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ハーレムもの

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分類エロ作品 用例ハーレムものの王道展開で主人公の鈍感さに突っ込む」 逆ハーレムの乙女ゲームをアニメ化する」 用法名詞・動詞 最終更新 ▸ 累計 PV

放課後の教室、あるいは学園の屋上、あるいは下宿先の縁側。鈍感な主人公の周囲に、性格も髪色も対照的な少女たちが次々と集い、それぞれの仕方で彼に好意を寄せながら、互いに牽制しあう。彼女たちは結ばれることなく、しかし離れることもなく、物語が続く限り主人公の周囲を周回し続ける。1990 年代後半以降、日本のサブカルチャーはこの構図を一つの定型として確立した。

ハーレムもの(はーれむもの、英: harem genre)とは、1 人の主人公を複数の異性キャラクターが取り囲み、各キャラクターが主人公に対し好意・親密性・性的関心のいずれかを抱く構造を中軸に据えた物語類型の総称である。主人公が男性、取り囲むのが女性キャラクター群である場合を狭義の「ハーレムもの」と呼び、性別が反転した構造を「逆ハーレム」と呼ぶ。漫画・アニメ・ライトノベル・エロゲエロ漫画同人誌等、日本のサブカルチャー諸領域を横断する形式概念であり、特定のメディアジャンルに帰属するものではない。

概要

ハーレムものは、形式概念であってメディアジャンルではない。すなわち、特定のメディア形式(漫画、アニメ、小説、ゲーム)や特定の主題(恋愛、戦闘、日常)に閉じる概念ではなく、これら多様な表現形式の上で繰り返し再生産される物語の構造類型である。

その中核要素は次のように整理される。第一に、特異な位置に置かれた 1 人の主人公の存在。第二に、主人公の周囲に形成される複数の異性キャラクター群。第三に、各キャラクターが主人公に対し示す好意・親密性。第四に、キャラクター間の選好の競合・牽制関係。第五に、主人公が特定の 1 人を選ばず、または選ぶことを引き延ばす関係構造の維持。これら五要素のうち、特に第五の「選択の留保」がハーレムものを通常の複数プレイ的描写と区別する形式的特徴である。

ハーレムものの主人公はしばしば「鈍感」「お人好し」「無自覚」と評される性格類型を備える。これは、複数ヒロインの並列的好意という構造を物語上維持するための機能的要請であり、主人公が積極的に選好を行使すれば物語は単独ヒロインとの恋愛物語に収束してしまう。鈍感な主人公という類型の遍在は、構造の要請がキャラクター造形に投影された結果と解釈しうる。

語源

「ハーレム」(英: harem、アラビア語: حريم、ḥarīm「禁じられた場所」)は、本来オスマン帝国の宮廷あるいはイスラム圏の有力者邸宅における、夫以外の男性の立ち入りが禁じられた女性区画を指す語である。語源的には「神聖」「不可侵」を意味するアラビア語語根 ḥ-r-m に由来し、「禁忌」(ḥarām)と同根である。アラビア語・トルコ語におけるハーレムは多妻制度や性的占有の表象である以前に、女性専用の生活空間という建築・社会制度的概念であった。

近代西欧の東洋学(オリエンタリズム)は、19 世紀の絵画(ジャン=オーギュスト・ドミニク・アングル『トルコ風呂』〈1862〉、ジャン=レオン・ジェローム作品等)・文学・旅行記を通じて、ハーレムを「東洋の専制君主が多数の妾を囲う空間」として表象した。この西欧的ハーレム表象は、エドワード・サイードが『オリエンタリズム』(1978)で批判したように、東洋を性的・受動的・神秘的な他者として記述する植民地主義的言説の一部を成した要出典

日本語におけるカタカナ「ハーレム」は、20 世紀後半に上記の西欧的表象を経由して輸入され、「1 人の男性が複数の女性に囲まれている状態」の比喩として一般語化した。日本のサブカルチャー文脈における「ハーレムもの」「ハーレム展開」「ハーレム状態」等の語法は、本来の建築・制度概念から離れ、純粋に「1 人を多数が取り囲む関係性」のフォーマルな比喩として用いられている。

歴史

前史:複数ヒロイン構造の萌芽(1970–1980 年代)

