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戦後の性文化

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戦後の性文化(せんごのせいぶんか)とは、1945 年(昭和 20 年)8 月の第二次世界大戦敗戦から現代に至るまでの日本における、性をめぐる風俗業態・メディア表現・法制度・大衆心性の総体的変遷を指す概念である。占領期の特殊慰安施設協会(RAA)発足から、カストリ雑誌期、赤線地帯の終焉、ピンク映画の興隆、ロマンポルノ路線、エロ劇画期、アダルトビデオの登場、そして 2022 年(令和 4 年)のいわゆる AV 新法に至るまで、約八十年に及ぶ通時的展開を一括して捉える歴史区分として用いられる。

概要

「戦後の性文化」という語は、政治史・経済史における「戦後」(post-war period)の概念を性愛・性風俗の領域に適用したものであり、敗戦という政治的断絶を性をめぐる社会的諸制度の起点に置く歴史記述上の枠組みである。戦前の公娼制度を引き継ぎつつも、占領軍の介入・GHQ による検閲方針・1956 年(昭和 31 年)制定の売春防止法・刑法 175 条の運用変遷など、性をめぐる法制度の連続と断絶が当該期の性文化を特徴づける。

メディア史の観点では、敗戦直後のカストリ雑誌、1960 年代のピンク映画、1970 年代のロマンポルノ、エロ劇画、1980 年代のアダルトビデオへと続く系譜が連続性をもって展開し、その都度の社会状況・技術革新・規制動向と相互作用しながら現代の性表現メディアへと連なっていった。

占領期(1945–1952)

特殊慰安施設協会(RAA)

1945 年 8 月 18 日、内務省警保局は連合国軍進駐に先立ち、占領軍兵士向けの性的「慰安」施設の開設を業界団体に指示し、同月 26 日に特殊慰安施設協会(Recreation and Amusement Association, RAA)が発足した。当該協会は東京・大森小町園を皮切りに全国の進駐軍駐留地に施設を展開した。背景には、占領軍による一般女性への性暴力の発生を組織的売春により回避するという旧内務省の発想があったとされる。

RAA は 1946 年 1 月、GHQ による公娼制度廃止指令(SCAPIN-642)および性病蔓延への対策を理由に、占領軍兵士の利用が禁止される形で事実上解体された。しかし当該施設の従業員は赤線地帯の街娼へと転じ、占領期の性風俗状況の一翼を担い続けた。RAA をめぐる議論には、国策売春としての性格を強調する立場(藤野豊ら)と、女性たちの主体性・経済的選択の側面を重視する立場とが併存しており、現代の歴史研究において批判的検討の対象となっている要出典

街娼と赤線・青線

1946 年 1 月の公娼制度廃止指令以降、旧遊廓地区は形式上「特殊飲食店街」(いわゆる赤線地帯)として存続し、性売買を黙認する地帯となった。これと並行して、警察に把握されない私娼窟を「青線」と呼んだ。占領軍兵士のみを客とする女性は「オンリー」、不特定の客を路上で誘う街娼は「パンパン」と俗称され、敗戦後社会の象徴的存在として、新聞・雑誌・小説・映画に頻繁に登場した。

カストリ雑誌期

GHQ は反占領軍的・反民主主義的言説に対しては厳格な検閲(プレス・コード)を課したが、性表現・娯楽出版に対しては比較的寛容な姿勢を取った。これと用紙統制の緩和、戦時下の抑圧への反動が複合し、1946 年(昭和 21 年)頃から低品質の仙花紙に印刷された通俗雑誌群、すなわちカストリ雑誌が大量に出現した。代表誌『猟奇』『りべらる』『奇譚クラブ』『真相』『夫婦生活』などは、エロ・グロ・ナンセンスを主題とし、戦後初期の性表現の自由化と通俗化の起点を成した。

1950 年代──赤線地帯と大衆性文化

朝鮮戦争(1950–1953)による特需景気を背景に、日本の経済は復興へと向かい、性風俗業もまた一定の安定を見せた。赤線地帯は全国の都市部に存在し、東京の吉原・洲崎・新宿、大阪の松島・飛田、京都の島原・五条楽園など、近世以来の遊廓系譜と新興の戦後地区とが並存した。当該時期の赤線地帯は、写真家・林忠彦らによる記録写真、溝口健二監督『赤線地帯』(1956)などの映画作品により、現代に至るまで視覚的記録が継承されている。

売春防止法(1956 年制定・1958 年完全施行)

1956 年 5 月 24 日、性売買を全面的に違法化する売春防止法が公布された。同法は売春の勧誘・斡旋・場所提供を罰する一方、売春行為そのものは「両罰主義」を採らず売春婦のみを補導処分の対象とする構造をもち、その不徹底さが後の議論を呼んだ。1958 年 4 月 1 日の完全施行により赤線地帯は法的に廃止され、近世以来の公娼制度に連なる公的売買春の系譜は名目上終焉した。

しかし実際には、トルコ風呂(後のソープランド)、料亭、待合などの形態で性売買は継続し、1960 年代以降の風俗営業等取締法(風営法)の枠内における新たな性風俗業態へと再編されていった。

