け R18)、続いて「ムーンライトノベルズ」(女性向け R18)、「ミッドナイトノベルズ」(短編 R18)が分離独立的に開設された。

ノクターンノベルズ・ムーンライトノベルズは、なろう系の異世界ファンタジー・転生もの・ハーレムもの等のジャンル文法を基盤としつつ、性愛描写を主筋に組み込んだ「R18 なろう系」の主要発表媒体となった。書籍化・コミカライズを経て商業展開に至る作品も多数生まれており、2010 年代後半以降の電子書籍・ライト文芸市場における重要な供給源となっている要出典

並行して、ピクシブ株式会社の運営する Pixiv のテキスト投稿機能(2010 年実装)、株式会社ハーパーコリンズ系の女性向けロマンス投稿サイト群、株式会社カクヨムの「カクヨム」(2016 年開設)等、複数のウェブ小説プラットフォームが競合的に展開された。これらの多くは性愛描写を含む作品の投稿について年齢ゲート・自己申告制等の対応を採用している。

個人電子書籍出版期(2010 年代以降)

2007 年、Amazon 社は米国で Kindle 端末を発売し、続いて 2009 年に個人作家向け電子書籍出版サービス Kindle Direct Publishing(KDP)を開始した。日本市場には 2012 年に Kindle ストアと KDP がローンチされた。KDP は出版社・編集者を介さず、個人が直接電子書籍を制作・販売できる仕組みを提供し、エロ小説領域においてもアマチュア・セミプロ作家による自家出版(self-publishing)が爆発的に拡大する基盤となった。

KDP の成人向けコンテンツ(adult content)は、Amazon の編集ガイドラインにより一部のカテゴリ(児童描写を含む作品、近親相姦の特定様式、非合意性交の肯定的描写等)が禁止されており、また検索結果の adult dungeon 化(成人向け作品が通常検索に表示されにくくなる仕様)等の措置が取られている要出典。米国市場では 2010 年代前半に self-published erotica(セルフパブリッシュド・エロティカ)が一大ジャンルを形成し、「Fifty Shades of Grey」のヒット(2011 年)以降は BDSM ロマンス、ダーク・ロマンス等のサブジャンル化が進行した。日本市場でも、商業文庫を経ずに直接 KDP で発表する個人作家層が形成されている。

楽天 Kobo Writing Life、BOOK☆WALKER の個人出版枠、DLsite の小説販売枠、FANZA の電子書籍枠等、KDP 以外のプラットフォームも個人作家の発表媒体として機能している。とりわけ DLsite と FANZA は、同人誌・同人音声と並行して同人小説の販売プラットフォームとして 2010 年代後半以降存在感を増している要出典

海外プラットフォーム

英語圏では Amazon KDP に加えて、Smashwords、Draft2Digital、Wattpad(2006 年)、Literotica(1998 年)、Archive of Our Own(AO3、2009 年)等が、エロ小説の発表・流通プラットフォームとして併存している。Literotica は無料投稿型の老舗成人向け小説サイトであり、AO3 はファンフィクション中心ながら性愛描写を含む作品を多数収録する。中国語圏では起点中文網・晋江文学城等の大手ウェブ小説プラットフォームが、規制環境のもとで成人向け作品を制限的に扱っており、Webnovel(起点海外版)等の英訳プラットフォームを介した国際流通も観察される要出典

韓国の RidiBooks、ロシア語圏の Litres、スペイン語圏の Wattpad 等、各言語圏で類似のエロ小説プラットフォームが発達しており、KDP のグローバル販売機能とあわせて、エロ小説は事実上の国際流通市場を形成している。

ジャンル分類とサブジャンル

広義のエロ小説は、流通形態・読者層・主題等の観点から多様なサブジャンルに細分化される。

流通形態による区分

(1) 商業文庫(官能小説)、(2) ウェブ投稿小説(なろう系 R18、Pixiv 投稿等)、(3) 個人電子出版(KDP・Kobo Writing Life 等)、(4) 同人小説(即売会・DLsite 等で頒布)、(5) 商業電子オリジナル(電子レーベル書下ろし)、の 5 区分がおおむね認識される。各区分は読者層・編集の介在度・経済モデルが異なる。

読者層による区分

男性向け・女性向け・ボーイズラブ(BL)・ガールズラブ(百合)の 4 区分が大別として用いられる。男性向けはなろう系ハーレムもの・人妻もの・寝取り/寝取られ系等のサブジャンルに細分化され、女性向けはロマンス系・TL(ティーンズラブ)系・乙女ゲーム転生系等に分かれる。BL・百合系のエロ小説は商業文庫・電子レーベル・同人の各層で並行的に展開される。

主題による区分

異世界転生・ハーレム・モンスター娘・人外・SF・歴史時代もの・現代恋愛・近親もの・寝取られ調教BDSMふたなり等、主題別のサブジャンル細分化はきわめて細かく、プラットフォームごとのタグ付け体系を介して読者の作品発見を支援する仕組みが整備されている。Pixiv のタグ機能、ノクターンノベルズのキーワード検索、KDP のカテゴリ階層が代表例である。