ハーレムもの的構造の萌芽は、1970 年代後半から 1980 年代の漫画・アニメに見出される。高橋留美子『うる星やつら』(小学館、1978–1987)は、地球を訪れた宇宙人ラムを中心に、しのぶ・ランちゃん・サクラ等の女性キャラクターが諸星あたるを取り巻く構図を描き、後のハーレムもの諸作の祖型となった。あだち充『みゆき』『タッチ』、北条司『キャッツ・アイ』『シティーハンター』等のラブコメ・アクション作品も、複数の女性キャラクターが主人公を志向する構図を部分的に備えていた。

ただしこの時期の諸作は、後の意味での「ハーレムもの」とは形式的に区別される。1980 年代の作品は基本的に主軸となる女性キャラクター(『うる星』のラム、『タッチ』の南)が物語上特権的な位置を占め、他のキャラクターはそのライバル・周辺人物として機能する。物語の終結点で主人公が特定の 1 人と結ばれる、という単線的恋愛構造が前提として残されていた。

ジャンル成立期:OVA・ラブコメの並列ヒロイン化(1990 年代前半)

1990 年代前半、複数ヒロインを構造的に並列配置する作品群が登場する。OVA『天地無用!魎皇鬼』(1992、AIC・パイオニアLDC)は、主人公柾木天地の周囲に天女・魎呼、王女・阿重霞、博士・鷲羽、警察官・美星、その妹・砂沙美等の女性キャラクターを並列配置し、特定の 1 人を物語上特権化しない構造を採用した。本作はハーレムものの形式的祖型として、後年の批評で繰り返し参照される。同時期、藤島康介『ああっ女神さまっ』(講談社、1988–2014)、楠桂・藤島康介らのラブコメ系作品が、複数女性キャラクターと共棲する主人公という設定を継承した。

エロゲ領域では、1992 年エルフ『同級生』が、複数ヒロインの並列攻略・各ヒロインごとに用意されたシナリオ・性描写の到達点配置という構造を確立し、後のハーレムものエロゲの基礎フォーマットを定めた。『同級生』は厳密にはマルチエンディングの恋愛シミュレーションであり、1 周のプレイで複数ヒロインを同時に獲得する構造ではないが、システム上は「並列ヒロイン」という形式を提示した点で、後のハーレム展開の前提を成した。

確立期:赤松健『ラブひな』と「鈍感主人公」の定型化(1998–2002)

ハーレムものというジャンル概念の社会的定着は、赤松健『ラブひな』(講談社『週刊少年マガジン』、1998–2001)を一つの画期とする。本作は、東京大学を目指す浪人生・浦島景太郎が祖母の経営する女子寮「ひなた荘」の管理人を引き継ぎ、寮生である成瀬川なる・前原しのぶ・紺野みつね・カオラ・青山素子・乙姫むつみ等と日常的に共棲するという設定の漫画作品である。

『ラブひな』はハーレムもの形式の諸要素を体系的に組み合わせた。第一に、主人公が偶然手にした特異な立場(女子寮管理人)による複数異性との同居必然性。第二に、主人公の鈍感・お人好し性格による選好の留保。第三に、各ヒロインの並列的好意とそれを表出させる「お約束」イベント(風呂場での偶然の遭遇、転倒からのキスシーン等)の反復配置。第四に、寮という閉鎖空間における日常生活の継続。第五に、最終的に主軸ヒロイン(なる)との関係に収束する大枠の物語構造。少年誌上での同作のヒットは、ハーレム的設定が少年漫画の主流ジャンルの一つとして商業的に成立しうることを実証した。

同時期、『AYAKASHI』『天地無用!』『ナジカ電撃作戦』『りぜるまいん』等のテレビアニメ・OVA も、ハーレム的構造を中核に据えた作品として相次いで制作された。アニメ批評・ファン用語としての「ハーレムアニメ」「ハーレム展開」の語は、この時期に定着した要出典

拡張期:学園バトル・異能ハーレムの台頭(2000 年代)

2000 年代に入ると、ハーレムもの形式は学園恋愛ものの枠を越え、バトル・異能・SF 等の他ジャンルと結合した複合形式へと拡張した。矢吹健太朗・長谷見沙貴『To LOVE る -とらぶる-』(集英社『週刊少年ジャンプ』、2006–2009、続編『ダークネス』2010–2017)は、宇宙の王女ララを筆頭に、結城梨斗の周囲に多数の女性キャラクターを配置し、性的・コミカル状況の継起的反復という形式を確立した。本作は『週刊少年ジャンプ』におけるハーレムものの代表作として位置づけられ、テレビアニメ化・OVA・キャラクターグッズ展開を通じて広範な影響を持った。

