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色男・色女

irootoko・iroonna

色男・色女(いろおとこ・いろおんな)とは、容姿の美と恋愛の技巧を併せ備えた人物を指す日本の文化的類型である。江戸期の浄瑠璃・歌舞伎における恋愛役の役柄類型として制度化され、二枚目・若女形などの舞台慣行と結びついて成熟した。井原西鶴の『好色一代男』『好色一代女』、近松門左衛門の世話物、浮世絵師の役者絵を経由して視覚的・文学的な規範が固定化し、近代以降の大衆小説・映画・テレビドラマ・週刊誌の恋愛主人公像へと継承された。本項は語源、近世における類型化、文学・絵画における具体像、近代以降の継承を順に扱う。

概要

色男・色女は、単に容姿の優れた人物を指すのではなく、恋愛の場面における立ち居振る舞い、衣装の趣味、言葉づかい、相手の心情を読む細やかさといった、所作と教養の総体として観念された類型である。佐伯順子は『遊女の文化史』(1987)において、近世日本における「色」が単なる性的魅力ではなく、芸能・文芸・服飾を横断する美的範疇として機能した点を強調している。

「色」の語は、恋愛の対象となる相手の容姿と、それを愛でる者の感受性、双方を同時に指し示す。したがって色男・色女とは、見られる対象であると同時に、見る目を備えた主体としても観念された。田中優子『江戸の女』(1994)は、近世女性が単なる被視対象に留まらず、自ら「色」を選ぶ主体として遊里の作法に参与していた事実を指摘する。

「色」の概念史

古代における「色」

「色」は古くから容姿・色彩・男女の情を併せ示す語であった。『万葉集』には「色」を恋情と容姿の双方の意で用いる用例が多数残り、色彩感覚と性愛感情が未分化のまま「色」の一語に集約されていた。平安期の和歌・物語文学において「色好み」は、単なる好色漢を指す語ではなく、四季の移ろいや風物への鋭い感受性を備えた風雅人を意味した。光源氏が代表する「色好み」は、容姿の美と教養、和歌・管絃の技、恋情の機微を一体として備える存在であり、後世の色男像の原型となった要出典

中世から近世へ

中世になると、「色」は次第に性愛の意味を強めるが、なお容姿・雅趣の含意を失わなかった。連歌・能楽の語彙に残る「色」の用例は、恋情と美的趣味の重なりを保ち続けている。吉田博『色 — 日本人の感覚』(1985)は、日本語の「色」が中国語の「色」(性愛・容姿)とギリシャ語の「エロス」(性愛・憧憬)とを跨ぐ独自の概念領域を成し、近世に至って「色道」という体系化された範疇を形成した過程を論じている。

近世の「色道」と類型化

近世に入ると、藤本箕山『色道大鏡』(1678)に代表される色道書の登場により、「色」は遊里を中核とする芸事・諸礼・教養を伴う「道」として体系化された。色男・色女はこの「色道」の理想を体現する人物像として、文芸・舞台・絵画にわたり類型化された。とりわけ遊廓文化の成熟は、客の側に求められる作法を「色男」の条件として定式化し、遊女の側にも「色女」たる立ち居振る舞いを求めた。

浄瑠璃・歌舞伎における恋愛役

二枚目の成立

歌舞伎の役柄分類において、立役を「一枚目」、若く美しい恋愛役を「二枚目」、道化役を「三枚目」とする慣行は、近世後期の上方の芝居小屋で看板の序列として成立したと伝えられる。二枚目は、優男(やさおとこ)・和事師(わごとし)とも呼ばれ、立役の豪壮な「荒事」に対し、繊細・優美な「和事」を所作の基本とした。坂田藤十郎(初代、1647-1709)の上方和事は、後世の二枚目像の規範となり、廓に通う若旦那、心中に走る町人、遊女と契りを交わす役者として、江戸時代を通じて再生産された。