1960 年代──ピンク映画とエロの大衆化

ピンク映画の登場

1962 年(昭和 37 年)、小林悟監督『肉体の市場』が公開され、これを起点として独立系制作会社による低予算成人映画、いわゆるピンク映画のジャンルが成立した。「ピンク映画」の呼称は週刊誌記者・村井実によるとされる要出典。1960 年代後半までに年間数百本のペースで量産され、若松孝二・足立正生・神代辰巳など、後の日本映画史に大きな影響を与える作家を輩出した。当該ジャンルは、政治的前衛性と性表現の融合という、世界の成人映画史においても特異な性格を有した。

性風俗業態の再編

売春防止法施行以降、トルコ風呂・スナック・キャバレーなどの「風俗営業」枠内の業態が拡大し、性的サービスは表向き「異性間接接客」を装いつつ実態化した。これらは 1985 年(昭和 60 年)の風営法改正により「性風俗関連特殊営業」として明示的に位置づけられ、現代の風俗業態の法的基盤となった。

1970 年代──ロマンポルノとエロ劇画

ロマンポルノ路線

1971 年(昭和 46 年)、経営難に陥った日活は成人映画路線、いわゆるロマンポルノを開始した。同路線は、専属俳優・スタッフを温存しつつ低予算・短納期での制作を行い、神代辰巳・田中登・小沼勝・曽根中生など独自の作家性を持つ監督群を輩出した。芸術性と商業性の両立、検閲(刑法 175 条運用)との緊張関係の下で約 17 年にわたり継続し、1988 年(昭和 63 年)に終焉した。日本の成人映画史において制度化された大手スタジオによる成人映画路線として、世界にも例を見ない事例である。

エロ劇画の興隆

1968 年創刊の『漫画エロジェニカ』、1970 年代の『漫画大快楽』『官能劇画』など、青年向けエロ劇画雑誌が大量に発行された。これらは劇画系の写実的描線と性表現を結合させ、後のエロ漫画・成人向けコミック市場の前史を成した。

1980 年代──アダルトビデオの登場

VHS の普及と AV 産業

1980 年代初頭、家庭用ビデオデッキ(VHS / ベータマックス)の普及を背景に、ビデオパッケージとしての成人映像、すなわちアダルトビデオ(AV)が登場した。1981 年(昭和 56 年)、日本ビデオ倫理協会(ビデ倫)が設立され、性器・陰毛のモザイク処理を業界自主規制として導入した。1980 年代を通じて、にっかつビデオ・宇宙企画・クリスタル映像などのメーカーが市場を形成し、ピンク映画・ロマンポルノを上回る規模の成人映像産業へと急成長した。

当該期は本橋信宏らノンフィクション作家によりその黎明期の人物群像が記録されており、AV 監督・代々木忠、女優・黒木香、村西とおるらの活動が、後の AV 文化に大きな影響を与えた。

写真誌・エロ本の最盛期

1980 年代は同時に、『写真時代』(1981 創刊、荒木経惟・末井昭ら)、『デラベっぴん』(1985 創刊)、『スコラ』(1982 創刊)など成人雑誌の黄金期でもあった。1990 年代以降のヘア解禁(篠山紀信『水着のあとはすぐ脱げる』(1991)、樋口可南子『water fruit』(1991)等)へと連なる視覚的性表現の段階的開放が進行した。

1990 年代以降──デジタル化と多様化

1990 年代後半のインターネット普及、2000 年代の DVD・配信、2010 年代以降の VR・SNS の登場により、性表現メディアは加速度的にデジタル化・多様化した。同人誌・同人ゲームエロゲ・成人向け配信プラットフォームなど、商業 AV 産業の枠を超えた多様な表現形態が並立する状況が形成された。

一方、児童ポルノ法(1999 年制定、2014 年改正による単純所持禁止)、リベンジポルノ防止法(2014 年)、AV 出演被害防止・救済法(2022 年、いわゆる「AV 新法」)など、性表現と人権をめぐる立法が相次ぎ、性をめぐる法制度の枠組みは大きく転換した。

史学的位置づけ

戦後の性文化は、政治史・経済史・メディア史・ジェンダー史・法制史の交点に位置する複合的研究対象である。一次資料としてのカストリ雑誌・成人映画・AV パッケージ等の保存・デジタル化が、早稲田大学現代政治経済研究所、国立国会図書館、明治大学図書館などにおいて進行しており、研究環境の整備が続いている。研究上の主要争点としては、占領期の性的搾取構造、売春防止法の評価、ピンク映画・ロマンポルノの作家論、AV 産業における労働問題、そして AV 新法施行後の業界再編などがあり、いずれも継続的議論の対象である。

関連項目

参考文献

  1. 安田理央 『日本エロ本全史』 筑摩書房 (2019)
  2. 本橋信宏 『AV 黎明期の人々』 宝島社 (2014)
  3. 藤野豊 『性の国家管理――買売春の近現代史』 不二出版 (2001)
  4. Dower, John W. 『Embracing Defeat: Japan in the Wake of World War II』 W. W. Norton (1999)
  5. 加藤政洋 『敗戦と赤線――国策売春の時代』 光文社新書 (2009)
  6. 鈴木義昭 『ピンク映画水滸伝――その二十年史』 国書刊行会 (1983)

別名

  • 戦後性風俗
  • 戦後日本の性文化
  • postwar sexuality
  • postwar Japanese sexual culture
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