弓弦イズル(著)・CHOCO(イラスト)『IS〈インフィニット・ストラトス〉』(メディアファクトリー MF 文庫 J、2009–)は、男性主人公・織斫一夏が女性しか操縦できないとされる兵器 IS の唯一の男性パイロットとして、女子だけの専門教育機関に在籍するという設定の SF ライトノベルである。本作は、ハーレムものの構造的要件である「主人公の例外性」を作中設定として明示的に組み込んだ点、ならびに学園バトル要素とハーレム展開を統合した点で、2010 年代前半のテンプレート的作品となった。テレビアニメ化(2011、2013)は商業的成功を収めた。

谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』(角川スニーカー文庫、2003–)、伏見つかさ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(電撃文庫、2008–2013)、丸戸史明『冴えない彼女の育てかた』(富士見ファンタジア文庫、2012–2017)等のライトノベル作品は、それぞれ部分的にハーレム的構造を持ちつつ、各キャラクターの内面・関係の機微を主軸に据える方向へと形式を進展させた。

エロゲエロ漫画領域でのハーレム展開(1990 年代–現在)

エロゲ領域における「ハーレム」は、複数ヒロインの並列攻略を前提としつつ、特に「全員ルート」「全員クリア後の真ルート」「全員と性的に関係を持つマルチエンディング」等の追加構造を備える作品を指して用いられる。Leaf『To Heart』(1997)、Key『AIR』(2000)等の代表的エロゲはマルチエンディング型であり、各ヒロインルートが独立しているのに対し、後発の作品群では複数ヒロインを同時に獲得する「ハーレムエンド」が独立のエンディングとして用意される事例が増加した。

エロ漫画エロ同人誌領域では、1 話完結型の短編に「主人公が複数の女性と立て続けに関係を持つ」展開を組み込む形式が一つの定型を成している。永山薫『エロマンガ・スタディーズ』(イースト・プレス、2006)はこうした形式群を「複数プレイ」「ハーレム」「種付け」等の語彙で記述し、エロ漫画が独自の物語論を発展させてきた経緯を整理している。

逆ハーレム:女性向けハーレムもの

主人公が女性、取り囲むキャラクターが男性である構造を「逆ハーレム」(reverse harem)と呼ぶ。逆ハーレム形式は、少女漫画・乙女ゲーム・女性向けライトノベル等で 1990 年代以降に発展した。コーエー『アンジェリーク』(1994、スーパーファミコン)は乙女ゲームの先駆作として、女王候補の女性主人公を 9 人の男性守護聖が支える構造を提示した。続くルビー・パーティーの『遥かなる時空の中で』(2000–)・『金色のコルダ』(2003–)等は、逆ハーレム形式を商業ジャンルとして確立した。

少女漫画では、樋野まつり『学園アリス』、種村有菜・水波風南らの諸作、近年では Bisco Hatori『桜蘭高校ホスト部』(白泉社『LaLa』、2002–2010)等が、逆ハーレム的構造を採用ないし応用した。アニメ化された『遙かなる時空の中で』『金色のコルダ』『桜蘭高校ホスト部』『DIABOLIK LOVERS』等は、逆ハーレムの一般的認知を広げた。

逆ハーレムは構造的にハーレムと対称形を成すが、文化的含意は単純な反転ではない。男性中心的ハーレムが「占有」「収集」「並列保持」の含意を持つのに対し、逆ハーレムは「選択の留保」「複数の親密性の併存」を主軸に据えることが多い、と批評史上は整理されている要出典

構造論

ハーレムもの作品の物語構造は、批評上いくつかのテンプレートとして類型化されている。

主人公モノローグ型: 主人公の一人称的視点を中心に据え、内面の鈍感さ・無自覚さを読者に提示する形式。ライトノベル系のハーレムものに多く、主人公の性格類型と物語構造の整合性を内側から保証する。

学園日常型: 学園・寮・下宿等の閉鎖空間に主人公とヒロインを共棲させ、日常的接触の継起的反復を描く形式。『ラブひな』『ストロベリー・パニック!』等が典型。

異能・バトル型: 主人公の例外性(唯一の能力者、選ばれた血統等)を物語設定として組み込み、その例外性ゆえに女性キャラクターが集まるという因果を提示する形式。『IS〈インフィニット・ストラトス〉』『鋼殻のレギオス』等が典型。