若女形と色女

歌舞伎における女性役は若女形(わかおんながた)が担い、舞台上の色女像の典型を形作った。瀬川菊之丞(初代、1693-1749)、岩井半四郎の系譜による若女形は、遊女・町娘・武家娘などの役柄を演じ分けつつ、共通の「色」を体現する所作の作法を磨いた。芳澤あやめ(初代、1673-1729)が口述したと伝えられる『あやめぐさ』は、女形の心得として日常生活までも女として過ごすべしと説き、色女の体現が単なる演技を超えた身体的修練として理解されていたことを示す。

近松門左衛門の世話物

近松門左衛門(1653-1725)の世話物浄瑠璃は、色男と色女を中核とする近世悲恋劇の到達点である。『曽根崎心中』(1703)の徳兵衛と遊女お初、『心中天網島』(1720)の紙屋治兵衛と遊女小春、『冥途の飛脚』(1711)の忠兵衛と遊女梅川は、いずれも商家の若旦那と廓の遊女が、家制度と恋情の板挟みの末に心中・破滅へ至る物語である。これらの恋愛主人公は、単なる美男美女ではなく、義理と人情の狭間で苦悩する「色」の体現者として描かれ、近世大衆の感情移入の対象となった。

西鶴『好色一代男』『好色一代女』

世之介という色男像

井原西鶴が 1682 年(天和 2 年)に刊行した『好色一代男』は、近世における色男像を文学的に確立した作品である。主人公の世之介は、7 歳で乳母に懸想する早熟さで物語が始まり、60 歳に至るまで生涯を恋愛に費やす。本文中で世之介が関係を結んだとされる女性は 3,742 人、少年は 725 人と記される。この数の誇張は写実ではなく、近世町人の理想とする「色男」の象徴的極北を示すものとして読まれた。

世之介像が画期的であったのは、貴族的な「色好み」の系譜と、町人的な経済感覚・実務能力を結合させた点である。世之介は遊里での所作を心得ると同時に、商家の運営にも長け、晩年には遊女のみを集めた「女護島」へ船出する。佐伯順子は、世之介像が中世以前の貴族的色好みを町人的に「世俗化」した転換点であると位置づけている。

一代女と色女像

『好色一代女』(1686)の主人公は、武家の娘として生まれ、御殿女中・遊女・町家の妾・町芸者・髪結の妻などを経て、最後は野非人として身を朽ちさせる女性である。本作は色女の栄華と転落を一代記として描き、近世初期の女性が辿りうる多様な性労働の現実を文学的に縮約した。一代女は単なる美女ではなく、自らの「色」を経済的・社会的資源として運用し、最終的にその回路から脱落する主体として描かれる。

男色大鑑

西鶴は『男色大鑑』(1687)において、武家衆道と町人若衆好みの双方を題材とし、色男像の射程を異性愛に限定しないことを示した。陰間・若衆を「色」の対象とする近世の文化的視野が、本作によって文学的に総括されている。

浮世絵における色男像

役者絵の系譜

浮世絵の役者絵は、舞台上の二枚目を視覚的規範として庶民に流布した。鳥居清信に始まる鳥居派の役者絵は、初期の荒事中心の様式から次第に二枚目像を取り込み、勝川春章の似絵的役者絵を経て、東洲斎写楽の極端な誇張表現に至る。1794 年(寛政 6 年)に蔦屋重三郎が刊行した写楽の大首絵 28 枚は、二枚目役者の特徴を誇張して描き、当時の観客に強い違和を与えたものの、後世の役者絵史上の頂点と評価されている。

歌川国貞(三代豊国、1786-1865)は、約 60 年にわたる活動期間に膨大な数の役者絵を生産し、江戸後期の二枚目像の標準を視覚的に固定した絵師である。市川團十郎、中村歌右衛門、坂東三津五郎などの当代花形を、襟元の崩し方、刀の差し方、視線の角度に至る細部まで「色」の所作として描き、現代に至る歌舞伎の二枚目像のイメージ形成に寄与した。

美人画と色女像

色女像は、鈴木春信の見立絵、鳥居清長の長身美人、喜多川歌麿の大首美人、渓斎英泉の頽廃的美人など、近世美人画の系譜のなかで多彩に展開した。とりわけ歌麿『婦人相学十躰』『歌撰恋之部』は、女性の表情と心情の機微を画中に取り込み、色女を単なる被視対象から内面を備えた存在として描き出した点で画期をなす。