商業文庫との差異と相互関係

官能小説を主とする商業文庫レーベルとの差異は、以下の点に集約される。

第一に、編集の介在の有無。商業文庫は編集者による校閲・改稿・装丁設計を経るが、ウェブ小説・個人電子出版は原則として作家自身がすべての工程を担う。第二に、刊行のリードタイム。商業文庫は企画から刊行まで数ヶ月から年単位を要するが、ウェブ投稿は数分単位、KDP は数日単位で公開可能である。第三に、読者フィードバックの即時性。ウェブ小説は連載中に読者コメント・PV・評価を作家が観察でき、これが連載中の物語展開・性愛場面の挿入に反映されるという、紙媒体には存在し得ない動的な相互作用が成立する要出典

両者は対立関係というよりも循環的補完関係にある。ウェブ小説プラットフォームから書籍化される事例(なろう系の商業展開モデル)は、エロ小説領域でも 2010 年代後半以降一般化しており、ノクターンノベルズ発の作品が電子レーベル・紙文庫を経て商業展開するケースが多数観察される要出典。逆に、商業文庫の作家がペンネームを変えて同人・ウェブ投稿で活動する事例も少なくない。

文体・表現の傾向

ウェブ小説・個人電子出版領域のエロ小説は、商業文庫の官能小説に見られる漢字熟語多用・婉曲表現の様式美からは比較的自由である要出典。読者層・プラットフォームの慣行に応じて文体傾向は大きく異なり、(1) なろう系の口語的でテンポの速い文体、(2) Pixiv 投稿に多い断片的・詩的散文、(3) 同人小説の二次創作的口調(原作キャラクターの口調再現)、(4) KDP 個人出版の翻訳調・直接的描写、等の多様性を示す。

擬声・擬態語の頻出、章立ての短さ(ウェブ閲覧に適した一章 2000–4000 字程度)、シリーズ化・長期連載指向、タグ機能を意識した「ジャンル合致性の明示化」等が、ウェブ・電子主体のエロ小説に共有される傾向として観察される。

プラットフォームごとの規約環境

エロ小説の流通は、各プラットフォームの規約・ガイドラインに強く規定される。

ノクターンノベルズ・ムーンライトノベルズは、児童描写・実在人物の性的描写・実在の事件を題材とする作品等を禁止しており、年齢ゲート(18 歳以上の自己申告)を経て閲覧する仕様である。Pixiv は R-18 タグによる自主区分制を採用し、ログイン・年齢設定により表示を切り替える。Amazon KDP は前述の通り adult dungeon 化と一部主題の禁止を運用しており、近親相姦・非合意の特定様式・実在人物の性的描写等が削除対象となる場合がある要出典

これらの規約環境は時期により改訂され、作家・読者のコミュニティに直接影響する。2018 年の Tumblr 成人向けコンテンツ全面禁止、2020–2021 年の OnlyFans および Mastercard 等決済事業者によるアダルト規制強化等、決済・ホスティングインフラ層からの規制圧力は、エロ小説プラットフォームの運営方針にも影響を及ぼしている。詳細は隣接するゾーニング表現規制の項を参照。

文化的言及・研究

エロ小説についての学術的研究は、商業文庫の官能小説に関する永田守弘の先駆的著作(『官能小説の研究』2000)を主軸として蓄積されてきたが、ウェブ小説・個人電子出版領域については研究の蓄積が薄い。飯田一史『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房、2016)『ウェブ小説の戦略』(イースト新書、2016)はなろう系全般を対象としており、エロ小説派生サイト(ノクターン・ムーンライト)についても言及がある。

英語圏では、self-published erotica の経済的・文化的影響を扱う Alexandra Alter の New York Times 記事(2014)、デジタル文芸研究の文脈における Jeremy Rosen 等のジャンル小説研究、ファンフィクション研究の蓄積(Karen Hellekson, Kristina Busse 編『The Fan Fiction Studies Reader』2014 等)が、エロ小説の周辺領域として参照される。永山薫『エロマンガ・スタディーズ』(イースト・プレス、2006)はエロマンガを主題とするが、メディア横断的視座からエロ小説との並行関係についても示唆を与える。

関連項目

参考文献

  1. 永山薫 『エロマンガ・スタディーズ』 イースト・プレス (2006)
  2. 飯田一史 『ウェブ小説の衝撃 ネット発ヒットコンテンツのしくみ』 筑摩書房 (2016)
  3. 飯田一史 『ウェブ小説の戦略』 イースト新書 (2016)
  4. 『小説家になろう』 Wikipedia 日本語版 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E8%AA%AC%E5%AE%B6%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8D%E3%81%86
  5. 『ノクターンノベルズ』 Wikipedia 日本語版 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%83%8E%E3%83%99%E3%83%AB%E3%82%BA
  6. 『Kindle Direct Publishing Content Guidelines』 Amazon https://kdp.amazon.com/en_US/help/topic/G200672390
  7. Alter, Alexandra 『Dirty Words: The Rise of Self-Published Erotica』 The New York Times (2014) https://www.nytimes.com/2014/02/16/business/dirty-words-the-rise-of-self-published-erotica.html

別名

  • 成人向け小説
  • R18 小説
  • erotic novel
  • web エロ小説
  • 18禁小説
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