異世界・転生型: 2010 年代後半以降の web 小説・なろう系ライトノベルに頻出する形式。異世界転生・召喚を介して主人公が特異な能力・地位を獲得し、結果として複数ヒロインから愛慕される構図を描く。

イベント反復型: 主人公とヒロインの間で起こる「お約束」イベント(偶然の接触、衣装的露出、感情的接近等)を継起的に反復配置する。短期的高密度の接触を主眼とし、長期的物語進行よりエピソード単位の感情的起伏を優先する。

これらの類型は相互排他的ではなく、多くの作品が複数の型を組み合わせて構成される。

文化人類学的・社会学的考察

ハーレムものは、現代日本のサブカルチャー研究の主要対象の一つである。

東浩紀『動物化するポストモダン』(講談社現代新書、2001)は、1990 年代以降のオタク文化を「物語消費からデータベース消費へ」のパラダイム転換として捉え、その典型として美少女ゲーム・ラブコメのキャラクター並列配置を論じた。ハーレムものの構造は、このデータベース消費論の枠組みにおいて、「主人公=空席」「ヒロイン群=データベース」の関係として再記述される。

本田透『電波男』(三才ブックス、2005)は、ハーレム的構造を含む二次元キャラクターへの愛情を「脳内恋愛」として肯定する立場から、現実恋愛市場における自身の劣位を逆説的に擁護する一種の宣言文学として読まれた。本書はハーレムものの享受心理の社会的記述として、当時のオタク男性の自意識を象徴する文書と位置づけられる。

永山薫『エロマンガ・スタディーズ』(イースト・プレス、2006)は、エロ漫画の表現史を体系的に記述する大著として、ハーレム展開・複数プレイ・種付け等の物語形式を、エロ表現論の中で位置づけた。

伊藤剛『テヅカ・イズ・デッド』(NTT 出版、2005)は、漫画表現論の刷新を目論む書として、キャラクター(造形・記号)とキャラ(物語的主体)の区別を導入した。この区別はハーレムもののヒロイン群を「キャラの集合」として記述する理論的視座を与えるものとして、後年の批評で参照される。

岡田斗司夫『オタク学入門』(太田出版、1996)は、ハーレム的構造を直接の主題とはしないものの、1990 年代オタク文化の自意識を素描する文献として、複数ヒロイン受容の文化的背景を理解する上で参照される。

ハーレムものの構造は、近代以前の物語(『源氏物語』『金瓶梅』等の多妻・多妾物語)、19 世紀の西欧オリエンタリズム文学(ハーレムを舞台とする旅行記・小説)、現代日本のサブカルチャー作品という三つの系譜の交点に位置する、と通史的には整理しうる。ただし現代日本のハーレムものは、前二者と異なり「性的占有」よりも「選択の留保による感情的並列性」を主軸に据える点で形式的に区別される。

評価と批判

ハーレムものは、その形式的反復性ゆえに、批評上評価が分かれてきたジャンルでもある。肯定的評価は、ハーレム構造を「複数の親密性の同時的提示」として捉え、近代的な単一恋愛規範に対する形式的相対化を読み取る立場である。否定的評価は、ハーレム構造を「男性主人公の自意識を充足させるための女性キャラクターの道具化」として批判する立場で、フェミニズム批評の文脈で繰り返し指摘されてきた要出典

両評価は実は構造の同じ一面を別の角度から記述したものであり、ハーレムものというジャンル形式は、近代恋愛規範に対する形式的逸脱としての性格と、男性中心的視座の制度的反復としての性格を、不可分に併存させていると解釈できる。

関連項目

参考文献

  1. 本田透 『電波男』 三才ブックス (2005)
  2. 永山薫 『エロマンガ・スタディーズ 「快楽装置」としての漫画入門』 イースト・プレス (2006)
  3. 東浩紀 『動物化するポストモダン オタクから見た日本社会』 講談社現代新書 (2001)
  4. 宮台真司・石原英樹・大塚明子 『サブカルチャー神話解体 少女・音楽・マンガ・性の変容と現在』 PARCO 出版 (1993)
  5. 斎藤環 『戦闘美少女の精神分析』 太田出版 (2000)
  6. 伊藤剛 『テヅカ・イズ・デッド ひらかれたマンガ表現論へ』 NTT 出版 (2005)
  7. 岡田斗司夫 『オタク学入門』 太田出版 (1996)

別名

  • ハーレム
  • ハーレムアニメ
  • ハーレム漫画
  • harem genre
  • harem
  • 逆ハーレム
  • reverse harem
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