春画における色男・色女

春画においても、色男・色女は中心的な主題であった。菱川師宣『恋のむつごと四十八手』、歌麿『歌まくら』、北斎『喜能会之故真通』に登場する人物像は、舞台や美人画の二枚目・若女形像と共通する所作・衣装・表情を備え、現実の遊里や町家に生きる「色」の体現者として描かれている。

近代以降の継承

大衆小説と色男像

明治・大正期の大衆小説は、近世の色男像を継承しつつ、近代的恋愛観念と接合した。尾崎紅葉『金色夜叉』(1897-1903)の貫一、徳富蘆花『不如帰』(1898-1899)の武男、菊池寛『真珠夫人』(1920)の渥美信一郎などは、いずれも近世の二枚目を近代風俗のなかに翻訳した存在として読むことができる。江戸川乱歩『黒蜥蜴』『黄金仮面』に登場する明智小五郎像は、推理を行う知性と色男的容姿を結合させた近代的類型として、戦前・戦後の大衆文化に大きな影響を与えた。

映画・テレビにおける継承

戦後日本の映画・テレビは、長谷川一夫、市川雷蔵、石原裕次郎、加山雄三、田宮二郎などの「二枚目俳優」の系譜を生み出した。これらの俳優像は、歌舞伎の二枚目から直接の系譜的連続性を持ちつつ、現代の都市的恋愛劇のなかに色男像を翻案した存在である。テレビドラマにおいても、トレンディドラマと総称された 1980 年代後半から 1990 年代の作品群が、現代風俗のなかに色男・色女の類型を再生産した。

週刊誌・タブロイドの言説

週刊誌・タブロイド紙の芸能報道は、現代における色男像の主要な再生産装置である。「色男」「モテ男」「プレイボーイ」などの語が、芸能人・スポーツ選手・財界人の私生活を語る文脈で頻用され、近世の世之介的人物像が現代風俗のなかで反復されている。同時に、こうした言説は当事者の私生活への介入や、相手側女性への二次的被害を招きうる点で、社会的に批判的な検討を要する側面も併せ持つ。

漫画・アニメ・ゲーム

少女漫画・恋愛シミュレーションゲーム・美少女を主題とするメディアは、近世以来の色男・色女像を視覚的に継承する現代の主要な媒体である。乙女ゲームに登場する攻略対象キャラクターは、二枚目・若女形像の現代的変奏として読むことが可能であり、近世の役者絵・美人画と機能的に対応する位置を占めている。

文化史的意義

色男・色女の類型は、近世日本の恋愛・性愛が単なる生理現象ではなく、芸能・文学・絵画・服飾を横断する美的範疇として観念されたことを示している。容姿の美が所作・教養・趣味と一体となって理解された点、その類型が異性愛のみならず男色・衆道にも及んだ点、対象であると同時に主体としても色男・色女が観念された点は、近世日本の性文化の特質を映し出している。

近代以降の社会変動を経ても、色男・色女の類型は媒体を変えつつ存続し、歌舞伎の若旦那像から現代のテレビドラマの主人公像までを貫く長い系譜を形成してきた。この持続性は、容姿と所作の組み合わせとして恋愛主体を理解する文化的傾向が、日本の大衆文化のなかに深く根付いていることを示している要出典

関連項目

参考文献

  1. 井原西鶴 『好色一代男』 (1682)
  2. 井原西鶴 『好色一代女』 (1686)
  3. 佐伯順子 『遊女の文化史』 中央公論社 (1987)
  4. 田中優子 『江戸の女』 集英社 (1994)
  5. 吉田博 『色 — 日本人の感覚』 岩波書店 (1985)
  6. 井原西鶴 『好色一代男(岩波文庫版)』 岩波書店 (1959)
  7. 戸板康二 『歌舞伎入門』 岩波新書 (1958)

別名

  • 色男
  • 色女
  • いろおとこ
  • いろおんな
  • lover archetype
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